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暑さが過らせる記憶

「転生王女と天才令嬢の魔法革命」のコミカライズが電撃マオウ様で連載が開始されました! 記念の短編を投稿します。

「ふんふんふふーん♪」

「アニス様、今日は何を作ってるんですか?」


 今日は休日。その休日の離宮の厨房に立っていた私に声をかけてきたのはレイニだった。

 離宮の食事は基本的にイリアとレイニが作っているけれど、たまに私が気が向いた時に料理している。

 私が作るのは軽食だったり、お菓子とか、あとは私が食べたいと思ったものを思い浮かべた時だ。今日は不意に食べたくなったものがあったから、それを作っている。

 とは言っても、調味料が足りてないんだよね。私が食べたくなったものは〝前世〟で食べてたもので、パレッティア王国にはそれに代わる調味料が見つかってない。

 だからあくまで近いものを、って思って作っている所だ。私の手元を覗き込んだレイニは目を瞬きさせる。


「パスタですか?」

「そうだね。私が作りたいのは冷やし中華なんだけど」

「聞いたことのないパスタですね。外国のパスタですか?」

「遠い国の食べ物らしいよ。私も伝聞でしか聞いたことないけど」


 前世の記憶のことは適当に誤魔化しつつ、私は手を進める。

 そう、私が食べたくなったのは冷やし中華だった。基本、温暖な気候で一定しているパレッティア王国だけど、時には暑さが続くことがある。その暑さを感じていると、不意に食べたくなったのが冷やし中華だった。

 麺はパスタで代用するとして、具材はハムと卵、キュウリとトマトと十分。あとは足りないのは調味料、特にタレの調味料がないのだ。


「やっぱり醤油欲しいなぁ……代用品があれば良いんだけど」


 米なら一部の地域で栽培されているのは知っている。米の栽培については個人的に支援してるし、取り寄せている。

 醤油もパレッティア王国にはなくても、他の国にならあるのかもしれない。まだ今の所見つかってないけど。

 なので私が今作っているのは冷やし中華をモデルにした、冷やし中華風のパスタというのが正しい。

 何度か味見を繰り返しながらタレを作る。冷やし中華モドキのパスタは何度か作っているけれど、まだまだ理想には届かない。冷やし中華として拘らなければ一つの料理になっているのかもしれないけれど。


「これは見た目も鮮やかで美味しそうですね」

「うん。四人分作ったし、ユフィとイリアも呼んで来ようか」


 私が四人分の冷やし中華風パスタを盛り付けている間にレイニにユフィとイリアを呼んできて貰う。


「あら、ヒヤシチューカですか」

「ヒヤシチューカ?」


 何度か食べたことがあるイリアは皿に盛り付けられたパスタを見て呟く。ユフィは聞き慣れない料理名に小首を傾げた。


「アニスフィア様のオリジナルパスタですよ。暑さを感じる日にはよく作っています」

「まだまだ理想には届かないんだけどね。食べようか?」


 食堂のテーブルを四人で囲んで冷やし中華風のパスタを口に運ぶ。私は箸を使っているけれど、他の三人はフォークだ。

 適度に具材を掻き混ぜてから啜り込んだ冷やし中華風のパスタはあっさりとした味付けだ。醤油がないから同じような味わいではないけれど。

 醤油の代わりに出来ないかと思って色んなタレを巡っている内に代用出来そうなものを民の間で広まっているものを自分なりにアレンジしたものだけど、これはこれで良いものだ。


「うん、これ美味しいですね」

「あっさりとした味付けで、暑さが続く日には良いですね」

「えぇ」


 私が具材を混ぜてから食べているのを見てから、皆が私に倣うように具材を掻き混ぜてからくるくるとフォークで巻き取るようにしながらパスタを食べている。

 好評のようで何より、と思いながら口元を緩めて食事を進める。麺はパスタだし、味付けだってそのものって訳じゃない。それでも美味しければそれで良い、と思える。


「イリア様は作らないんですか?」

「このレシピ通りになら作れますけれど、アニスフィア様には理想があるようで」

「これでも十分美味しいと思うんですけどねぇ?」


 レイニが不思議そうに首を傾げている。イリアは表情を動かさずに一口ずつ確かめるように冷やし中華風パスタを食べている。

 恐らく、前に食べた時との差異を探しているんだと思う。私はあくまで再現したくて作ってるから、イリアでも冷やし中華が作れる訳じゃないからね。

 ただ、そこから派生した新しい料理や味付けをイリアが見出してくれることもあるから、こうして前世の知識を思い返しながら料理を作るのは止められない。


「美味しい? ユフィ」


 無言で食事を進めていたユフィに問いかけてみる。ユフィは口の中に残っていたパスタを呑み込んでから微笑を浮かべる。


「えぇ、見た目も鮮やかでしたし、さっぱりとしていて良いですね」

「ふふ、それは良かった」


 まだまだ再現しきったとはいえない冷やし中華風のパスタだけど、これはこれで良いものだ。ここからもっと美味しく出来ると思うし、再現するために出来ることだってある。

 ある意味で、それは私の人生と一緒だとも思う。再現するだけじゃなくて、この世界で生まれる新しいものがある。

 それを自分で成し遂げていくというのは、やっぱり楽しいことで、夢とか希望が溢れていることなんだと思えるんだ。


「それにしてもアニス様、それ器用ですよね?」

「箸のこと? レイニもやってみる?」


 ――少し暑さを感じる離宮での一日。それは穏やかにも過ぎていく。

 小さな積み重ねを繰り返して、不意に振り返った時にその積み上げてきたものを思い返させてくれる。

 まだ暫く、この暑さは続いていくようだ。

 

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