第76話 受け継がれる背中、未来の変格
光が激しく収束し、やがてロンロンとタイガの手の中で禍々しい球体へと変化していく。
「爺、終わりだ!【龍】」
「【虎】」
その圧倒的な質量を誇る球体は二人の手を離れ、ゴンベエへと、とてつもない速さで襲いかかった。
(ここまでか……)
ゴンベエはすべてを受け入れるように目を閉じ、静かに覚悟を決める。
ズドドドドッ――!!
激しい爆撃音と共に、真っ黒な煙が立ち上る。ゴンベエの背後では、衝撃による炎が猛々しく燃え盛っていた。
ロンロンとタイガは、合わせ技が決まったことでニヤニヤと悪態を歪ませていたが、その表情は途端に驚愕へと変わる。
――ゴンベエは、無傷だった。
ゆっくりと目を開けたゴンベエの視界の先、わずかに離れたところに、サンズイとトウコの姿があった。二人は愛刀を力強く振り抜き、その余韻を漂わせている。
「ゴンベエ、無事か?」
「ゴンベエはん、こんなとこに1人で来はって、一体どうするつもりやったんや?」
トウコはゴンベエの狙いをすべて察していながらも、あえて呆れたように声をかけた。
「おヌシ達……。なぜここへ……一体、何が……」
死を覚悟していたゴンベエには、目の前で何が起きたのか検討もつかなかった。
「バ……バカな……。あの技を、刀で斬っただと……!?」
ロンロンが信じられないといった様子で声を荒らげる。
タイガは冷や汗を流しながら、歯をくいしばった。
「いや……逸れたんだ! 久々だから力み過ぎたんだ……。もう一度だ、ロンロン、手を出せ!」
動揺を隠せない二人は、目の前の現実を否定するように、再び合わせ技のための構えを取ろうと手を重ね合わせる。
「サンズイはん、ヤツら隙だらけや。今のうちに……!」
トウコが臨戦態勢に入るが、サンズイは静かに手を挙げて制止した。
「ゴンベエ、よく見ていろ」
その口界には、確固たる自信と圧倒的な成長の気宇がみなぎっていた。
「ロンロン、もういいだろ!【龍】」
「【虎】」
先程よりもさらに巨大な球体がゴンベエへと放たれる。しかし、サンズイとトウコは呼吸を完全に合わせ、一寸の狂いもないタイミングでそのエネルギーの塊を両断した。
斬り裂かれた球体は四つに分かれてゴンベエの背後へと逸れ、空中で激しい爆音を立てて消滅する。
「なんと……。あの凝縮された言霊を、完全に……」
ゴンベエは、目の前で繰り広げられた神業に絶句するしかなかった。
「そんなはずがねぇ……! ロンロン、貴様、手を抜いているだろ!」
「なんだと! 貴様こそ集中力が欠けているんじゃないのか、このバカが!」
焦りと動揺から、ロンロンとタイガは互いに責任を押し付け合い、激しい言い争いを始める。
「トウコ……!」
「はいな!」
サンズイとトウコの意思が、一瞬で重なり合う。二人は一気に踏み込み、それぞれロンロンとタイガの急所へと一閃を放ち、致命傷にはならない絶妙な加減で一気にその意識を刈り取った。
ドサリと、暴君たちが地に倒れ伏す。
「おヌシら……」
ゴンベエは言葉を失っていた。それはただの生存の喜びではなく、自分には変えられなかった過酷な未来を、若い忍たちが自らの力で塗り替えてくれたことへの深い感動だった。
やがて、遠くで響いた爆撃音を聞きつけたナナシたちが、息を切らして現場へと駆けつけてくる。
「ゴンベエ、無事かっ……! 無事なのかっ!?」
後ろに控えるクノやチユを押し退けるようにして、ナナシはゴンベエの手を固く握りしめ、心底から安堵の涙を浮かべる。
「あぁ、サンズイとトウコのおかげでな……」
「大したことはないさ。……それよりキザム、お前……。」
サンズイの言葉に、トウコの目にも安堵の涙がにじんでいた。
「この通り、死んだと思ったけど、なんとかなったぜ!」
キザムがいつもの調子でニカッと笑う。
「感動の再会といきたいところだけど……サンズイ、実はな」
ジャミが深刻な表情で割って入り、道中で掴んだツキノワに関するすべての情報をゴンベエやサンズイたちに共有した。
「そうか……。ツキノワがヨルを……、この一連の騒動の裏で糸を引いていたとなれば……」
サンズイは険しい目を細め、静かに呟く。
「この戦争の真の黒幕は、間違いなくあの男だ」
サンズイの鋭い見解に、周囲の者たちは大きく息を呑む。それぞれの胸の内に、新たな戦いへの決意と緊張感が再び灯っていくのだった――。




