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第58話 守るべきもの、残された者

吹き飛ばされた衝撃で瓦礫の山に叩きつけられたキザムは、なんとか体を起こそうと激しく咳き込んだ。

「くそっ……なんて力だ……!」

その合間にも、サンズイとリオンの激しい刃のぶつかり合いが響き渡る。

愛刀『緑葉』を構えたサンズイが鋭い斬撃を打ち込むが、リオンは大剣の一振りでそれを強引に弾き返していく。

リオンが放つのは、単なる腕力ではない。突如として平穏を奪われ、実験体として人生を狂わされた者たちの、どうしようもない絶望と怒りの重みだった。

「お前たちに何が分かる! 平和にのうのうと生きてきた奴らに、俺たちの怨念が跳ね返せるか!!」

荒れ狂う大剣の連撃。あまりの重圧に、サンズイの足元がメリメリと踏み砕かれ、膝が大きく沈む。

離れた場所からその凄惨な光景を目にしたキザムの胸に、迷いが走る。リオンたちが抱える過酷な運命を知ったことで、拳に込めるべき熱量が鈍っていたのだ。

――その迷いと弱気を、刃を交えるサンズイは見逃さなかった。

「迷うなキザム! 早く戻って来い!!」

サンズイはリオンの狂暴な一撃を身を削る思いで受け止めながら、背後のキザムに向かって鋭く叫ぶ。

「同情して足を止めるな、今お前が守るべきものは何だ!!」

サンズイの的確で厳しい叱咤が、キザムの胸を強く打ち抜く。

そうだ――同情して足を留めている場合じゃない。救いたいと思うなら、そして仲間を守りたいなら、今ここで自分のすべてをぶつけるしかないんだ。

仲間との絆、そして理不尽な運命をぶち壊したいという純粋な熱量が、キザムの胸の奥で燻っていた火種を激しく煽り立てる。

かつて「荒んだ心では使えない」と決めつけていた炎は、仲間を守るための温かく熱い意志によって、いま再び解き放たれようとしていた。

「……ああ、待たせたなサンズイ!!」

立ち上がったキザムは両手を強く握りしめ、かつて自身の体に刻み、その力を知る『炎』の文字を、改めて左手のひらに強く刻み込む。

肉体を焼くような熱の奔流が左手から全身へと巡り、見たこともない圧倒的な熱量が空間そのものを歪ませていく。真の熱量を宿した――『炎』の古代文字による『煌炎』だ。

「お前の絶望も怒りも、俺が全部まとめて焼き尽くしてやる!!」

爆発的な速度で間合いを詰めたキザムの帰還に、サンズイが不敵に笑い、絶妙なタイミングでリオンの体勢を崩す一撃を叩き込む。

「いけ、キザム!」

「これでおわりだ……っ!! 『煌炎』――!!」

キザムの覚醒した左手が、リオンの構える大剣ごと胸元へと叩き込まれた。

ドォンッ!! と大地を震わせる轟音とともに凄まじい爆風が吹き荒れ、黄金色の炎がリオンの防壁を完全に打ち砕く。

「ぐっ……なに……この熱は……!?」

圧倒的な熱量の前にリオンの巨体が吹き飛ばされ、地面へ激しく叩きつけられた。

舞い上がる砂煙の中、リオンは息も絶え絶えに膝をつき、そのまま静かに倒れて動かなくなった。

激しい戦いの末の、リオンの最期だった。

一方その頃――。

クノを執拗に追い詰めていたミケは、その信じられない光景を目にして完全に動きを止めた。

「嘘……でしょ……? リオン様が………?」

目の前で、絶対的な存在であり世界そのものだったリオンが崩れ去る。

ミケの中で、希望のすべてが音を立てて崩壊していった。

その隙を見逃さず、一瞬でミケの背後へと回り込んでいたジャミが、素早くその首筋へと指を触れさせる。

ジャミの左肩に刻まれた『蛇』の古代文字が怪しく光り、体内の神経毒が一気にミケの全身へと流し込まれた。

「っ……これ、は……?」

強烈な麻痺が、ミケの全身の自由を瞬く間に奪っていく。

動かなくなった手足のまま、ミケの瞳から光が失われ、顔面が狂気と絶望に歪んだ。

愛するリオンがいない世界なんて、生きている意味すらない。人体実験の被験者としてすべてを奪われ、帰るべき場所も、他にすがるものさえなかったミケにとって、リオンだけがこの残酷な世界で生きるための唯一の支えだった。

ミケは崩れ落ちるように地面に倒れ込みながら、大粒の涙を流して絶叫した。

「リオン様がいないなら、私も殺してよ……!! 私を一人にしないでニャあああっ!!」

「ここで命を投げ出すな……生き延びて、いつか本当の居場所を……」

ジャミが静かに諭そうとするも、ミケは聞くだけの余裕もなく、血走った目で喚き散らす。

「やめて、やめてニャ……! 一人にしないで、リオン様のところに連れてってよ……!!」

激痛と奔流する麻痺毒が神経を焼き尽くすように全身を駆け巡り、その負荷に耐えきれなくなった脳が強制的に意識を遮断する。ミケはガクッと白目を剥き、そのまま糸が切れたように意識を失って気絶した。

静まり返った戦場に、ただ風の音だけが吹き抜けていくのだった――。

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