第57話 絶望を纏う者たち
ハヤトの肉体が音もなく消え去り、あとにはただ灰色の砂だけが残されていた。
その光景を目の当たりにしたキザムたちは、言葉を失ったまま立ち尽くしている。
「……コレが、作られた命の最期なんだ。まるで存在すらも否定されているかの様だろ……」
ジャミは自らの左肩をそっと押さえ、心なしか悲しげで、どこか切なげな表情を浮かべる。
その瞳の奥には、自分もいつか同じように砂と化して消えるのではないかという、拭えない恐怖と諦めが揺れていた。
「……。ジャミ……」
クノはジャミの横顔を見つめ、言葉を失う。
(いつかジャミも、あんな風に消えてしまうかもしれない)――そう考えると、続く言葉がどうしても思いつかなかった。
重苦しい沈黙を引き裂くように、サンズイが周囲を警戒しながら鋭く声を張り上げる。
「さっきのドンパチでヤツらに俺たちの事が気付かれた可能性が高い、一度里の中に身を隠すぞ!」
サンズイの冷静かつ的確な判断に、一同は頷いた。
これ以上無駄な戦闘は避けるべきだ。そう判断した4人は、一気にアメルイーストの里の入口へ向けて駆け出した。
だが――その行く手を塞ぐように、不気味な気配が立ち込める。
「見つけたニャ!」
軽やかな足音と共に、三度ミケがその姿を現した。口元を厭らしく歪め、鋭い鉤爪をギラつかせている。
「またお前か……っ!」
キザムが舌打ちし、両手に『火』の文字を纏わせて一歩前に出る。
しかし、ミケは余裕の笑みを浮かべ、甘ったるい声を張り上げた。
「今回は私一人じゃニャいのニャ! リオン様ー!!」
ミケがうっとりとした瞳で呼ぶと、ドン、と大地を踏みしめる地響きと共に、屈強な男が姿を現した。
その右胸に宿るのは、猛る『獅子』の『古代文字』。
たてがみを思わせる髪を逆立てた大柄な男――リオンだ。
同じネコ科の猛獣であるリオンの姿を見つけるなり、ミケはパッと顔を輝かせ、ハートマークが浮かびそうなほど全身で分かりやすく惚れ惚れとした視線を送る。
「あぁもう、リオン様ったらカッコいいニャ……!」と、すっかり戦闘を忘れてメロメロの様子だ。
そんなミケの様子を他所に、リオンは巨体に似合わぬ驚異的な身のこなしで目の前に着地した。
冷徹な視線をキザムたちへと向け、圧倒的な覇気を纏いながら低く笑う。
「ミケ、よく見つけたな!」
ミケの頭にリオンがポンと大きな手を乗せると、ミケはまるで恋する乙女のようにパッと赤面して身をよじらせる。
だが、その表情をすぐに戦闘の凶暴さへと切り替え、リオンはキザムたちを睨みつけた。
「なぜお前たちは俺たちの邪魔をする!」
その声には、猛々しく大きな怒りがこれでもかと込められていた。
「悪い事しようとしてるヤツらを放っておく訳がねぇだろ!」
キザムが臆することなく言い返す。しかし、リオンの怒りはさらに沸点を越える。
「悪い事だと……。誘拐し、人の体を勝手に弄ぶヤツらは悪くないとでも言うのか!?」
リオンの言葉には、身を焼くような強い怒りと、拭えない過去の傷痕が滲んでいた。
「お前達には突如平穏な生活を奪われた気持ちがわかるか!? 故郷にも帰れなくなった者の気持ちが分かるか!!」
怒号とともに、リオンは背中に背負っていた大剣を凄まじい勢いで抜き放ち、そのままキザムめがけて斬り掛かる。
キザムは慌てて『火』を宿した両手で大剣を受け止めるが、リオンの底知れない怪力に文字通り押し潰されそうになる。
彼らが受けた傷は、キザム達には到底理解できないほど深く、呪わしいものだった。
だが――だからといって、このまま暴虐を野放しにすることなど絶対にできない。
「リオン様、やっちゃえニャ!」
ミケが黄色い声を上げると同時に、獰猛な笑みを浮かべてクノへと飛びかかった。
「っ……!」
右手の鉤爪が虚空を鋭く斬り裂く。
クノはとっさに身を翻し、後に飛んで辛うじてその一撃をかわす。
「抵抗したって無駄ニャ! さっさと楽になるといいニャ!」
ミケは容赦なく鉤爪を振り回し、猛烈な連撃でクノを追い詰めていく。
「サンズイ、キミはキザムの方を! 僕はクノの方に行く!」
ジャミが短刀を抜き放ちながら叫ぶ。
ジャミはサンズイにキザムの加勢を任せ、迷うことなくクノの救援へと走り出した。
一方、サンズイは愛刀『緑葉』の白鞘を払い、リオンへと鮮やかに斬り掛かる。
しかし、リオンはキザムを押し返したその勢いのまま、片手で大剣を軽々と振るい、サンズイの刃を凄まじい剛腕で真正面から受け止めた。
「無駄だ!」
リオンの眼光が血走る。
「お前たちには俺達は止められない!!」
リオンは、なおも大剣にしがみつくキザムごと、その巨体から放たれる圧倒的な遠心力で一気に吹き飛ばした。
大地を抉るような激しい衝撃が走り、キザムたちの陣形が大きく崩れ去る。




