鉄の靴 ~コドク~
虫責め
虫を使った拷問方法。
精神的なダメージが大きいが準備に工夫が必要。
お姉さんは明日はこの小屋に来れないそうだ。
この暑い部屋の中で水もなく一日を過ごしたら脱水症状に陥るだろうと予測したけど、私に害を与える存在であるお姉さんと会わなくてすむのだからもしかしたらその方が幸運なのかも知れなかった。
「まあ、死なないとは思うけれど、篠原さんの体力次第ね。頑張って」
お姉さんはそんなことを言う。いっそ自殺してしまった方が楽な気がする。
だけど、私が自殺したら次はシオリちゃんが殺されてしまう。
それだけは、嫌だった。
お姉さんは自殺防止だと言って私の口にタオルタイプの大きめのハンカチを詰め込んだ。
汚いぞうきんとかではなく、綺麗な新品のものだった。
それは少し嬉しかったけど、思っていた以上に苦しい。
唾液がどんどん吸われていって、口の中から潤いがなくなっていく。
お姉さんは私の様子を見ていて何を思ったかハンカチを口から出してくれた。
「……?」
「私はね、別にこれで苦しんでほしいわけじゃないのよ」
「少しは、優しいんですね」
「別に優しくはないと思うわよ。あなたには」
お姉さんはハンカチをペットボトルに入っていた水で濡らしてからもう一度私の口に詰め込んだ。
苦しいのには変わりないけど、水分が吸われていく感覚はなくなったのでさっきよりは幾分かましになった。
お姉さんは白い布を取り出し三角に折ると、私の口をそれで覆って後ろで結んだ。
家庭科の時頭につける三角巾を逆さまにして口の辺りに装着した感じだ。
その上から黄色と黒の工事現場にあるような縄で縛る。
これで口の中のものを吐き出すようなことは完全に封じられてしまった。
口からはほとんど呼吸ができず、全てが鼻呼吸になる。かなり息苦しい。
ゆっくり深く呼吸するようにしないと息切れしてしまうだろう。
そしてこの猿ぐつわを外す人はいないわけだから、もし一歩間違えれば死に直結する。
平常心を保たなければ。
お姉さんは私の目の前に三脚を立ててビデオカメラをセットし始める。
これで私の行動を記録するのだろうけど、そんなにお姉さんにとって面白いことはないような気がする。
ビデオカメラの画面を覗きながら位置を微調整すると、お姉さんは私の方をみて何か悩んでいる様子だった。
「見えない方が面白いかな?」
そう言ってバックの中からアイマスクを取り出し、私に着けた。
暗くなると時間の感覚が狂うって言われてるけど、非日常な状況に置かれている私にはあまり意味のないことなのかも知れない。
けれど、やっぱり視界がないというのは怖い。
お姉さんの足音が私から離れていき、小屋の扉を開ける音がした。
このまま行ってしまうのかと思ったけど、すぐに戻ってきた。
私の方に近づいてくる。
私の近くでしゃがみ込んだ。何となくそういう気配がする。
何をしているんだろう。
そう思っていたら左の鉄の靴の中に何かが入ってきた。
どろどろというほどではないけど粘性を持った液体だ。
温度は高くもなく低くもなく、常温という感じ。
鉄の靴は私の足のサイズよりもだいぶ大きく作られていて、隙間がたくさんあった。
その液体は私の足のいろんなところを伝うように流し込まれた。
その時点でその液体の匂いが鼻に伝わってくる。
とても甘い匂い。蜂蜜?
とても、嫌な予感がした。
右足にも同じように蜂蜜らしきものを流し込まれる。
「あら、せっかく目隠しをしたのに、もう分かっちゃったのかしら? 頭が良いって損なときもあるのね」
私の身体が緊張してるのを察したらしくお姉さんに声をかけられる。
「んー! んー!」
私は必死で首を横に振るけど、お姉さんが行動を止めるわけがないと思って諦めた。
生きるためには、呼吸を保たなければ。
私の左足に、予想通り何か小さい蠢くものがたくさん入れられる。
するとすぐ私のふくらはぎの辺りにラップのようなものを巻き付けられ、しばらく何か作業をしている。
おそらく、鉄の靴の中から出ないようにするためだろう。
虫を……
かさかさと靴の中で虫が動き回っているのが伝わってくる。
気持ち悪い。
小さいものが無数に私の足の甲を刺激する。
くすぐったいような感じがする、ただただ気持ち悪い。
それにこの虫たち、小さいとはいえ虫の中ではわりと大きめのサイズのものも混ざっているようで、
少し大きめの虫が動く感覚もある。
「ふー! ふ-! ふー!」
意識して呼吸を一定に保とうとしても生理的嫌悪感が強すぎてどうしても過呼吸気味になってしまう。
虫が私の足の甲を這い回っているのを想像してしまうと意識とは無関係に身体がビクンと跳ね上がってしまう。
だめだ、想像しちゃだめだ。
もしもこれ以上想像してしまって吐きそうにでもなったら目も当てられない。
左足の細工が終わると右の靴の中にも虫が入れられ、虫が外に出ないように細工される。
「ふー! ふー! ふ-!」
わかってはいてもどうしても気持ちが悪い。
お姉さんはその後私の腿を椅子に縛り付ける。
こうされることで私は足を大きく動かすことができなくなり、鉄の靴の中の虫を潰す動きがかなり制限されてしまった。
足首から先だけを動かして潰すしかないけど、そうすると足の裏にも虫が入り込んでしまってそれはそれでかなり気持ち悪い。
とりあえず今は足の指をきっちりと閉じて指の隙間に虫が入り込まないようにしている。
「これ、私も準備するのすごく気持ち悪かったのよ。その分、いい顔見せてね、篠原さん」
お姉さんはそう言った後、またしゃがみ込んで何かしていたみたいだけど「じゃあ、明後日まで生きていてね」といって小屋から出て行ったようだった。
私の足の中の虫たちはお腹をすかせていたのか蜂蜜を舐めているようだ。
あまり動きがないのはありがたいけど……
足の指の間に隙間ができないように力を込めているけど、汗が出てきて滑りやすくなっている。
少し油断したら指が滑って隙間ができてしまいそうだ。
できれば少しでも虫に触れられる面積を少なくしていたい。
「んっ……んっ……ずずっ……」
どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの。
そう思うと泣けてきた。
だけど呼吸方法が鼻しかない今泣きの連鎖に入ってしまうとへたしたらそのまま窒息もあり得る。
平常心。平常心。
そう心の中で何度も呟く。
苦しい、気持ち悪い、もう死にたい。
絶望的な気分で押し潰されそうになる。
長い一日の始まりだった。
かれこれ一年くらいですか。
お待たせしました。
頭の中ではずっとこの小説のこと考えてはいました。
久しぶりに開いたらコメント付いてて嬉しかったです。




