【2】ー18 潜入と望まない遭遇
年内最後の更新ということで一日早めます。
もう少しで第二章も終わるので、最後までよろしくお願いします。
そうして、準備は整った。
「みんな、行けるか?」
同時に頷くメンバーを見て、レヴァンは嬉しさがこみ上げる。しかし、この場にはファミグリアが揃っているわけではない。再び気を引き締めた。
「ファミグリアは家族。家族は娘の非行を許しません」
レヴァンが淡々と言う台詞に全員が若干苦笑気味の反応を示す。だが、その内側にはさらなるやる気が満ち溢れていた。
「家族の問題は家族で片付ける。リンに何があったかはわからない。でも、そんなことは知ったこっちゃない」
レヴァンはもう一度全員を見回すと、大声を放った。
「……リンを連れ戻すぞ! 気合い入れてけ!」
オー! と全員が握りこぶしを互いにぶつけ合った。ハンスも若干恥ずかしそうに乗ってくれたことが、レヴァンにとっては嬉しい誤算だった。
――これで残りはアイツだけだ。
隔壁北門には装甲車が止まっていた。これである程度まで目的地に近づいた後、潜入を開始するという作戦らしい。
五人はそれに乗り込んで、シレンティアを離れる。
例の施設がある場所は、荒野にある断層の影。それも結構な距離離れているため、その施設を建築した当初の意図も容易に想像できるというものだ。
断層までは行かずに、少し距離をとって装甲車は停車した。攻撃はない。それでも気づかれていないという保証はない。
レヴァン達は慎重に動き、ついに施設へとたどり着いた。ここまでまだ相手の動きはない。
「なにか策はあるのか」
ハンスの質問に、レヴァンは軽く練っていた作戦を、自分で確認する意図も含めて口に出した。
「俺、フロル、アミナとおまえら兄妹の二つに別れようと思う」
「どっちが囮だ?」
「できればそっちで騒いでくれれば助かる」
ふん、とつまらなさそうな声を出してそっぽを向くハンス。それを了解の意思と受け取り、カナンにも確認した。
「わかりました。そちらも気をつけて、ですよ?」
「ありがとう」
それから二、三互いに確認してから、チームは二手に別れる。パルメル兄妹は、速やかに施設の正面の方に移った。
「どうして囮作戦?」
フロルが尋ねてくることに、どう答えようか悩んだ挙句、素直に答えることにした。
「ここには非合法の傭兵もいるらしいから。戦力を分断しないと、下手すれば人海戦術で潰されてしまう。それにアイツらなら身の安全は守れるだろうしな」
問題は俺達の方だよ、とレヴァンは施設を睨みつけながら言った。
「……なるほどね」
フロルが納得したような声を出して、その後、静寂が訪れた。レヴァン達はおとなしく機会を待つ。
「…………レヴァ、ン?」
アミナが不思議そうにレヴァンを見る。アミナの頭の上には、レヴァンが手のひらを載せていた。
「大丈夫。みんなを信じろ」
「…………うん」
アミナの体から余計な力が抜ける。そして、アミナは今まで自分の体が震えていたことに気がついた。そんな自分に笑ってしまう。
互いに互いの目を見つめ合う。その中には解けることなどないと信じて疑わない、強い意志が見て取れた。
そして、
「……来たぞ」
通信端末が二回だけ震える。ハンスたちからの合図だ。
「行こう」
レヴァンの言葉に二人も頷くと、レヴァン、フロル、アミナの三人は施設の裏口を慎重に破壊。速やかに侵入した。
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……ここはどこだろう?
いままで眠ってたのだろうか。起き上がると、そこはあたしが寝る前に見た木造の部屋の景色はなかった。
あたしに見えたのは、灰色一色の部屋。硬そうな床。硬そうな壁、硬そうな天井。そこには小さな電球がぶら下がっている。
見覚えのない、部屋とも言えないようなその場所に、突然、あたしは不安になった。
お母さん。
お父さんは?
あたしが唯一の心の拠り所の姿を探していると、これまた灰色の硬そうな扉がギギギ、と音を立てて開いた。
「あ、目が覚めたんだね」
「……だ、だれ?」
「あ、怯えなくて大丈夫だよ。おじさん、怖い人じゃないからね」
入ってきた人の姿にあたしは本能で身構えた。
よれよれの服に、ボサボサの髪。猫背の男の人。顔つきは老けていないのだが、その格好のせいで年齢がよく分からない。しかし鋭い目は爛々と輝く。そんな人だった。
あたしが未だ怯えた視線を向けていると、突然、その男の人が頭を力強く撫でた。その感触に、あたしはなんだか安心感を感じた。
「君はこの建物の前で眠っていたんだよ?」
「……ここで?」
「そうだよ」
男の人は、ニカっとした笑みであたしの方を向いた。
「君、帰るあてはあるかい?」
「……わからない」
「そっか……」
男の人は無精な顎髭を撫でるように手を当てて、しばし考える素振りを見せると、
「それなら、ここが今日から君の家だ」
「……え?」
意味が分からず首を傾げると、男の人は変わらず笑顔であたしを見た。
「おじさんが面倒を見てあげる」
あたしはこう言われて、
「……」
この安心感にすがっていたかった。そう、すがっていたかったのだ。
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「リン」
厳しい声がアタシを呼ぶ。その声に一瞬身を竦ませながらも、アタシは振り向いて声の主に答えた。
「はい、マスター」
そこには、一人の人が立っている。老成した雰囲気を出す、三十路前の男性。常に身に纏っている白衣のポケットに手を突っ込み、感情の読めない瞳でアタシを見ている。
彼は形の鋭いメガネを押し上げながら、アタシを責めた。
「試作品の整備が終わってないようだが?」
「申し訳ありません。今すぐ致します」
アタシがそう言って一礼すると、マスターは苛立たしげに舌打ちをした。
「まったく……誰がここまで育ててきてやったと思っている」
「……」
アタシは悟られないように唇を噛んだ。
「……まあいい。整備を怠るな。もうすぐ来客だよ」
鼻を鳴らしてから背を向けて去っていく彼に、アタシは確かめずにはいられなかった。
「マスター、彼らに危害は――」
「加えない。安心しなさい。それより、来客時はおまえも持ち場を守りなさい」
そう言い切って、研究室へと向かうマスターを、
「わかり、ました……」
アタシは為す術なく見送ることしか出来なかった。
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「静かだな……」
そうレヴァンがつぶやいた。だが、思いのほかそれが響いてしまい慌てて口を閉じる。フロルとアミナが無言で呆れた目を向けてきた。
謝罪の意を示し、三人は再び慎重に進み始める。奥に進むにつれてゴチャゴチャした感じはなくなっていくが、場所は大分雰囲気を出し始めていた。
裏口から侵入した後、少しずつ確実に進路を道に従って進む。ミグルスの鼻が敵の存在を感知すると、その道を避けて更に奥へ。
「ほんとにこの道で合ってるの?」
小声でそう尋ねてくるフロルに頷く。レヴァンは進行方向に、強い魔力を胸への圧迫感として感じていた。
「アミナ、大丈夫か?」
「…………問題、ない」
どうしたことか、アミナは若干暗めの場所に入ってから何かに怯えるようにして動きがぎこちない。フロルも心配そうに見ていた。暗い場所が苦手なのかもしれないが、今更ここでどうにかすることもできない。
とにかくなるべく早く進もう。レヴァンはそう考え、目の前の扉を慎重に開けて、中には入り込んだ。フロルとアミナも後から続く。
そこは、不気味な部屋だった。
照明もなく真っ暗な場所かとおもいきや、両側から淡い光が漏れていて、おぼろげに中の様子は知ることができた。光を放っているのは、いくつも並んでいる円筒状の装置だった。
レヴァンたちはそれを見て危うく声を発しそうになった。
「こ、これ……」
フロルが小声でつぶやく。それに頷いて返すことしか、レヴァンにはできなかった。
「…………冥種」
アミナが言った通り、そこには力なく浮かんでいる冥種が入っていた。
「どういうことだ……?」
「見て、レヴァン」
レヴァンが首をひねっていると、フロルが一点を指さす。レヴァンがそこを注視すると、そこには一本の管が装置に取り付けられていた。よく見ると、それはすべての装置に付いている。
「何かを吸ってる……?」
装置の作りを見たフロルがそうつぶやいた所で、
「……きゃっ」
突然目の前の装置がゴボボと音を立てて、水泡に埋め尽くされた。しばらくするとその水泡も消える。しかし、その中に――冥種の姿はなかった。
「消えた?」
「何かを吸った後に冥種が消える……? まさか、冥気を――」
フロルが何かを結論づけようとする。それをレヴァンは、
「危ない!」
強く突き飛ばした。
「……え?」
意味もわからずバランスを崩しながら、フロルはレヴァンを見る。すると、その頭上から黒い影がフロルのいた場所に降り立ち、返す刀でレヴァンに拳を突き込んでいた。
ガツッ!
生身とは考えられない音を出して、レヴァンが腕を交差させて受け止めた。その影は素早く体勢を立て直し、レヴァンたち三人から距離を取った。
その影は注意深く周りを見渡すと、再びレヴァンたちに向けて拳を構える。光がうまく届かずに、襲撃者の顔を知ることはできない。防具もまともについていない軽装で、普段着と言われても納得しそうな装いであることはなんとなく察せられた。
隠す意図はないのか、その人物は口を開く。
「気配消してたのに、よくわかったね……」
「おまえの魔力は、なんか異質だからな」
聞き覚えある声に、レヴァンがすかさず応える。それに相手はふっと笑った。
「ひどいね、アタシは褒めてるのに」
「俺だって褒め言葉だぞ、リン」
フロルとアミナが揃って、え、と驚く。それを見て襲撃者は肩をすくめ、一歩前に出た。その顔が装置の光を受け、明らかになる。
それは確かにリン、だった。




