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招魔の祈り ~law distorters~     作者: 平山コウ
2.~ファミグリア結成~
39/71

【2】ー17  戦闘準備


「レヴァン――っ!」


 フロルが叫び声を上げる。

 その声をしっかりと認識することなく、レヴァンはおもちゃのように弾かれて、吹っ飛んだ。

 機関銃は止まない。

暫くの間、無秩序な破壊をまき散らした後、弾切れか意図的か、ようやく銃撃が止む。そして、その飛空艇も前のものに続いて飛んで去った。





 守り手の間はひどい有様だ。

 庇護者のイスはことごとく撃ちぬかれ原型を留めず、壁や床も弾痕で埋め尽くされている。しかし、遠かったおかげか、入口周辺には被害が少なく、けが人も出なかった。傭兵がうまく誘導していたのか、庇護者も無事だ。

 しかし、


「「レヴァンッ!」」


 入口の方から二人の少女が走ってやってくる。何度も躓きかけながら、二人は倒れて動かないレヴァンのそばへと近づいた。


「…………レヴァン……っ」

「しっかりして! ねぇ!」


 即座にアミナが治癒をかけるが、あまりに怪我がひどすぎた。

 すでに体全体が赤く染まっている。被弾箇所は多くて数えられない。しかし驚くべきことに、そんな状態でも意識は保っていた。


「心配……ない……」

「ないわけないじゃない! いいからじっとしてて! 私とアミナで今治すから!」

「ほんと、うに……心配、いらないって……」

「嘘だよ! だってこんなに――」


 そこまで言って、フロルは疑問を覚えた。いつのまにか血が止まっているのだ。

 いくら治癒魔法の効果が高かろうが、これはありえない。治癒魔法は止血と傷の修復を同時に行うために、先に血だけが止まることはないのだ。

 アミナも驚いたように目を見開いてレヴァンを見る。少女二人の視線の先には不敵に笑うレヴァンがいた。


「……だから心配いらないって言っただろ?」


 そう言ってレヴァンが体を起こした。


「ま、まだ怪我が……」

「どこに?」


 あまりにレヴァンが純粋に聞いてくるものだから、フロルは一瞬意味を理解できなかった。しかし、すぐに気を取り直すと、レヴァンの身体を調べる。

 そして、驚愕した。


「……な、大丈夫だろ?」


 レヴァンの笑顔が痛々しい。隣のアミナも息を呑む。そしてフロルは顔を険しくした。


「自然治癒……ううん、これは……術式?」


 術式とは魔法陣を必要としない魔法のことを特に指す。フロルの目には、レヴァンの身体が魔力の影響を受けていることが見えた。

 その影響と因果があるのかどうか。レヴァンの傷は急速に塞がりつつあった。いや、すでにふさがっており、後は傷跡を消すだけの段階に至っている。


「……レヴァン、説明して」

「…………して」


 フロルが厳しい視線を向け、アミナも真面目な表情を向ける。レヴァンはそれを受けて、う、と怯んだ。


「い、いや……その、な……いつのまにかこんな化物みたいなことになってて……俺が自分でこうなったわけじゃないんだ」


 レヴァンの言葉に二人の視線がさらにきつくなる。レヴァンはさすがに気味悪がられたかと思った。

 そこでフロルが怒ったように口を開く。


「……なんで言ってくれなかったの」

「へ?」

「なんで言わなかったの! どうせ怖がられたくなくて遠慮したんでしょ!」


 フロルがあまりに図星をつくので、レヴァンは硬直する。続けてアミナが追撃をかけた。


「…………レヴァンはレヴァン。関係ない、て言った」


 あれ、怒るのそっち? とレヴァンが呆ける。


「同じファミグリアでしょ。考える前に頼ってよ」

「…………遠慮、だめ」


 どうやらレヴァンは二人のことをまだまだ甘く見ていたようだった。

 レヴァンは苦笑を漏らしてしまう。あまりに下らないことで悩みすぎたな、と自分を笑った。ほんとに馬鹿だな。こいつらも……自分も。




「一段落ついたかしら?」


 レヴァンが自分に訪れた変化についてフロルに報告をし終わると、庇護者が来た。傭兵たちには警備の増員と態勢の立て直しをさせているようで、今この場には四人しかいなかった。


「一応」


 レヴァンの答えに笑顔で返して、庇護者はレヴァンたち三人に対して口を開いた。


「この場は危険だわ。あの石を取ったからといって、もうここを襲わないとは限らない。早く浄法院の方へ戻りなさい」


 珍しく鋭い声音に、三人ともが軽く目を見開く。しかし、


「おか――庇護者。貴女は私たちに教えるべき情報があるはずです」


 フロルが毅然と言い切るのにコクコクと頷くレヴァンとアミナ。


「なんのこと?」


 聖女のような笑みで流す庇護者。しかしその顔は嘘くさかった。


「リン・クエスティは私たちの友人です。彼女が関わっている今の騒動のことです。白い髑髏の腕輪……黒装束は『魔の狩人』ですよね?」

「魔の狩人?」


 レヴァンの発した疑問を黙殺する形で答えを待つフロル。しかし都市最高の権力者がそう簡単に情報を漏洩するはずも――


「そうよ」


 あった。


「……ずいぶんあっさりと認めるんですね?」

「まぁ、フロルちゃんに隠しごとができるとは思ってないから」


 そういって邪気のない笑顔を浮かべるイレーネ。






 イレーネからすべての情報を聞いた時、フロルは思い当たる節があった。


「魔人強化実験の施設……ですか? リンはそこに?」

「……そうよ」


 フロル、イレーネの両名が一気に顔を暗くする。レヴァンとアミナが話についていけずに困っていると、それを察したのか、フロルがイレーネに確認してから話し始めた。


「まだ私たちが五歳……かな。それぐらいの頃に、『魔人育成』っていう計画で研究が進められていた場所があったの」

「魔人?」

「うん。そのときは浄魔士っていう概念も無いし、戦力的に充実してなくてすぐに戦力が必要でね。それで、人間が魔物みたいに魔力を扱えたら、ていう仮説が生まれたんだって。招魔の儀はまだ考えられていなかったけど、魔界の存在は知られてたから」

「それって……」


 フロルは苛立ちを隠そうともせずに顔を歪める。レヴァンがそれを認めてから続けた。


「まさしく、俺のことじゃないか。いや、人間じゃないけど」

「……」


 フロルが唇を噛む。アミナがあっと驚いた顔をしている一方で、イレーネが言葉を付け加えた。


「でも、研究は完成していないのよ」

「そうなんですか?」


 自分の過去について知ることができるかも、と少し期待していたレヴァンが心中肩を落とした。


「というよりも計画は凍結させられちゃったんだけどね~」

「…………どういう、こと?」


 アミナが思わず疑問を挟む。イレーネはそれに、真面目な顔で答えた。


「……人体実験を、していたからよ」

「「……え?」」


 レヴァンとアミナがフロルを見る。フロルは頷いた。


「人間に魔力を取り込ませるという意味が分かってなかったから。降魔の式で堕ろした魔物を暴走させて魔力を採取してから、それを……」


 言うのが苦痛というようにフロルが顔を俯かせる。イレーネが続けた。


「要するに、無理やり注入したのよ」


 軽く言っているが、それはかなり酷いことだ。

 人間は魔力過多だと拒絶反応を起こす。それがわかっていない時なので、加減をしているはずもない。


「…………ひどい」

「……ああ」


 想像をした二人がそれぞれ顔をしかめる。フロルも一緒に顔をしかめていた。


「それで、今回の黒幕はその施設にいるみたい。……どうする? 私はおとなしく戻ることをお勧めするけど」


 イレーネは三人の顔を見て苦笑した。この子たちがそんな注意を聞くはずもないのだ。


「今、浄魔士隊の人には隔壁の警備にあたってもらってて、戦力になる人はあまり連れていけないわ」


 それでも? と問いかけるイレーネに、もちろん、と三人が口をそろえて返した。


「……わかったわ。それではせめて何人か腕の立つ人を――」


 イレーネがそう言って通信機に手を伸ばそうとした時、入口の方から声が上がった。


「その話、聞かせてもらいました」

「え、カナン?」


 フロルがびっくりしたようにそう呼ぶ先には、カナンだけではなくハンスもいた。


「カナンさん……あなた達は今警備をしているはずじゃ……」


 とたんに仕事の態度に戻った庇護者がつぶやくようにして問う。それにハンスがいつものぶっきらぼうな口調で答えた。


「装器士は独立している。浄魔士の部隊に入ることもあるが……俺らは入ってねぇ。警備に支障はきたさないと判断して、こっちに来た」

「そうですか……」

「私たちに、レヴァンくんたちと同行させてもらえません?」


 ハンスに無理やり納得させられ、カナンに尋ねられ、庇護者はかなりの時間悩んだ挙句、


「わかりました。でも、必ず戻ってきてくださいね」


 ゴーサインを出した。


「本当にいいのか?」

「ああ、問題ねぇよ」

「そっか。ありがとな」

「別に」


 そう言って顔を背けたハンスが実は照れていることに、レヴァンは気づけるようになっていた。仲間の大切さを今一度噛み締める。

 レヴァンがどこか眩しそうに一同を見ていると、そこでカナンに名前を呼ばれた。


「どした?」

「これ。お約束していたものです」


 カナンがレヴァンの両手にあるものを乗せる。それを見て、レヴァンは驚きに目を見開いた。


「こ、これ……」

「カナン・パルメル特製、レヴァンくん専用戦闘グローブです。魔力親和力の高い布に魔法陣をいくつも編み込んでます。敵の魔法に干渉されることなく、手に纏う魔力を調節できるはずです」


 カナンの説明を何とか耳に入れながら、レヴァンはそれ――グローブを手にはめてみる。指先が出るタイプで、手の動きを阻害することはない。


「それと、いろいろ機能をつけてみました。少し右の手の甲に魔力を集中させてみてください」


 言われたとおりにすると、手の甲に魔法陣が浮かび上がり、


「うわっ!」

「「す、すごい……」」


 レヴァンの目の前にかなり頑丈であろう障壁が展開されていた。


「左の手の平には簡易魔力弾の陣が描いてあります。元から描いてある陣に魔力を通すのは威力が落ちますが、ぜひ使ってください」

「……本当に、ありがとう」


 いえいえ、と照れてみせるカナンに感謝の気持ちを何度も表しながら、レヴァンがグローブの感触を確かめるように動かす。すると、フロルがあっと声を漏らした。


「どしたよ?」

「れ、レヴァン。そのグローブもう一度見せて」

「お、おう」


 レヴァンが手を差し出すと、フロルはグローブの手首部分についている模様に注目した。よく見るとそれは、なにかの紋章のようだった。円の中で、鳥が雄々しく飛翔しているような絵を感じさせた。


「こ、これ……まさか、カナン……」

「さすがフロルさん。バレちゃいました」


 いたずらっぽく笑うカナンに、目を見開いて固まるフロル。レヴァンはたまらず理由を尋ねた。するとフロルが興奮冷めぬまま説明を始めた。


「この紋章は、浄魔士の中でもかなり限られた人からしか依頼を取らない魔工師のものなの。その魔工師は、鉄屑から無双の槍を生み出すって言われてて……」

「そんな、大げさです」


 カナンがこともなげに言い、フロルがそんなことない、と強く断言。説明不足を感じたレヴァンに気づいたのか、ハンスが口を開いた。


「『ラークスパー』。カナンは腕の良い魔工師だ」


 そこで、レヴァンはその名をクラスメイトたちとの雑談でも出てきたのを思い出した。


「そうだったのか……これ、ほんとに使ってもいいの?」

「はい、使ってください。お代は浄魔士になった時の出世払いでお願いします」

「あ、金は取るんだね」


 まあ、それでもあまりに破格すぎる。レヴァンはありがたく自分のものにすることにした。





同じシリーズの作品として、招魔の祈りの番外短編を載せています。

 ぜひ読んでいただきたいと思っていますが、暇つぶしとして使ってもらえたら嬉しいです。

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