セレーブとバニラ
毎日のように虐待を受けとうとう痛みを感じなくなった。
決して痛みを知らないでも分からないのでもない。
ただドンドン薄れて行きもうほぼ感覚がない状態。
そんな俺でもすべての痛みを克服した訳じゃない。
「いい子だ。大丈夫だからな」
そう言いながら暴力を振るう。痛みはないがアザは残る。これは辛いものがある。
「お待ちください旦那様! 」
「馬鹿者! お前は従えばいいのだ! 口答えするな! 」
「そんな…… 」
つい涙が出てしまう。
暴力には強くても言葉の暴力には弱い。
だから暴言だけは控えて欲しい。それさえ守って頂けたらいいのです。
でもそんな人間ができてればそもそも暴力だって振るわない。
ただそんな最低な奴でも加減は知っている。
必要以上に力を込めれば医者を呼ぶ事態に。それは少なくない出費でバカらしい。
ケチでクズだからその辺の計算はでき二度三度失敗してからは加減を守っている。
「ごめん痛かったね」
そう言いながら殴る蹴るを続ける。あまりの不条理。それでもいいのです。
ただ暴言だけは無理。心が折れてしまう。どうしても暴言だけは耐えられない。
「下がれ! 」
そう言うと部屋を出て行く。
ああこれから楽しまれるのでしょうね。
でもその相手が私ではないのが辛い。
クソバカだからな! へへへ…… 妻も第二夫人もとっくに愛想が尽きてる。
今はメイドのところへ向かったんだろうよ。
さあ覗くとするか。
大体こいつのどこがいいんだ? 俺は助かってるが。
だがそもそもロクな格好をさせないから。俺が絶世の美人でも誰も見やしない。
あーあ清々する。
「お茶を持って来な! 」
「もう人使い荒いよスレーブ」
本名を捨てセレーブでやっている。こいつは俺の一番弟子。メイドのバニラ。
覚えの悪い奴で生意気だが気が合うのでかわいがっている。
「スレーブってば機嫌悪いね」
「だからセレブだろうが! だれが奴隷だ! 」
スレーブはあくまで旦那様…… 奴がつけた蔑称。
だが別にそんな細かいこだわりはどうでもいい。
ここで楽しくやって行ければそれでいいんだ。
「へへへ…… そこそこやれっての」
「セレブも好きだね。趣味悪いよ」
「うるさい! お前はメイドだろうがきちんと奉仕しろ! 」
「まったく本当に人使いの荒い。スレーブ」
「いいから。ふざけてないでお前も一緒にどうだ? 」
楽しみが少ない冬は自分で見つけだすしかない。
「ちょっと何か言ってない? 」
5・7・9 ……
聞き取れたのは三つの数字だ。
「おいメモしたか? 」
「うん。これが何か? 」
バニラは興味を示すが俺だっていまいち分かっていない。
これは雇い主から探れと命じられただけ。
あの金髪の口の悪い貴族もどき。俺の雇い主のご主人様。
いつか必ず助けに来ると言って姿を消した女ったらしの最低野郎。
その日までに旦那様の秘密を暴けと。
まったく俺はそこの第三夫人なんだぞ? 裏切れと言うのかよ?
お前だろうが俺を勧めたのは?
ふん。本当に凄い方だぜ。当然尊敬はしないがな。
その日までは楽しんでいろと。それでその日はいつなんだ?
俺はその日までに奴の秘密を暴く必要がある。
潤った懐をより潤すその魔力をこの目で確かめる。
そして救ってもらう。だが一体どんな秘密があると言うんだ?
俺は満足してるんだぞ。裏切れるのか?
俺としたことが金髪野郎に恋をしちまった。それを悟られたもうお終い。
命令に従うしかない。
そんなどうしようもない毎日を送る俺の元に金髪のご主人様が姿を見せる。
急に用があるとは何だろうか?
「セレーブ。会いたかった! 」
そう言って大げさに抱きしめる。こいつと来たらとんでもない女たらしだからな。
こんな俺にでも優しく接してくれる。もちろん裏があるさ。
でも今はご主人様からの寵愛を受けて大満足。つい浮かれてしまう。
「どうだその後の動きは? 」
「いえ特には…… 」
「例の件は? 何か見つかったか? 」
「それならメイドにベラベラと数字を漏らしていました。あのメイドも仲間? 」
「おいおい。そんなはずないだろう。それで数字は? 」
ご主人様の命令を忠実に守る。俺はご主人様の為だけに動いている。
最低男は間もなく全財産を失う。
ご主人様の策略で破滅に追い込まれるだろう。そうなった時私はどうなるのか?
「ありがとう。それだけ分かれば十分だ。ありがとうセレーブ。感謝する」
「もう行かれるんですか? 」
この人は本当にいつも忙しそう。一体何者?
ただの貴族の格好つけではないのはもう充分理解してるけれど。
「悪いな…… そうだまた頼みがあるんだが聞いてくれないか? 」
「するともうここは…… 」
「ああ…… ここは隙を見て逃げ出すんだ。巻き込まれるぞ」
「承知しました」
「それで頼みとだが…… 王子主催のの晩餐会に出席してもらいたいんだ。
令嬢の振りをして王子に接触してもらいたい。お前には期待している」
そう言うとキスをする。本当にキザ。感情などまったく籠ってない。
それでもつい騙されてしまう。
「はい。ご主人様! 」
こうしてメイドのバニラを誘って王子の晩餐会が開かれるラクエラへ。
続く




