第66話 託された想い、うごめく悪意
圧倒的な大爆発の余韻が冷めやらぬ森。
その轟音に目を覚ましたサンズイは、トウコに背負われていたことに気づき、慌てて声を漏らす。
「俺は……。トウコ、キザムたちは!?」
トウコの背中から下りたサンズイは、キザムたちの安否を案じて辺りを見回す。しかし、トウコは言葉を発さず、ただ静かに、遥か遠くで黒煙が立ち込める方向を指し示した。
「まさか……っ!」
サンズイが顔色を変えて駆け出そうとした瞬間、トウコが腕を掴んでそれを制止する。
「ジャミはんが……。日ノ本は任せたって……。ウチらはこのまま日ノ本へ向かわなあかん……っ!」
トウコの震える言葉には、込み上げる不安を必死に堪え、仲間から託された想いを胸に日ノ本へ向かう強い覚悟が滲んでいた。
「……っ」
サンズイは歯を強く食いしばり、こみ上げる悔しさをその場で飲み込む。
(キザム……無事でいろよ……っ!)
サンズイはトウコと共に、険しい表情のまま日ノ本へと続く道を再び走り出した。
ところ変わって、少し離れた森の道。
キザムたちを追って急ぐ、クノ、ナナシ、チユの3人の足が突然止まった。
「あの爆発……」
クノの胸を、言いようのない嫌な予感が激しく掻きむしる。
「アタシらの進行方向みたいだね。いったい何があったんだろうね」
チユが眉をひそめながら空を見上げる。
「口より足動かす! さっさと現地に行って確認するよ!」
ナナシが鋭く声を張り上げ、再び速度を上げて駆け出す。3人は不安を胸に、爆心地へと急ぎ足で向かった。
その頃――。
樹々がなぎ倒されたクレーターの中心では、ボロボロに崩れ、異形の肉体をさらけ出して倒れ伏すヨルの姿があった。
そして、そのクレーターの縁には、もう一人の人影が立っていた。
「(誰かニャ? ここからだと見えニャいニャ……)」
瓦礫の陰から、ミケがハラハラしながら下を覗き込んでいた。
クレーターの縁に立つ男――その右足首には『熊』の古代文字が刻まれていた。
男は下に倒れたヨルを見下ろし、冷徹な笑みを浮かべる。
「ボス……。いや、ヨル。まさか本当にやられるなんてな……。でも大丈夫だ、これでまた新しい実験ができる」
ヨルは気を失っているらしく、意識のないままピクリとも動かない。
男は黒い外套の下から、怪しい色とりどりの液体が詰まった注射器が並ぶ黒い鞄を取り出した。その中から一本を躊躇なく抜き取り、空気を抜いてヨルの身体へと突き立てる。
「前に偶然出会った男……ヒョウゲツとか言う奴は、『古代文字』の真のチカラを引き出す前に死んでしまったからな……。安心しろ、ヨル……お前は『鵺』を超える化け物になれる……っ!」
次々と別の注射器を手に取り、ヨルへと打ち込んでいく男。
体内に注入された液体が混ざり合うと、ヨルの異形の身体からは液体の色に応じた不気味な煙がシューッと立ち上った。
「(どうしてニャ……? あれは……かつて、私達が打たれた薬ニャ……! それに、アイツは……っ!)」
ミケは息を呑み、正体を隠していたその男の顔を見て戦慄する。
さらに詳しく見ようと身体を乗り出した瞬間、足元の小石がカランと音を立てて転がり落ちてしまった。
「誰だっ!」
『熊』の文字を持つ男が鋭く振り返る。
見つかってしまったミケは、思わず小さく息を漏らした。
「ツキノワ……っ! ボスに何してニャ!?」
姿を現した男――ツキノワは、ミケの姿を認めて一瞬目を見開くが、すぐに冷ややかな笑みを浮かべた。
「ミケ……!! (ふっ、見つかってしまったか)……おい、ボスの手当てをするのを手伝ってくれないか?」
ツキノワはそう言いながら、隠し持つようにして一本の注射器を背後で構えた。
瞬間、ミケの背筋に凄まじい悪寒が走り、全身の毛が逆立つ。本能が告げる危険信号が、頭の中で鳴り響く。
ツキノワの言葉など耳に入らない。ミケは反射的に身を翻し、その場から猛烈な勢いで逃げ出した。
「チッ、逃げたか...。まぁいい今は実験の続きだ。」
ツキノワは持っていた注射器を勢いよくヨルへと突き刺した。
(なんで……! いったい誰を信じたらいいニャ……っ!!)
絶望と恐怖に駆られ、ミケは森の闇へと必死に消えていった――。




