王子の決意
ラクエラの夜。
舞踏会が二階のダンスホールで開催されるはずが……
一時間ほど遅れかつ中断したのはビック隊長毒殺とトルド襲撃の影響。
まさかビック隊長に続きトルドまで狙われるとは王子の安全地帯はない。
それはここに集められた令嬢たちにも同じことが言える。
王子主催である以上責任は重大。ただここに来ての中止はあり得ない。
危ぶまれているがここで中止すれば腰抜けとの噂が立つ。
強行開催の面が大きい。それは誰もがそう思うところ。
「本当によろしいのですね? 」
「まったくお前はどこまで心配性なんだ? この私にすべて任せれば問題ないさ。
そうだろうトルド? 」
「ですがこれは危険な賭けですよ。相手の正体もまだはっきりしないと言うのに」
「いいからお前は黙ってろ! もう決めたこと。決意が揺らぐ様なこと言うな!」
生意気で有名なハッチ王子。そんな彼にも今は威厳さえ見える。これは成長した?
でもどうせ襲われそうになったら声も出ずにその場に立ち尽くすのだろう。
きっと腰を抜かしてしまうに違いない。そこをトルドが間一髪で救出する。
「そうだろうメグレン? お前も見守っていてくれ」
「もちろんですハッチ王子」
仕方ないのでひれ伏す。少しやり過ぎなんだよな。
「そうかそうか。ではそろそろ参ろうかな」
調子に乗って前を向かずに歩くものだから躓いてしまう。
ハッチ王子に何かあれば一大事。トルドは血相を変えて飛び出す。
「誰だ! このハッチ王子を亡き者にしようとした愚か者は? 」
転んで怒り狂う情けないいつものハッチ王子。これで本当に大丈夫だろうか。
心配になる。どれだけ苦労することになるか。ああサポート役も楽じゃない。
いつもと違うハッチ王子を見ているとトルドではないが心配になって来る。
ではお手並み拝見と行きましょうか。
「王子…… どうぞ中央へお越しください」
ラクエラ出身で前市長の孫娘のドラクエラ氏が昨夜の晩餐会に続き司会を務める。
彼女は昨夜のことでも分かるように特に目立ちたがり屋。
会場の者が驚くようなことをしたくて仕方がないのだろう。
「どうだトルド? 痛めた体の影響は? 」
一応はお年なので労わってやらないともはや笑いごとじゃない。
「問題ない。それより自分の身は自分でお願いしますよ。
それはハッチ王子にも言って聞かせていますが」
どうやらとてもトルドの力だけでは守り切れないと悟ったらしい。らしくない。
いつもだったら全力でお守り致しますと言い切るのに。
襲撃され無傷で取り抑えるところを抵抗され逃げられたのが堪えたか?
分かる気もするがそれくらいで自信なくされては困る。最後の砦なのだから。
誰がハッチ王子を守ると言うのか? それはこの私ではない。トルドお前だぞ。
たとえどれほど関係が変化しようと私たち三人の繋がりは強固なもの。
仮に誰が何を考えてようとだ。
「どうです相談役? 」
もう舞踏会は再開されいつどこで聞かれてるかも分からない。
トルドの奴が態度を変化させるのはよくあること。しかし相談役はないだろう?
相談するのは常にお前にじゃないか。そこにハッチ王子と二人で指示を受ける。
情けない二人さ。この仮面に隠された素顔はそんな情けないだけのもの。
それにしてもそろそろ素顔を晒したい。もう限界だ。
しかし二人の頑張りが無駄になるのはやはりまずいよな。
「もう名前では呼んでくれないのか? 」
「冗談でしょう? そのような立場にないとどれだけ言えば?
あなたはそろそろ自分の立場を弁えた方がいい。
それに我々と一緒にいれば必ず狙われるんですよ? 」
見捨てて大人しく一人だけでラクエラを離れろとつれないことを言う。正気か?
だがもう冗談も悪ふざけしてる時ではないのは確か。
とりあえずハッチ王子の雄姿を目に焼き付けておこう。
ハッチ王子が小さくて子供っぽいからどうしても見守る形になってしまう。
王子として本当にこれでいいのか疑問。情けなくも悪くも思う。
ふふふ…… 不格好でどうしようもないな。
ハッチ王子にこの衣装を勧めたのはどこの誰だ?
王子の名の下に制裁を加えるぞ!
などとふざけてる時ではないか。
それにしても眩しい。どうもこの光が苦手で。
ハッチ王子も同じく苦手にしていたな。眩しくて堪らない。
私たちは所詮日陰の中でしか生きられない。
それはハッチが生まれた時から。私がすべてを受け入れた時から。
貿易都市ラクエラでのんびりお相手探しするつもりがこのような事態に。
一体どこで我々の計画が漏れたのだろうか? それともただ嗅ぎつけたのか?
完璧だったはずのラクエラ訪問がどこで狂ってしまったのか?
どの道これからは覚悟がいる。再び光の世界に戻る。
私が望もうと望まなかろうと早ければ明日にでもそうなるだろう。
その時誰が味方で敵に回るのか?
美しき令嬢のマリオネッタとその姉のビアンカ。
どう言うつもりで近づいたか知らないが無理にでも協力してもらうぞ。
それがお互いの為だと信じて。
銃弾の嵐の激戦地ラクエラを生き残るためにはもはやそれしかない。
続く




