ビアンカとハッチ王子
舞踏会再開。
「どうしたんです相談役? シャンデリアは苦手かな? 」
「まさか…… あり得ない」
「おおそうだった。ですがいつもハッチ王子に頼りっぱなしでいけない」
戯言を抜かすトルド。まさか長い付き合いだと言うのに不満があるのか?
それとも痛めた傷が疼くから機嫌が悪いのか?
どちらにせよそれを私にぶつけられては困る
老人は怒りっぽい上にガミガミとうるさい。ハッチがいなければトルドなど……
いやいや一時的な感情に流されてどうする? 今更気にすることでもないさ。
「どうです相談役? あなたも舞踏会に参加されてはいかがです? 」
トルドはそう言うがもちろんその気はない。
いくら唆されてもバカを見るようなことはしたくない。
そもそもまだ表舞台に上がるには早過ぎる。もう少し様子を見守ってからでも。
それなのに急かすのだから本当に困ったものだ。
「ははは…… 本気で言ってるのか? 私は王子の相談役に過ぎないのだぞ? 」
「ほらイラっとしない。お顔に出てますよ。ちょっと聞いたまで」
「こう言うのはやはり苦手でね。分かってるだろう? 」
「ええまあ…… しかしお相手を求められたら? 」
「ありえない! まあその時は悪いが断るよ。それがこの私だからね」
「それを聞いて安心しました。ではハッチ王子の見守りを頼みましたよ」
「どこに行くトルド? 」
「もちろん怪しい人物が紛れ込んでないかのチェック。相談役はそのままで」
大人しくしてろと。自分勝手なものだな。
ではハッチ王子を見守るとするか。
どれだけ下手なんだ。令嬢の裾を引っ張って困らせてるな。
踊ればバラバラでどうにもならない。
うん? 白のドレスに身を包んだ素敵な女性がハッチ王子に向かって来る。
一体誰だ? 見惚れるほど美しい令嬢。これはまさか……
「ハッチ王子。お相手願います」
「おお…… ビアンカではないか。何と美しい」
きちんと誉め言葉を心得ている。やはり男だからきれいな女性に目がないよう。
ふふふ…… 羨ましい限り。
ハッチ王子には少々不釣り合いかもしれない。
緊張した王子はただ笑っている。もう足も手もバラバラ。
トルドが見てたら怒りを抑えきれずに真っ赤になるだろう。見回りに行って正解。
情けない姿を晒せば王子の名にも傷がつく。
ハッチだって王子なのだから少しはしっかりしろよな。
いくら無茶だと分かっていてもそう願わずにはいられない。
うん? 列ができている。当たり前か。男はハッチ王子以外には位の低い者。
即ち護衛隊のメンバーか屋敷の使用人か。もちろん全員身元はしっかりしている。
裏切る真似はしない忠実な者たちばかり。
これなら安心して見ていられる…… こともなく落ちつかない。
もう少しでもまともに対応してくれたら。習ったことをすぐに忘れる困った奴。
それでも慕ってくれるビアンカの心の広いこと。
まるで幼き頃からの付き合いであるかのように自然。
それでもハッチが調子を狂わすからな。
「踊って頂けませんか? 」
ただ見守ってるだけなのになぜか令嬢が寄って来る。趣旨が違う。
「王子! こちらの令嬢が順番をお待ちですよ」
恥ずかしいのかなぜかこの私に頼む。そこまでハッチに威厳があるならいいか。
襲撃の方はトルドが何とかしてくれるからこっちはハッチ王子のお世話に集中と。
「いえ違います…… メグレン様に申しているのです! 」
ちょうどハッチ王子にお似合いの背格好。
銀のドレスの令嬢が頬を赤く染めながら俯きがちに求める。
美しい…… ダメだ何て単純なんだ?
これではハッチと変わりない。恥ずかしい。
つい惹きつけられてしまう魔力のようなものがある。
おいおい今回はあくまでハッチ王子のお相手選び。私はただの関係者。
そこを勘違いされては困る。興味がないこともないが。
と言っても誰も理解してはくれないだろうな。
「メグレン様…… どうかこの私と踊って頂けませんか? 」
まるで私が嫌がっているような物言い。そんなつもりはまったくないんだが。
ただ見惚れてしまい。ああどうすれば? もう止められない。
「しかし…… 」
「もうメグレン様ったら! 」
「ははは…… 何だマリオネッタじゃないか。見違えたよ…… 」
まずい。褒めるつもりがどこか悪口に聞こえたか?
「もうメグレン様! それですといつも何てことはないとなりますが…… 」
やはり気づいたか。しかし完全に怒ってるのではないらしい。
ただいたずらっぽく口を膨らませている。かわいいがやり過ぎな感もある。
なぜマリオネッタは私などと踊りたいんだ。あそこに王子がいるんだぞ?
今日の主役のハッチ王子。彼女たち令嬢は王子に思いを伝える。
それに応える。そう言う趣旨の会のはずだが。なぜ主役を放って来るのだ?
無理にとは言わないがここに来た者は大体王子の虜で……
今だって王子の回りには人だかりが…… いない? そんな馬鹿な!
「ほらメグレン様! 後ろが詰まっています。どうぞお早めにお願いします」
「いやしかし…… 私はただの見届け人で…… 踊りもダンスも苦手で…… 」
どうにか言い訳をしようとするが騒がれては相手するしかない。
「まさかお嫌いになられたのですか? 」
そう言われては断れない。強引だなマリオネッタは。
まあそもそも女性から求められては応じるしかない。
「済まない。そう言うつもりではないんだ。さあマリオネッタ。踊ろうか? 」
「嬉しいメグレン様! 」
こうして二人は踊ることに。
続く




