先生と私
「なあ、乙田」
「はい」
「なんか悩みとかあるんじゃないのか」
へ?という顔をした私に(先生は運転中だから見えてないかもしれないが)、最近のお前なんかおかしくないか?と先生は続けた。
「倒れたりしてるだろ、ほらさっきだって」
「あ、いや、あれはその・・・・・・」
「ストレスでそういう風になってるんじゃないのか。さっきの友達とのやりとり見た限りではひとまず目立ったいじめとかはないんだろうけど、わからないからな」
先生、心配してくれるんだ、と私は場違いにもほっこりしていた。
「まあ、俺じゃ言いにくいかもしれないから俺じゃなくてもいいから保健室の先生とか、別の女性の先生にでもいいから相談してみてくれ」
解決できることもあるだろうし、と先生は言う。
あ、これは私に悩みがあると確定している流れになっている。別に目立った悩みはない。そりゃ人間だから生きていると細かい小さな悩みならある。だけど先生はそう言う悩みのことを言っているのではないんだろう。強いてあげるなら、向こうの世界のことがあるけれどそれを先生に言ってもなあ。
「乙田は繊細だし、無理するなよ」
と片手は車のハンドルに置いたまま左手でポンと私の頭に触れた。
先生、優しいなあ。前の私ならドキドキして顔が真っ赤になっていたかもしれない。少し煙草の匂いのする先生の車に乗るのもすごく緊張していただろう。でも今はそうじゃない。向こうのことがあるから。ルミアスさんのことがあるから。
ルミアスさんのことを思い出し、会いたくなる。そんなに離れていないのに。今私の体はこちらにあるが、向こうの私の体はどうなっているのだろうか。
こちらは私が向こうにいる間日付は経っていないようだし、体ももちろんあったようだ。
もしかして意識だけ行き来しているのだろうか?
「乙田?」
返答がない私を変に思ったのか先生が呼び掛けてくる。
「大丈夫か、まさか酔ったのか?」
「あ、いや、そういうわけではないんですが・・・・・・」
「が?」
「先生は意識だけ別の世界に行くとかどう思いますか?」
思い切って私は訊いてみた。
「ん? どういうことだ?」
そりゃそうだ。そうなるよね。
「もし、もしですよ?」
もしを強調して私は続ける。
「ここじゃない世界に行ってしまってそこで好きな人ができたらどうします?」
先生は車を端に停めると、大丈夫か?という顔で私のことを見た。
そして私の顔が不安げだったのだろう。
ふーっと息を吐きだし、「それはゲームの世界に入り込む、とかそういう話か?」
と言った。
ゲームではないはず。私はあの人たちが出てくるゲームを知らない。でも例えるならそれが近いもかもしれないし、イメージがつかみやすいならと思って肯定した。
「まぁ、そんな感じです」
「そうだなぁ……。 俺はそんなゲームの世界に入り込むというような経験はないからなんとは言えなんがなぁ」
でも、と先生は続ける。
「人を好きになるというこは良いと思う。それが例え同じ世界でなくても。
ほら、アイドルとか2次元のキャラクターに本当に恋する、というのと似たもんだろ? もしかしたら他の大人は現実的じゃないって否定するかもしれないが俺はそうは思わない。好きになるとか夢中になるとか良いことなんじゃないかなぁ」
まぁ、俺は今はそんな感情どっか言ったけど、と先生は肩を竦めた。
「ありがとうございます」
思わず出たお礼の言葉。
「もし会話ができるなら想いを伝えてもいいんじゃないか? それより乙田でもそういうことを悩むんだなぁ」
「どういう意味ですか~?」
笑いながら尋ねる。
「だってお前、成績良いから勉強に精一杯って感じだったし」
「たしかに」
「だからこそそんな話聞けてよかったよ」
そういって先生は車を止めた。
気づいたら家に着いていた。先生にありがとうございますと伝え車を降りて、家にはいる前にまだいてくれる先生に一礼して家に入った。




