第67話 迷い猫の涙と、差し伸べられた手
ツキノワの冷酷な狂気から逃れ、ミケは森の中をただひたすらに駆け抜けていた。
(一体どこへ行けばいいニャ……。私には居場所も、帰る場所もない……。リオン様……。)
帰るべき場所も、もはや頼るべき仲間もどこにもいない。目的地すら分からないまま、ミケは傷ついた裸足のまま荒い息をついてひた走る。あふれ出る涙を小さな手で乱暴に拭いながら、暗い森を駆けた。
やがて、視界が開けたその時――ふと前方に人影が見えた。
「お前達は……っ!」
反射的に身構えようとするが、ミケは丸腰だった。
緊張感が走る中、チユとナナシが素早く戦闘態勢をとる。だが、ボロボロになり、怯え切ったミケの様子に気づいて動きを止めた。
ミケはもう戦う気力すら失ったように、その場に力なく俯く。
「もう……いいニャ……」
糸が切れたように、その大きな瞳からとめどなく大粒の涙がこぼれ落ちる。
「どうした? 何があったんだい……?」
チユは険しい表情を解き、真っ直ぐにミケへと歩み寄ると、震えるその小さな身体をそっと優しく抱き締めた。
肌を伝わるチユの温もり。その不器用ながらも深い優しさに触れた瞬間、張り詰めていたミケの心がふっと軽くなり、堰を切ったように嗚咽が漏れた。
落ち着きを取り戻したミケは、震える声で自分がクレーターの底で目撃した一部始終をクノ達へと伝えた。
(ミケのボスが爆破に巻き込まれたって……? じゃあ、あの凄まじい爆発を起こしたのはキザムなの……? それともサンズイ……? 二人とも無事でいるの……っ!)
ミケの語る衝撃の事実を聞き、仲間たちの安否が気掛かりでならないクノの心臓は激しく波打つ。しかし、それを聞き終えたナナシは、冷静に視線をミケへと戻した。
「そうなるとミケ、アンタは一体どうすんだい。アンタのボス...ヨルだっけ?そいつの近くには例のツキノワがいるんだろう?」
ミケはチユの腕の中で、自分でもどうしたらいいのか分からないまま、ただ途方に暮れてうつむくしかなかった。
「アンタ、行き場なんかないんだね……」
チユは優しくミケの頭を撫で、クスリと笑う。
「なら、いいよ。アタシらについてきな!」
ミケははっとして顔を上げ、チユの目を見た。
そこにあったのは、曇りのない真っ直ぐで澄んだチユの瞳。かつて自分たちが、ノバラという光に抱かれた時と同じ、絶対的な温もりと救いの光が宿っていた。
行き場を失った迷い猫のような心に、確かな光が差し込む。
ミケは言葉の代わりに、ギュッと小さく黙って頷いた。
「お姉様……。ナナシさん……っ」
クノは気丈に振る舞いながらも、どうしても抑えきれない不安を口にする。
「私、どうしてもあの爆発が気になって……。キザムたちを探しに行かせてください!」
チユはミケの背中にそっと手を添えたまま、うなずく。
「ミケ、アンタ、あの爆発が起きたところの近くにいたんだろ。何か知らないかい?」
「私は……ボスの方しか知らニャいニャ。あそこにいたのは、ヨルと……ツキノワだけ……」
「ツキノワとヨルのことも気にかかるが……まずは、散り散りになった仲間たちの安否を確認しに行くとするか!」
ナナシが頼もしく仲間の背中を押す。
こうして新たな仲間――ミケをその身に迎え入れた4人は、さらなる嵐の予感漂う森の奥へと走り出した。
――キザムたちを捜す足取りに、かつてない強い絆の光を灯しながら。




