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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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エピローグ その10

 怜央もしのぶも佐奈の見上げる先で戦っている。


 佐奈にはある作戦を授けられている。そうでなければ佐奈も万里奈ちゃんに頼み、怜央に加勢している。だから佐奈は見守らなくてはならないのだ。


 ぎゅっと強く武器を握りしめ、そのチャンスをうかがう。怜央の努力を無駄にしないために、ただじっと。


「怜央君、頑張って……」


 戦い続ける怜央に佐奈はただ今は応援することしかできない。しかし、佐奈は今見た光景に疑問を感じていた。




 怜央はしのぶの攻撃に応戦しながらまだ必死に考えている。


 しのぶの唱えた魔法は“神の瞳のみが全てを見通す”だったはずだ。つまり目に関連する魔法であるはずだ。しかし、さっきの現象はしのぶが加速していた。どうしてもその二つが結び付かない。


 あれ以来、しのぶはさっきの魔法を使っていない。しかし、警戒を怠るわけにはいかない。先ほどの加速を避けるためには事前に意識しなければならないからだ。


「なかなかしのぐね。これが腕前の差かな?」


 そう言いながらしのぶは棒の剣を振り上げ、怜央を下から切り裂こうとする。それをはじきながら、怜央は距離をとろうとする。しかし、しのぶはそれを許さない。


 しのぶの攻撃はまるで曲芸のようだ。怜央はどうしても地面を下にしなければ攻撃できないが、しのぶは上下左右関係なく攻撃を繰り出してくる。それに対処するだけで反撃の機会を怜央はなかなか得られなかった。


「埒が明かないね」


 しのぶはそう言って距離をとる。さっきの攻撃が来るのではないかと怜央は警戒した。


「違うよ」


 しのぶは怜央の心を見透かしたようにそう言い、違う魔法を発動する。


「プログラムナンバー2“神の槍は万物を貫く”」


 それはこちらには効果がないとわかっているはずの魔法だった。しかし同時に、怜央が待ち望んでいた魔法だった。


 怜央はすぐに降下しながら蛇行飛行を始める。ビルの合間を縫うように、的を絞らせないように飛び回る。


「無駄だよ、そんなことしても」


「プログラム認証。発動します」


 しのぶの魔法は標的を固定する。場所ではなく、ものに対して固定する魔法だ。そして、その辺りに向かって無数のナイフが高速で飛んでいく。細部が適当なのは、本来直接標的に当てる必要がなかったからだろう。


 その辺にしか飛んでいかない魔法が発動し、蛇行飛行する怜央に襲い掛かる。


 怜央はそのままビルの陰に飛び込んだ。その瞬間、ビルを閃光が貫き、崩壊させていく。


 土埃が舞い、視界を遮った。


 そんな中でも怜央は無傷だった。かすり傷さえ怜央は負っていない。偶然の連続により、怜央は必然でしか傷を負わない。


 怜央からは土埃で何も見えなくなったが、それは向こうも同じと怜央はじっとそこに潜んでいた。


 土埃もはれ、視界が元に戻る。その間にしのぶは距離をとったのか、さっきよりも離れている。


「やっぱり無駄だったね。まさか破片さえも当たらないとは思わなかったけど」


 距離の割には声がよく聞こえ、音源が別の場所にあるのではという錯覚に陥る。これも何かの魔法だろうか。


「俺もそれは予想外だった。擦り傷くらいは出来ると思ったんだけどな」


 しかしこの結果はほぼ怜央の予想した通り。そしてこの結果はこれで作戦が実行できるということでもあった。


「飛び道具は無駄だけど、牽制くらいには使えるかな」


 確かにいきなり閃光を伴う何かが飛来してこれば下手な動きはできない。これは人が持つ反射にも似た自己防衛行動だ。そう簡単には抗えない。現に今怜央は当たらないとわかりながらもあまり動くことができなかった。


「そうだな。わかっていれば、避けられそうだけどなんだけどな」


「その辺はうまく使っていくよ」


 会話が途切れ、怜央は刀を構える。佐奈に作戦決行をどう伝えようと考えながら。


 傷は痛むが、思ったよりも動きに支障はない。麻痺しているのかもしれないが、今はそれでもよかった。


「さぁ、再開と行こうか」


 しのぶもあわせて棒の剣を構える。そして動き出そうとした、その瞬間だった。


「怜央君! なんで目の前にいるのに攻撃しないの!?」


 その佐奈の叫びに先に反応したのはしのぶだった。驚いたように一気に後退する姿勢になる。本来その姿勢に意味はないのだが、とっさのことで思わずそう動いてしまったのだろう。


 少し遅れて怜央は佐奈の言っている意味を理解し、しのぶに向かって移動しながら刀を袈裟斬りに振り下ろす。すると、腕が、刀が、しのぶに届きそうになるほどに伸びる。


 その現象に驚きながらもしかし、ただ自分の眼ではなく、感覚を信じて振りぬく。刀はしのぶの左肩を少し斬りつけた。


「意外に早くばれちゃったね」


 しのぶは左肩を無視し、フォーアームをいじる。すると、一瞬にしてしのぶとの距離が縮まった。


「“神の瞳のみが全てを見通す”って、見通すのは周りの眼だけって意味だったのか」


「ばればれだね。加速魔法だって錯覚してくれればばれなかったのに」


「最初はそう思った。だけど、加速魔法は制御が難しいと言っていたのを思い出した。だったら、それはない。それにさっきの佐奈の言葉。それで気づくことができた」


 しのぶが使った魔法はただの錯覚魔法だった。


 光は直進しかしない。この事実を何故か人間の脳は理解でいる。そのため、屈折などによって光が折れ曲がる場合、人は勝手に直進してきたと勘違いし、距離感を間違えてしまうのだ。


 しのぶは意図的に光の速度を変化させることにより、距離感を狂わせたのだ。


「魔法の種類はもうないよな?」


「あるけど、たぶん使えないと思うから、終わりかな?」


 しのぶはフォーアームをいじる手を止めず、そのまま話す。


「じゃあ、決着をつけよう」


 怜央は最後の打ち込みのために改めて刀を握る手に力を込める。


「あぁ、その前に治させて」


 そこでしのぶの手が止まり、フォーアームから画面が起動する。不意打ちする気のなかった怜央はそれが終わるのを待つ。


「こちら現世しのぶ。ログインしのぶ、悪いけど治療してくれる?」


『こちらログインしのぶ。不可能だから、自分で何とかして』


「? 何があったの?」


『丈たちが来た。その様子だとそっちには怜央たちが来たのかな? 妥当な作戦だと思うけど、こっちは予想外の猛攻に苦戦中。切るよ』


 しのぶのフォーアームがその言葉を残し、通信が切れる。


「なるほど、二か所への同時攻撃だったんだね。確かに有効だよ」


 しのぶは左肩の出血を少しでも減らそうと押さえているが、効果は見られない。


 しかし、今のしのぶの言葉は怜央も初耳だった。しかし同時に、攻撃を仕掛けたのは丈と縁寿だということは察しがついた。あちらもあちらで勝手にログイン世界に攻撃を仕掛けていたらしい。奇しくも同時攻撃が成功していたようだ。


 思わぬ朗報に怜央はさらに気合を入れる。そして作戦を決行するなら今しかないと、佐奈に声をかける。


「佐奈! やるぞ!」


 それだけで佐奈には怜央の意図が伝わった。


 怜央は少し降下し、思いっきり振りかぶり、しのぶに向かって刀を投げ上げる。


 しのぶはその刀を当たり前のように避けた。


「何のつもり?」


「時間稼ぎだ」


 しのぶはその言葉に一瞬眉を歪めたが、その意味を理解し、振り返る。そして、怜央の言葉の意味を理解し、慌てて万里奈に近づく。


 そう、しのぶの後ろにいたのは万里奈。そこに佐奈が近づいていた。


 しのぶは今まで当然のように佐奈を警戒していたはずだ。それは、怜央と戦っている時も例外ではない。しかし、先ほどのダメージとそれを修復できないという現実のせいで少なからず動揺していたのだろう。そのせいで反応が遅れたのだ。


「せいっ!」


 佐奈の一度目の斬撃は数本のコードを切り裂く。しかしまだコードは無数に存在する。なおもコードを斬り続けるが、慣れていないのか、切れたり、切れなかったりを繰り返す。


 それを五回ほど繰り返したとき、しのぶが佐奈に近づいた。


「流石にやりすぎだよ」


 佐奈はしのぶと戦いながらコードを狙うなどという愚行は侵さない。佐奈はすぐに後退する。


「狙いはわかっていたけど、僕の目を盗んで全てのコードを斬るのは無理がない?」


 コードがしのぶと万里奈を繋いでいることは佐奈も分かっていたことだ。故にコードを切り裂く作戦は最初から織り込み済みだった。


 しかし、切り裂いたコードはまるで生き物のように動き出し、そして、元通りに繋がった。そんなあからさまな弱点をしのぶが何の対処をしていないわけがなかった。


「全て短時間に切り裂かないと自動修復するようになっているんだ。僕を無視してそれを行うのは無理を通り越して無謀だよ」


 佐奈はそれでも刀を構える。二人の作戦はまだ終わっていない。


「知ってるよ」


 その声にしのぶはまたも振り返る羽目になる。そこにいたのは当然のように怜央。


 しのぶの目に飛び込んできたのはいつの間にかしのぶに接近し、刀を振り上げている怜央だった。


 怜央は先ほど投げ上げた刀をうまくキャッチしたのだ。


「ちっ!」


 しのぶは自分を取り繕う余裕もなく舌打ちをし、体を捻って剣を斜めに振り上げ、怜央の剣をはじく。


「三段構えなんて、なかなか考えるじゃないか」


 しのぶは素直に称賛の声を送る。しかし、怜央はにやりと笑た。


 しのぶがそれを見てとっさにその場で体を横に振ったのは偶然だろう。しかし今回はそれが功を奏した。後ろから佐奈が刀を投げたのだ。


 まさかの四段構えにしのぶは肝を冷やした。今のが当たっていれば、間違いなく行動不能に陥っていたはずだからだ。


 しかし同時にしのぶはこれで勝ちを確信していた。同じ攻撃には対処できるし、それほど多くの作戦を用意しているとも思えない。これをしのぎ切った以上、もう何もないと考えたのだ。


しかし、


「しのぶ!」


 それは佐奈の刀を回避してすぐ。しのぶが体のバランスを崩しているタイミングだった。


「!」


 しのぶはその光景を見て、愕然とした。怜央は今佐奈が投げた刀をうまく掴み、斬りかかろうとしていたのだ。


 それは通常考えられない。佐奈がまっすぐ刀を投げたとしても、うまく柄をつかまなければ手を切るだけだ。しかも佐奈はまっすぐではなく、回転させながら投げていた。それを掴もうなどとは普通考えない。


 しかし、しのぶは失念していたのだ。怜央が刀をうまく掴みとれたのは偶然ではないことを。そう、この場にいる三人は、偶然などというものに傷つけられないということを。


 怜央は初めからこの事実を作戦に組み込んでいた。そうでなければ佐奈はこの作戦に同意しなかったからだ。怜央としてはそうだったらいいな程度の考えだったが、成功するのではないかとも考えていた。もし万里奈がしのぶに完全に束縛されていなければ、万里奈はそうするだろうと思っていたからだ。


 怜央は一文字に刀を振りぬき、しのぶは腹部を斬られ、落下していく。しかし途中で体勢を立て直し、万里奈の隣に着地した。怜央もゆっくり降りていき、佐奈の隣に着地する。


「これで終わりだ、しのぶ。もううまく動けないだろ」


 怜央は油断せずに刀をなお構える。


「くっ…… まだだ……まだ諦めるわけにはいかないんだ!」


 しのぶは腹部を押さえながら、それが無駄だと思いながらも立ち上がる。


「まだやるのか?」


「当然! この程度で諦めてたまるか!」


 しのぶはこの程度と言っているが、左肩に小さな切り傷、腹部を切り裂かれ、通常ならば痛みで動けないだろう。しかししのぶは痛みを意思の力だけで無視して立ち上がる。


「……そうだよな。諦められないよな」


 佐奈はもう武器を収めている。しかし怜央は武器を構え、しのぶと対峙する。


「だけど終わりだしのぶ。俺が引導を渡してやる」


「嫌だね!」


 しのぶは武器を構えてこちらに向かってくる。怜央もそれを迎え撃つように動く。


「はあああぁぁぁ!」


「やああぁぁぁぁ!」



 ビィーーーーーーーー!



 二人の武器が衝突する瞬間、辺りに機械音が響き渡る。その音は二人の動きを止めた。


「な……何の音?」


「しのぶ、これは……?」


「…………」


 しのぶは怜央の問いには答えず、無言のまま剣を収める。そして、ゆっくりと背を向け、万里奈に近づいた。


「万里奈?」


『深刻なエラーが発生しました。このプログラムは実行できません。深刻なエラーが発生しました。このプラグラムは実行できません』


「……はは、はははははははは!」


 しのぶはお腹を押さえて笑い出した。そんなしのぶを怜央と佐奈は茫然と見ている。


 ひとしきり笑うと、しのぶはぴたりと笑うのをやめた。


「やっぱり、無理だったか」


 そしてしのぶはフォーアームに手をかけた。それに怜央と佐奈が気づく。


「プログラムナンバー0“神よ。何故残酷な試練をお与えになるのですか”」


 怜央も佐奈もしのぶを止めようと動くがもう遅い。


『プログラム認証。発動します』


 その瞬間、怜央の視界の世界は色を失い、そして何も見えなくなり、意識が途切れた。

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