お嬢様たちの戯れ
舞踏会場に戻ると令嬢たちがつまらないことで揉めている。
ただ王子に気に入られたいと女の争いをしているところ。
こっちが命懸けだと言うのに随分呑気。欠伸が出てしまう。
うん。ここだけでも平和なのはいいことなのかな。
「ユーリーがまた色目を使って王子を…… 」
「違う! 王子様が私を求めるから! 」
「ダメ! 勝手な行動は控えないさい! 」
「そうよあなた! 抜け駆けは許さない! 絶対! 」
たかが王子の為に醜い争いを続ける令嬢たち。
その為にラクエラまで来たんでしょうがもう少し冷静に。
相手はあのハッチ王子でしょう? メグレン様ならいざ知らず王子ではね。
「ほら邪魔しないで! そこをとっとと退きなさい! 」
ついイライラして喧嘩腰になる。どうやら一種独特の雰囲気に呑まれたらしい。
マリオネッタお嬢様ともあろう者が情けない。
これもすべてビアンカが悪い。いい格好ばかりするから付け上るのよ。
「何よあんた? 田舎娘のくせに! 」
侮辱する恐れを知らない令嬢。ちょっと都会だからってこいつ!
決して言ってはならない一言。もう許せない。
「ふざけないでこのマリオネッタお嬢様はあんたたちになんかに負けるものか!」
「何ですって! 」
「あらあら聞こえましたか? ごめんあそばせ」
つい興奮してつまらない意地の張り合いをする。それだけに留まらず挑発まで。
「マリオネッタったらもう…… 」
呆れてため息を吐くビアンカ。困ったと言わんばかり。
ですがよく考えて欲しい。仕えるお嬢様を馬鹿にされたんですよ?
それはビアンカ自身を侮辱したのに等しい。なぜ怒り狂わないの?
もし今は姉妹だとしてもかわいい妹を馬鹿にされていることになるのよ。
姉として意見を言うべきでしょう? 黙ってどうするの?
「田舎の小娘が! ハッチ王子に指一本触れさせないからね! 」
「そうよ。こんなのが王子様の妃に相応しいはずがない! 」
「私だってそう思う! 」
なぜか囲まれて劣勢に。ただ道を空けてもらおう思っただけなのに。
仕方ない。ここは奥の手を使おう。
「だったらハッチ王子は誰にお似合いだと言うの皆さん? 」
「私! 」
「いいえ。私! 私でしょう? 」
「小賢しい愚か者め! どう考えてもこの私。格が違う! 」
「どうでもいいけどボクが…… 」
あらあらこの程度で仲間割れとは情けない。その程度の関係なのでしょう。
そもそもここに招かれたのもただの数合わせでもないでしょう?
誰が相応しいかなどどうでもいい。ハッチ王子だってどうでもいい。
「ねえ皆さんはそれはそれはお美しいですからハッチ王子も迷ってしまう。
田舎者の私はメグレン様で我慢致します。それではごきげんよう」
そう言ってうるさいのを黙らせる。大人の対応だってできる。それがお嬢様。
「待って! 私もメグレン様をお慕いしております! 」
まずい。強力なライバル候補誕生? でもメグレン様はきっと私と結ばれる。
そんな予感がする。確証はありませんが何となくそんな気が。
こうしてどうにか自分の部屋へ。
ああ疲れたな。ここに戻るつもりはなかったんだけどな。
仕方ない。後悔しないように今後の対策を練るとしましょう。
「それでビアンカはどの子が気にいった? ふふふ…… 」
「はい? 何を言うのマリオネッタ? もうからかって子供なんだから」
冗談のつもりで聞いたが意外にも慌てている。明らかに動揺が見られる。
まさかビアンカは…… そうすると私が危ない。
ふふふ…… あり得ないか。仮にそうでも応援してあげるべきよね。
「左から三番目の子。そのお隣も悪くありません」
きちんと答えるビアンカ。冗談なのに本気で答えないでよ。
「うええ…… ビアンカはやっぱりそうなの? 」
「はい。どちらでも構いません」
「じゃああ…… 」
ダメだ。何も声が出て来ない。そう言えばそんな気がしていた。
メイド生活を送れば確かにその恐れもある。
「冗談ですよマリオネッタ。さあこれからをもう少し真剣に話し合いましょう」
笑顔のビアンカ。まったく驚かせるんだもんな。
仕方ない。こちらから仕掛けるか。
「お姉様そんなことおっしゃらずに怖くて寂しいんですから」
そう言って押し倒す。
「もうマリオネッタったら強引なんだから。怒りますよ? 」
「はいはい。大人しくお姉様」
強引に迫る。口では何とでも言える。
「ほら楽しみましょう。だってもう私たちに未来はないんだから」
まずい。弱音を吐く。こんなつもりじゃなった。でもビアンカがふざけるから。
「後悔してるんですねマリオネッタ? 」
人に決断させておいて何を言ってるの? 戻る判断は決して間違ってない。
でもあの時と今では状況が違う。あまりにも違い過ぎる。
どうしてこんなことに? 判断を完全に誤った。
ラクエラでのハンティングを見てしまった以上希望は失われる。分かってたこと。
裏切れば…… 逃げれば…… 失敗するばパートナー共々処分される。
仮にその場を逃げられても無事に戻れる保証はない。
さあ今を楽しみましょう。今日にも失われる命かもしれないのだから。
「ビアンカ! 」
「もうちょっとやめて! ふざけないで。もう…… 」
受け入れた? 違うの? でももうどっちでもいい。
三十分ただ抱き着いてふざける。それで幸せかと言うと分からない。
それでも一時でも現実を忘れられるなら意味のあることでしょう。
続く




