再びの銃声
激戦地ラクエラに戻ることを決意。
目の前の船にさえ乗れば平和な世界に戻れたのに。
その選択をせずに戻って来てしまった。
何て馬鹿なことをしたのかと自分でも思う。でもやっぱり心配だから。
王子も一応。それに何と言ってもメグレン様が忘れられない。
銃声と共に悲鳴が響き渡る。
きゃああ!
急いで悲鳴のする方へ。
しかし近づき過ぎてはいけない。慎重に。それが生き残る術。
まさか真昼間からトラブル? 銃声に悲鳴とはただごとではありません。
「どうしたの? 」
一人の少女が骸に泣き縋っている。いくら問いかけても答えない。
周りには遠巻きで見守る人たち。心配してると言うよりただ見学しているよう。
少女はただ泣き叫び人だかりは増えるばかり。
突然立ち上がると骸を放置して走り出す少女。
「彼女を晩餐会で見かけました。まさか今倒れてる子がミスして処分された? 」
ビアンカはそんな風に推理する。
昨夜の晩餐会では何も起きなかった。予定通りだと勝手にそう。
ですが彼女たちが暗殺者で何らかのヘマをやらかしたとしたら?
その制裁を今…… 二人がパートナーだとすれば彼女も危ない。
そのことを十分に理解しているからか名もなき少女は行ってしまった。
恐らくもう彼女は……
バンと一発の銃声が響く。どうやら周りを巻き込まない配慮か……
ただハンティングを楽しむ為? ミスした哀れなターゲットに死の制裁を。
骸が二体でき上がったところで興味を失った者たちが引き上げていく。
そう彼らにとってはこれが日常なのでしょう。大して面白くもないショー。
ここにいればいずれ私たちも同じ目に。これでは聴衆に助けを求めても無駄。
交易都市ラクエラも繁華街を少し離れればたちまち危険な街に早変わり。
夜に見せる貌が今ほんの少し覗く。
一見華やかそうに見えてもその正体は案外醜いもの。
「ははは! お前たちも見物か? 悪くない趣味だ」
また会ってしまった。冷徹で最低最悪な爺さん。
先ほどまでパン屋で談笑していた。
まさかこちらの動きを察知した? だとすれば大変危険な状況。
「はい。散歩しておりますと銃声がしたものですからつい…… 」
ビアンカは冷静だ。笑顔さえ見せる。
ボロが出ないようにメイドとして姉として振る舞う。私を背中に隠し前に出る。
「ほお…… この惨状でも笑っていられるのか。大したものだよお嬢さん。
さすがはお気に入りだけのことはある」
お褒めの言葉を頂く。ただの皮肉でしょうが。
強く出ると喜ぶこの変態爺にどうにか取り入る。もうそれしかない。
抵抗など表立ってはしない。もちろん裏ではそれなりに動きますけどね。
私だけでなくビアンカがいるからどうにでもなる。後はミスさえしなければいい。
それは前と変わらない。
「それで私どもはどうすればよろしいでしょうか? 」
「まだ待機だ。それと裏切るなよ。逃げるなよ。ミスをするなよ。
今のようなことが起きる。せっかく集めた宝を失うこちらの身にもなって欲しい」
「宝ですか…… 」
「そうだ。よそから集めた我々の駒。命令に従う我々の宝だ。
それはお前たちもさ。さあ大人しく会場に戻るんだ! 」
「しかし…… 」
「口答えをするな! 五人目にはなりたくないだろう? 」
今二人が殺され初日に同じく二人が銃殺された。計四名が処刑されたことになる。
嫌な記憶。思い出したくもない過去。
奴はそれを利用して私たちをコントロールしようとしている。
今二組四名が脱落。参加者は十組二十名だから残るは私たちを含めて八組十六名。
人が減れば減るほど順番が早く回ってきてしまう。そうなる前に何とかしないと。
王子を殺せないし殺さない。しかし殺さなければ処分される。失敗は許されない。
「どうだ? 」
「ご命令とあれば」
「ふふふ…… 健闘を祈るよお二人さん。これからは失敗はないだろうからな」
そう言うと姿を消す。
もう散歩してる気分ではない。急いで舞踏会場に戻る。
「お帰りなさいませお嬢様方! 」
迎えたのは王子の使用人の一人で名前をフリオと。
「あの…… 隊長さんはどちらに? 」
姿を見せない隊長。王子側の重要人物で頼りになるお方。
昨日船で不審な失踪事件も起きている。行方不明扱いだが進展は聞かない。
多少なりとも王子側に犠牲者が出ている。
「はあ隊長ですか? それが変なんですよ。何だか凄く怯えてまして」
様子がおかしいと漏らすフリオ。
「申し訳ありません! このことはどうかご内密に」
フリオがここまで心を開くのは私たちが美人姉妹だと言うのもある。
ただそれ以上に昨日王子と親しくしていたから。そのアドバンテージがある。
王子だって私たちには気を許してるようだし…… これだって奴らの作戦の内?
踊ろされ続けている気がするのは考え過ぎでしょうね。
「ああビアンカ! 早くこっちにおいでよ」
面倒見の良いビアンカは令嬢たちにも気にいられている。
そこでワイワイ騒いでる彼女たちは恐らくこちら側の人間じゃない。
ただ王子に気に入られたいと醜い女の争いをしているところ。足の引っ張り合い。
こっちが命懸けだと言うのに随分呑気。欠伸が出てしまうほど。
もう嫌になる。
続く




