9話 優しさの分岐点
彼女の事を気にしつつ、午後の女子登校を果たした。
登校時は男女変わらず、自分の方を見てくる点を除けば普段と変わった様子は無かった。
そんな事を考えながらも教室へと入る。
いつも通りか、当たり前だけどな
しかし、机に鞄を置いて一息。周囲を見渡すと少し違和感を覚えた。何時もいる彼女がいない事だ。それ自体は何の問題もない筈だが……周りの生徒が妙にざわざわしている。噂話、どうも穏やかではなさそうだ。
当たり前だがこういう時に女子というのは利点がある。噂話をしているグループにそっと入る事が許されるから。
「何かあったの?」
多少怖気づきそうになったが、何も知らないと後悔しそうなので近くの席の女子2人に話しかける。
「あ、高橋さん。実は……」
昼休み始まりくらいだろうか、男性2人組が叶愛を連れて行ったそうだ。彼女は真っ青な顔していた為、これはヤバイ事なのではないかと話をしていたらしい。
そう思っても動かないのか……いや、俺も同じ立場だったら厄介事に手は出さないだろう。
自分の正義を信じる奴や馬鹿正直なアホでない限りはそんな事やる奴なんて居ないか。
まぁ
その中に俺も入るんだろうな
自虐はともかく、行くのであれば無闇に突っ込むのは得策じゃない。が……そんな悠長にしていられない様な気がしてならない。
彼女の携帯電話といい、朝の会話といい、何でこんなに悪い条件が揃う。
話してくれた彼女達にお礼を告げ、自分の席で少し深呼吸をする。
いざという時、というか今の体ではどう頑張っても男2人相手にするなんて事は出来ない。2人だけとも限らないしな。
携帯をスカートのポケットに入れて、教卓上の時計を見る。昼休みから少し経ってはいるが、まだ問題はない筈だ。
「ちっ」
何故今なのか、何故このタイミングなのか、分からない事だらけでイライラしたのか俺は自然に舌打ちしていた。
すると珍しく松本が近づいてきて少し心配する様に呟く。
「高橋さん、行く気なんだよね?危険だよ。彼女が戻るまで待ってた方が……」
「友達が大変な目に合ってるのにかもしれないのに、黙って見てろというの?」
俺は松本を見た。すると松本は目を背ける様に俯き、小声で……やっぱり高橋くんに似てるよ、と言って再び見つめ直した。
その姿に俺は思わず、笑みを浮かべて。
「大丈夫、使える手は使うもの」
「場所は体育館の何処かでって言ってたよ」
こいつも変わったな。そう思いつつ教室を後にした。
呼べる者、使えるもの全て使えば何とかなる。さて、友達を脅した罪、どう償ってもらうか。ただそこに主犯格はまだいるとは思えない。が何時かはやってもらうぞ。
体育館に行く前に寄っていく場所が1箇所程、そこへ行ってから体育館へ向かった。
はぁ面倒ごとは嫌だったのに結局行っちまうんだな。
中は変わらず静かだった、誰もいる様子は無かったが取り敢えず体育館の広い場所から彼女がいそうな場所を探す。何時もバレー部が着替えをする更衣室から声が少し漏れていて。
まぁ昼休みなんだから何処に居たって構わないと思うし、普段体育館は使用禁止にされてるからいい場所。
というか体育館の更衣室ってギャルゲーかよ、流石に俺でもあんな人目に付く所からここまで連れてくるって、やらないぞ。する気も無いけど
確証は無いが……そうだな。松本からメールが来てたな、それを利用するか。幸い携帯も一緒だしな。
『件名:すまない
そいつについていってやってくれ、保険として先生を……体育教師のあいつ辺りがいい。
頭が筋肉だが一番正義感が強いしな』
送信っと。
それとなく俺じゃない事を否定しつつ、文章考えるのは面倒だな。
さてと、この行動が吉と出るか凶と出るか、それは神のご機嫌次第ってか。まぁそもそも神なんて信じてもいないが。
突入前に中で何か行われてるであろうやり取りを聴きとる。
「な、なんなんですか……私は嫌って言ったのに」
「残念だが、拒否権は無い。そもそも俺達に言われても、な?知った事ではないし、拒否するってんなら好きにして構わないって話だしよ」
叶愛と男の声、そして高々に笑うもう1人の男。
なるほどまさかと思ったがここまで悪人っぽいのは初めて見るな。こいつらはそこまで頭が良くはなさそうだな。言動がゲスいだけだ、これなら他の不良の方がマシに見える。
呆れつつ扉を少し開けると、そこまで広くない更衣室には叶愛と4人男……4人!?
広くないと言っても10人くらいは着替えは出来る広さではあるが……これは予想外。
2人は細身、1人は大柄、もう1人は気持ち悪い太っちょ。
あぁこれあれだ、無理な奴。下手に突っ込むもんなら何されてもおかしくないわ。
「来ないで!」
「そう言わずに楽しい事しようぜ」
戦っては勝てない。
だけど時間稼ぎなら……。
勝てないのがわかる、心臓の音も大きく聞こえる程動悸もヤバイ。彼らに聞こえない様に大きく深呼吸し、覚悟を決める。
「そこで何をやっている」
気持ちだけでも、声だけでも張り詰め俺は彼女を助ける為に飛び出した。




