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ビック隊長の異変

名家のお嬢様とメイドだと思われないよう姉妹で通した。それが功を奏している。

今のところビアンカの的確な指示もあり悟られることもない。

ただの仲のいい姉妹にしか思われてないでしょう。

それは王子たちにも。ただお付きのお爺さんにはまだ疑われていますが。

当然奴ら。特にあの男には隠せないがそれでもライバルに気づかれないならいい。


なぜお互いが極力協力しなかったり味方だと名乗り上げないかと言うと……

成功報酬に目が眩んで殺し合いに発展して作戦が失敗に終わりかねないのが一つ。

当然知ることでどうしても不自然な動きになってしまうからもある。

招待客の半分近くが暗殺者では警戒されること間違いない。

それから裏切られた時にダメージが大きいもあるかな。

奴らからしても一致団結しては何かとまずい。

これらの理由からなるべく互いの素性を隠している。

でも逆にそれがこちらには好都合。

裏を突けば必ずこちらの有利に働くはずだから。


「そうだマリオネッタは王子暗殺の報酬が貰えたらどうしたい? 」

「はい? 」

「報酬ですよ。報酬」

意表を突くビアンカの質問。報酬と言ったら懸賞金のこと。

王子暗殺成功時に支払われる。それは暗殺者側の勝利を意味することになる。

しかし邪魔になったからと冷酷に切り捨てられる恐れも。

そうでなくても反逆者として逃げることになる。それは嫌。絶対に嫌!


「どうしてそんなことを言うのビアンカ? 」

「怒らないで。例えばの話ですよ。他意はないの」

そんなこと言ってビアンカは王子暗殺に傾いているのでは?

バレなければ大丈夫だと本気で思ってないでしょうね? 


ビアンカはそこらの令嬢ではない。ただのメイドで過去も隠している。

今回のことすべてがビアンカの筋書きだとしたら? 

あり得なくもない話。不本意ながらこれではビアンカを疑うことになりかねない。

どんなに無茶苦茶だと分かっていても疑いの目を向けてしまう。

お嬢様探偵の血などでは決してない。ただの疑心から来るもの。


ラクエラでずっと緊張状態が続き頼れるのはビアンカだと思っていた。

でも違うかもしれない。初めから仕組まれていたとしたら?

どうしてもビアンカを完全には信じられない。

ラクエラに来てから少しずつそう感じるようになった。


これこそが奴らが仕込んだもの。

疑心暗鬼で孤立させ奴らに盲目に従う環境づくり。

完成された暗殺者の出来上がり。本当に嫌になる。

もちろんこれは私がお嬢様探偵で頭の回転が速いから。

ライバルたちはそこまで回らないでしょう。何か決定的なことが起こらない限り。

ですがビアンカはどうか?


「どうなのマリオネッタ? あなただって興味があるでしょう? 」

「はいはい。メグレン様とゆっくり諸外国を巡ろうかと。もう何を言わせる気?」

「もう欲望に忠実なんだから。でもそれでいいの。今はそうしてなさい」

ビアンカお姉様の命令? どうしたと言うのでしょう? 何か変。

「ちょっと! それでビアンカはハッチ王子を亡き者にしたらどうしたいの? 」

私にだけに答えさせるのは不公平。しっかりはっきり答えて貰います。

「まさかそのような大それた真似できるはずが…… 」

自分で振っておいて自分だけいい子ぶる。それはないでしょう?

ハッチ王子を葬ったらもっと素敵な方を見つけて悠々自適にぐらい言いなさいよ。

でもそうか。ビアンカはハッチ王子に夢中なのか。


「そう…… 故郷に孤児院を作って貢献できれば」

らしくない願望に終始。何かおかしい。願望だと言ってるのに。

王子だって聞いてない。聞き耳を立ててるのは奴らかネズミぐらいなもの。

そもそも懸賞金に目が眩んでノコノコやって来たことになってるのだから。

奴らだってそれは百も承知。無欲の方が逆に警戒するでしょう?


コンコン

コンコン

お客様がいらっしゃったみたい。

そのことにいち早く気づいたビアンカが願望を嘘で塗で塗り固めた?

さすがはビアンカ。突然のことにも動揺せずに切り替える。

でもそれでは私の評価は?…… どうしようもない妹として処理される訳?


せっかくの二人の寛ぎの時間を邪魔したのは隊長のビッグだった。

朝から行方が分からなかった王子護衛隊長のビッグ。

随分やつれたような気がする。大丈夫でしょうか?

寝れてないし食べれてない。そんな不健康な感じが逆に彼から凄みを感じる。

事実はどうであれ今彼は危険な状態にある。


「大丈夫ですか? お体が優れないようですが? 」

これにはいかなるビアンカも血相変える。

見たこともない土気色の顔のビック隊長。どんどん悪化していくのが分かる。

これは恐らく…… 毒の影響? まさかね…… 

「もうお前たちに頼るしかない。どうか王子たちを助けてやってくれ」

屈強な男の影も見られないほどに弱り切ったビッグ隊長。

急激な毒の影響を受けて立っているのも辛いのかフラフラ。


「お体が…… 」

「俺のことはいい。王子を頼む。それで折り入って話したいことがある」

急いでると無駄な挨拶は一切いらないそう。


「王子は狙われている。助けてやってくれ」

倒れ込むように椅子に腰かける。

「助ける? ただのどこにでもいる令嬢でござますが」

「いいんだ。それ以上の芝居は結構。ただ者じゃないと察しはついている。

しかし王子を狙っているようでもない。だから…… 」

もう限界と咳き込む。

これは急がないと。誰か呼びに行かせようとするが止められる。

まったくもう世話の焼ける隊長さん。一体私たちに何を頼もうと言うの?


                 続く

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