第77話 残された違和感
「ゴンベエさんも無事だったことだし、一度里長に報告した方がいいな」
ジャミのその言葉を聞き、ミケは一人、緊張した面持ちで小さく肩を震わせていた。里長に報告されれば、自分は投獄され、またあの孤独な一人ぼっちに戻ってしまうのではないか――そんな不安が胸を締めつける。
それに気づいたのか、チユはそっとミケを優しく抱きしめた。
「ジャミ……。この子のことだけど……」
蛇のような細い目を三日月に曲げ、ジャミはニタァと余裕の笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。その娘も被害者だ。里長には僕から上手く言っておくよ」
その言葉に、ミケはほっと小さく息を吐き、胸を撫で下ろした。
「よかったね、ミケ!」
「……うん、ありがとニャ」
一方、ナナシは頭をかきむしるようにため息をつく。
「アタシは1度ゴンベエを連れて、寺に戻るよ!ほっとくとまた命を投げ出しかねないからなっ!」
「…………」
ゴンベエは何も言い返せず、ただ苦笑いを浮かべてナナシの言葉を受け入れるしかなかった。
「そうだね。じゃあ、キザム、サンズイ、クノは僕と一緒に。ナナシ、チユ、トウコ、ミケはゴンベエさんを送り届けてくれ」
「ウチも……。ウチもサンズイはんと行くわ……。ウチがおらんと、サンズイはん、無茶しはりますから。」
「いや、ゴンベエさんとミケの護衛も兼ねている以上、君はナナシたちと行動を共にしてくれ。もちろん、送り届けたらすぐに合流してもらった方がいい」
「……。それやったら、しゃあない。なるべく早く合流するさかい、サンズイはんに無茶させんといてな」
「俺がしっかり見張っとくって!」
サンズイは鋭い目つきでキザムをひと睨みしたが、敵対心というよりは、「お前に心配されるほどヤワじゃない」と言いたげな呆れを含んだ視線だった。
「お姉様、ミケちゃんをよろしくお願いしますね」
「あぁ、任せとけ! 【百合の花束】の3人が揃えば、もう怖いものなんて何もないからなっ!」
「それじゃあ、それぞれの任務が終わったら、また日ノ本で!」
ナナシ、トウコ、チユ、ミケ、ゴンベエの5人の背中を見送り、キザムたち4人は里長の屋敷へと続く道を歩き出した。
「ふう……。あとはヨルとツキノワか。奴らを止めるための対策を何か考えなきゃな……」
ジャミが独り言のように呟いたその時、サンズイの足がピタリと止まった。その表情に、わずかな違和感が走る。
「……待て。確か、里長からの緊急司令の手紙が届いたと言ったな」
「あぁ、これだよ」
問われるまま、ジャミは懐から里長の手紙を取り出して差し出す。サンズイはそれを素早く受け取り、視線を走らせた。
「………。コレが届いた時、どの辺にいた?」
「えっと……日ノ本の国境付近、だったかな?」
クノが記憶をたどりながら首をかしげる。それを聞いたサンズイの顔色が一気に険しくなった。
「だとしたら、やはりおかしい……」
その言葉に、ジャミとクノもはっと息を呑み、サンズイの言いたいことに気づいた表情に変わる。しかし、キザムだけは状況についていけず、首を傾げた。
「おいおい、だから何がおかしいんだよ?」
「キザム、お前たちは日ノ本の国境付近にいた。そこからどれだけ急いでも、俺達がいた所まで半刻はかかる。だが、あの場所は日ノ本の端とはいえ、圧倒的に里の主要部に近いはずだ」
「だから、それがどうしたって……」
「俺たちが刺客と戦った後、今の今まで、里からの増援が誰一人として来ていない。……これをどう見る?」
背筋に冷たいものが走る。サンズイの問いかけに、クノがハッと目を見開いた。
「まさか……!」
「あぁ。里で、すでに何かとんでもないことが起きている――そう考えるのが自然だ」
青ざめるクノを見て、キザムもようやく事態の重大さを理解し、言葉を失う。
「こうしちゃいられない……! 一刻も早く、里に戻らなきゃ……っ!」
予期せぬ最悪の予感を胸に、4人はさらに足を速め、日ノ本の里へと急ぐのだった――。




