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第70話 紅の刃と嵐の邂逅

その頃、日ノ本へと急ぐサンズイとトウコの足取りは、突如として現れたひとりの人物によってピタリと止められていた。


生い茂る木々の合間に立ちはだかるのは、大ぶりの首切り鎌を二丁、不気味に構えた女性――『鎌鼬』の古代文字を宿すマイコだった。


「アンタら、日ノ本に向かってるんやろ? ここは通さへんで」


マイコの瞳には、凍てつくような殺意が宿っている。


「その話し言葉……」


サンズイが怪訝な顔をして隣のトウコを見る。トウコはマイコの姿をじっと見据え、静かに呟いた。


「ウチと同郷みたいやねぇ……。あんた、紅葉の里の出やろ?」


「紅葉の里……やと? そんなんどうでもええわ……。ウチには帰る家もあらへん……。あるのは復讐、それだけや!」


怒号と共に繰り出されたマイコの一撃は、引き締まった細腕からは想像もつかないほどのすさまじい重さと爆発的なスピードを伴っていた。


ガキイイイッ!!


サンズイとトウコは、それぞれ愛刀である『緑葉』と『紅葉』でその凄まじい鎌を受け止める。火花が激しく散り、衝撃波が周囲の草木を吹き飛ばした。


「ええなぁ……男連れとはなぁ。その男、ぐちゃぐちゃにした時のあんたの顔が見たいわぁ……」


マイコが妖しく歪んだ笑みを浮かべる。その挑発的な言葉に、トウコの中で眠っていた誇りと怒りが一気に沸騰した。


「ウチの旦那様に、傷一つ負わせてみい、そん時あんたの命はないで!」


女同士の、一歩も引けない激突が始まる。


「トウコ……! 無理はするな!」


「ウチがなんとか隙を作るさかい、サンズイはその隙をつくんや!」


トウコは気合を入れ直し、マイコの懐を狙って鋭く踏み込む。しかし、マイコの鎌さばきは変幻自在であり、死角から繰り出される軌道には一切の隙がなかった。


「そんなもんかいな。えぇ? 紅葉の里に代々続くサムライのチカラってのはさぁ!」


マイコが冷たく嘲笑う。その瞬間、トウコの発する気配に合わせて、足元から鮮やかな術式が不気味に浮かび上がった。


「サムライの本気、みせたるわ!」


術式によって爆発的に跳ね上がったスピードを活かし、トウコは二丁の鎌の連撃を紙一重でかすめながら、ついにマイコの懐へと飛び込んだ。


「トウコっ! 避けろ……!」


サンズイの切迫した声が響く。なんとマイコは、自分自身の身体をも巻き込みかねない無謀な角度へと、背後から鎌を大きく旋回させていたのだ。


「まさか、自分ごとっ……!」


トウコは反射的に地面を強く蹴り、間一髪で空へと跳ね上がる。マイコもまた、のけ反るような神業的な体勢で自らの鎌を回避した。


空中で着地したトウコは、敵の戦法を冷静に見据えて不敵に笑う。


「なるほどな……そういう感じやな」


そこへ、素早くサンズイが駆け寄り、トウコの横にぴたりと並び立つ。


「トウコ、1人じゃダメだ! 連携で一気に叩くぞ!」


見れば、サンズイの足元にもトウコと同じ術式の光が深く、力強く浮かび上がっていた。夫婦の呼吸が、完全に一つに重なる。


「いくぞ、トウコ!」


「はいな! サンズイはん!」


二人の刃が同じ光を纏い、復讐の鬼と化したマイコへと同時に突き進む。

血塗られた因縁の森で、夫婦の絆が織りなす渾身の一撃が、いま解き放たれようとしていた――。

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