第75話 変えられない未来、託された背中
一羽の伝書鳩が、キザムたちの元へと静かに降り立った。
ジャミは手馴れた手つきで、その脚に括られた書物を解き、サッと広げる。
「里長から……。緊急司令だと……」
ジャミは一人、書物に書かれた内容に目を通し、すぐに表情を険しくして一緒にいる仲間たちに伝える。
「刺客が2人……既に日ノ本への襲撃を許してしまったようだ。だが、ゴンベエさんが1人で食い止めている……。すぐに戻ってゴンベエさんの援護を、とのことらしい」
皆が驚きの表情を浮かべるが、その事実に対して誰よりも激しい動揺を見せたのは、ナナシだった。
「ゴンベエが……1人で、だと……!?」
「さすが、師匠の師匠だなっ!」
キザムが呑気に声を上げると、ナナシは突如としてキザムの胸倉へと掴みかかる。
「ゴンベエは戦えるような身体じゃないっ……! お前にゴンベエの何がわかるっ……!」
ナナシの鬼気迫る剣幕に、キザムは驚きで目を丸くした。
「い、一体なんだってんだよ……!」
「こうしちゃいられない! 悪いがアタシは先に行くっ!」
ナナシはキザムから手を離し、一人で駆け出そうとするが、すぐさまチユがその腕をガシッと掴んで引き止めた。
「アンタらしくない! 一体何があったって言うんだい!?」
「離せ、チユ! ゴンベエが前線に出てきたってことは、何かしら日ノ本にとって最悪の未来が見えたってことだ! それを覆すために、あのジジイ、自分を犠牲にする気だっ!」
「話が見えないが、とにかく里長からの緊急司令だ。みんな、急いで里に戻るぞ!」
ジャミの鋭い号令のもと、取り乱すナナシを連れて、キザムたちは日ノ本へと急行する。
――その頃、日ノ本では。
ロンロンとタイガが、激しい争いを続けていた。
――そうなるよう仕向けたのは、ゴンベエだった。
少し先の未来が見えるゴンベエは、ロンロンとタイガがお互いの攻撃の邪魔になるよう、二人の動きに合わせて絶妙に立ち回っていたのだ。
(このまま最期までいければよいが……)
ゴンベエは決して自らは仕掛けず、相手の出方を伺いながら、その圧倒的な力を受け流す【古代文字】【流】を駆使し、ただただ時が過ぎるのを待っていた。
しかし――。
「あぁ、もういい! ロンロン、貴様も俺も目的は同じだ……腹立たしいが、アレで一気にカタをつけようじゃないか!」
「俺に指図するな! だが名案だ、貴様の首など後でいくらでも刈り取る時間はある。問題は、あの爺だ!」
タイガとロンロンの意見が、ついに一致してしまう。
(やはり……そう来るか。未来など、そう簡単に変えられはせんか……)
ゴンベエには分かっていた。
二人による合わせ技の脅威を。本来なら、その技が出る前に仲違いさせ、共倒れにさせることが理想だったが、予見した最悪の未来へと収束していく。
ゴンベエはすべてを受け入れるように、その口元に静かな笑みをこぼした。
(まぁ……。本来この合わせ技で死ぬはずだった若いヤツらを守れた。それだけでも、良しとするかのぉ……)
ロンロンとタイガはそれぞれの手を重ね合わせるようにして、凄まじい魔力を一点へと集中させていく。その膨大なエネルギーは、もはや目に見えるほどの巨大な光の塊となっていた。
ゴンベエは迫り来る死の気配の中で、穏やかに目を細める。
(ナナシ……。キザム……。あとは、頼んじゃぞ……)
老兵の命がけの足止めが限界を迎え、日ノ本は運命の結末へと突き進もうとしていた――。




