十二名の候補者
ついに十名の候補者が選ばれた。
熱気に包まれ混乱し始めた会場内。
この混乱に乗じて暗殺者が仕掛けて来ることも考えられる。
充分に警戒すべき。しかしそのやる気が今は失われている厄介な状況。
「どうぞ選ばれなかった方は速やかに退場願います! 」
もはや相手にしない。トルドの爺さんの威厳で令嬢たちを屈服させる。
ちょっとやり過ぎな気も。もう少し丁寧に対応すべきでは?
文句を言いながらも大人しく引き下がる令嬢たち。
相手が王子とは言えこれほどの屈辱はかつてなかったことでしょう。
しかしこれも徒に舞踏会を長引かせない処置。
初めからこの手を使っていれば今までの混乱は起きなかった気も。
王子たちは今でも敵の脅威に晒され続けている。
できるならもう少し時間をかけてもいいが王子が怯えてる以上仕方がない。
しかしなぜ今になって? まるで状況が一変したかのよう。
もうこれ以上無闇に令嬢を近づかせない方がいい。それは私も同意するところ。
でもだからってこのマリオネッタお嬢様が選ばれないのは間違っている。
たとえ王子に関心が薄いと言ってもまったくない訳でもない。
お嬢様のプライドを守るためにも選ばれて欲しかった。
そしてもはやお姉様となったビアンカまで落とすなどあってはならない。
これは由々しき事態。文句の一つも言わないと気が収まらない。
そう意気込むがトルドの爺さんの態度が軟化することはない。
どう言う神経してるんでしょう? あんたが招待したんでしょう?
私は血塗られた招待状しか頂いておりませんがそれでもこれはない。本当に酷い。
もう知らない! 暗殺者が襲って来ても助けてあげないんだから。
協力だって誰がするものか! いえできない。もうそちらで好きにやればいい。
「では皆さんごきげんよう」
結局王子の好みに合わずに退散する他ない。挨拶を済まして会場を離れる。
「お待ちくださいマリオネッタ様! ビアンカ様! 」
なぜか呼び止められるおかしな展開。どこまで失礼なの?
これ以上侮辱するのはたとえメグレン様でも許しませんよ。
なぜ私だけ選ばれなかったのか? 疑問が残る。
ビアンカも同様。ですが彼女は何と言っても令嬢ではなくメイドだから。
だから選ばれなったのはかなり意外ですがそれでも納得はする。
どうやら品位や人間性に問題があったのでしょう。可哀想に。
しかし私はやはり違う。誰もが認める才色兼備のお嬢様。正真正銘の令嬢。
それにハッチ王子は私を気に入ってくれていた。選ばないはずがない。
「うるさいな! もう用はないでしょう? 」
せっかくの協力者を切るような真似はしないで欲しかった。
王子だろうと位が高かろうとそのような不義理を働いてはもうやってられない。
どう取り繕おうが言い訳しようが聞くものか。メグレン様だってもう知らない!
どうせあの爺さんが独断で決めたんでしょう?
でも止めることは当然王子もメグレン様もできたはず。
それをしないと言うことは同意したも同然。もう勝手にすれば。
「お待ちください! お二人にはぜひ残ってもらって…… 」
随分ムシのいいことを言う。それが無念にも選ばれなかった者に対する態度なの?
敗者にムチを打つよう。もうこれ以上関わりたくない。そう思うのが自然。
何を言ってるの? ふざけるのも大概にしてよ! 怒りを抑えるにも限度がある。
「悪いなマリオネッタ。これも王子の為なんだ。悪いが協力してくれないか? 」
呑気なことを言うメグレン様。そう言われては従うしかない。
もう仕方ないな。では退場なさる皆様ごきげんよう。
こうして一応のプライドを保つ。暗殺者としてよりも令嬢の一人として辛い。
「では選ばれた十名の皆さんどうぞお寛ぎください」
今夜はお屋敷で一泊して明日発つそう。
これで暗殺は阻止できた?
「では端から順に名前と抱負をお願いします」
ハッチ王子は黙ってトルドの爺さんにすべて任す。
これで警備がしやすくなった。劇的に改善された。そんな気がする。
何と言っても十名なら監視もつけやすい。
選ばれたのは順番にスーテル・ピンチラ・ピオーネ・ライム・セレーブ・バニラ
スカーレット・セインティアーノ・アニー・ニキ。
以上十名に加えて特別枠としてマリオネッタとビアンカ。
この者たちによる最終選考を終えて明日までに三名を選ぶ。
そしてその三名を連れ最後の最後アンダーにて一名を選ぶこととなった。
「ちょっと王子! 私を選ばないだなんて酷い! 」
令嬢たちの怒りが収まることはない。
約三十名から二十名近くを切り捨て十二名でとなれば納得も行かないもの。
お帰り頂いたはずの令嬢たちが一致団結し会場の周りを囲む。
脱落した令嬢たちは怒り心頭。このまま大人しく帰らないだろう。
悪い噂でトラブルが発生し死者まで出る始末。
王子主催の晩餐会が血塗られたものになることは想定外とは言え責任はある。
ただだからと言って選ばれなかったのは実力であり日頃の行い。
王子への愛が薄かったからに過ぎない。あるいは王子のセンスがなさ過ぎる?
「お前ら何やってる! 速やかに帰れ! これ以上邪魔すればただではおかん!」
トルドの爺さんが感情任せに脅しを掛ける。
態度が悪いのは毎度のことだがそれが令嬢たちの怒りに火をつけることに。
「説明しなさいよ! 」
「何なのよあんたは? 」
「ふざけるなジジイ! 」
「信じられない! 」
叫び続ける令嬢たち。
プライドをズタズタにされもう黙っていられない。
これは暴動が起きるか?
暗殺者の襲撃に遭う前に恨み節の令嬢たちに殺されかねない勢い。
続く




