逆戻り!?
ちゅんちゅんと鳥の鳴く声。カーテンを通り抜けて差し込む光。
「んん……」
(昨日カーテン閉め忘れたっけ?)
頭にクエスチョンマークを浮かべながらゴロンと寝返りをうち、毛布にもぐり込んで眩しさから逃げようとしたときに、ふと違和感を感じた。
「あれ……? 」
(毛布の手触りがなんか違う)
そう思ってバチっと目を開けると、そこには懐かしい天井があった。この天井はサティさんのお屋敷のものではなく、自分の本当の家の天井だ。
(なに、なにが起こってるの。)
おそるおそる起き上がり、部屋を見渡す。そこはとても久しぶりに感じる、たしかに自分の部屋だった。そっと床に足を下ろし、ドアに向かう。ドアを開けてみると、そこはまたもや懐かしい廊下。ふわりと香る美味しそうな朝食の匂い。その匂いがする方へ向かって歩くと、懐かしい人の後ろ姿。
「お母さん?」
「あら、ゆみ子、起きたの。体は大丈夫? 今日の学校はどうするの? 」
「体? なんのこと?」
お母さんは訝しげな顔をして
「本当に大丈夫なの? 昨日あなた道に倒れてたところを先生に見つけてもらって運んでもらって帰ってきたのよ。ちゃんとお礼を言いなさいよ。」
そう言った。
「先生? なに先生?」
私がそう聞くとお母さんは小首を傾げながら答えた。
「えーと。ほら、あの先生よあの先生。たれ目で、たしか数学の先生! 」
(先生……!)
「制服に着替えてくる! 」
お母さんにそう言ってから、私は部屋まで走って行き急いで学校に行く準備をした。
学校にも走って行き、急いで先生を探した。すると先生はのんびりと廊下を歩いている。
「先生-! 」
「おう、おはよう」
「おはようございます!! あの、昨日……」
「ああ、そうだそうだ。体はもう大丈夫なのか? 昨日、お前道端で倒れてたんだぞ?」
「あの、そのことで聞きたいことが……」
「なんだ、どうした? 」
「私、ずっとそこにいましたか?」
そう問う私を、先生は訝しげに見た。
「はぁ? お前は道端に倒れてて、それを俺が運んだんだ。その間はずっといたぞ」
「そ、そうですか」
「なんかあったのか? 」
「いえ、なにも」
先生の問いを慌てて否定する。
「そうか、じゃあ、気をつけろよ。あぁ、そうだまた将棋の相手してくれな?」
先生はそう言って私の頭をぽんっと軽く叩いて歩いてしまった。前はその行動一つだけで、胸が熱くなって顔が赤くなって満ち足りた気分になっていたのに、どうしても今はそうはなれない。私が求めている手はこの手じゃないのかもしれない。
制服をぎゅっと握りしめて、あの手の温かさを探していた。
その日は一日中、ぼーっとしていた。向こうにいたときはすべてがキラキラして見えて楽しかったせいか、こっちにあるものに何も魅力を感じない。友達に話しかけられても「うん」としか返事をしない私に、呆れかえった友達はもう私を放置している。
帰るときだけは「気をつけて帰りなね?」と声をかけてから、きゃーきゃーと若い先生のところへ言ってしまった。
私も帰ろうかと腰を上げた、そのとき視界が揺れた。あのとき、何かにぶつかったと思ったときの衝撃。なにもぶつかってはいないはずなのに……
意識が飛ぶ少し前に「おい……」っと言いながら教室のドアから飛び込んでくる先生が見えたような気がした。
だけど、私の意識はそんなことはおかまいなしにフェードアウトしていった。
次に目覚めるときにはどちらの世界にいるんだろうか。




