【2】ー13 人気なんです
「リンちゃん! 次は私たちでいいよね!」
「おいずりーぞ! クエスティ! 俺たちが先でいいよな!?」
「あ、はは……。みんな、仲良く……ね? アタシ、それが一番だと思うんだ……」
講義終了後の休み時間。リンは、クラスのみんなに詰め寄られていた。
次は教官が用事でいないということで自主訓練。てっきり全員がサボるかと思っていたレヴァンであったが、そんなことはない。この学校に通う者は浄魔士を志している。
ただ、今回は教官の見張りがないため、チーム関係なしで大々的に訓練ができるのだ。
装器士を志すことになっているリンは体術の技巧は言うまでもない。今までハンスやカナンには頼みづらかった生徒たちも、これは好機と見て、必死にお願いをしている。そんな場面だった。
「お願い! 私たち魔法援護を主軸においてたから、身のこなしが悪いの。せめて足手まといにならないぐらい動けるようにならないと……」
「そんなの自分でやれよ! 俺らは魔闘士目指してんだ。さっきゅうにクエスティに教えてもらいてえんだよ」
魔闘士。簡略化された魔法と格闘術を用い、近接戦闘を行う浄魔士のことだ。
現在守護士で、『迅雷拳』の二つ名を与えられた人物が編み出した新しい戦闘技術だ。魔法を併用するために、一応装器士とは違う扱いとなっている。
「なによ。早急に、なんて言葉普段使わないでしょ! 賢ぶらないで!」
「ああ? 今それ関係ないだろ!」
お願いからただの口論に移り変わってきているその様子をすぐそばで見て、
「ははは…は………はぁ……」
リンは引きつった笑いの後にため息を漏らした。
それを少し離れた席からレヴァンが眺める。
「羨ましくはない光景だけど……前までは俺のポジションだったんだけどなぁ」
「え、レヴァンってあんなに詰め寄られてたっけ?」
「純粋に聞かないで……どうせ俺はそんなに人気はなかったよ……」
がっくりと肩を落とすレヴァン。
「え? でも十人近い子がレヴァンくんのこと――」
「カナン! 余計なことは言わなくていいからっ!」
「…………黙秘」
ん? なんだかいい情報を聞いた気が……。
顔を上げたレヴァン。それに気づいたフロルとアミナが口を開いた。
「まぁレヴァンは人気ないからねー。仕方ないから私たちが話し相手になってあげるよ」
「…………これで、寂しく、ない」
「おまえら……俺に恨みでもあるのか……?」
滅相もない、という顔をしている二人にため息をして、レヴァンは前を向いた。
「よ、おかえり」
「た、ただいま……」
かなり疲れたような顔をしてリンが戻ってくる。とりあえず、交代で訓練を見ることになったようだ。
「レヴァっち……」
「ん? どした?」
「……ゴメンね」
「へ?」
「なんでもない。……さ! フロルちゃん、アミナちゃん、カナンちゃん。みんな行こうよ!」
リンがそう言って強引に切ると、三人の手を引っ張って教室を出る。たしかに訓練の時間まではもうそんなに余裕が無いので、教室を出るのはおかしくない。しかし、
「うーん……」
「なにしてる。行かないのか?」
ハンスがそう急かすなかで、レヴァンは悪い予感しか感じていないのだった。
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「「「捕縛魔法、発射ー!」」」
「なんでぇーっ!?」
レヴァンは多種多様な捕縛魔法に追われていた。
通常の縄タイプ。領域に踏み込むと発動する罠タイプ。水から成る蛇が絡み付いてくるタイプ。そして炎の――
「っておい! 炎の網はあぶねぇだろっ!」
「てへ」
ふ、フロルのやろう……。
レヴァンがフロルを恨みがこもった目で見ていると、すぐ右側で魔力の反応。それが直線型の気配を感じ取って、レヴァンは迷わず前方に転がって避けた。
すぐ後ろを水の蛇が通過していた。
「ああっ!? なんでバレたの!? 魔法の感知でもできてるみたい!」
できてるんです。
そう心の中で応えながら、レヴァンは一息つく。まあ、正確には魔力に反応するんだけど。
レヴァンがふっと顔を上げると、そこには魔法でなんとかレヴァンを捕らえようとしているクラスメイトの姿。……なぜか全員女子だったが。
レヴァンはなんとかこの状況を抜け出すために、その女子たちの顔を心配そうに見て言った。
「なぁ、もうおまえらもかなり疲れてるみたいだし……そろそろやめようぜ」
そんなレヴァンの提案に、疲れた顔を動かして「そうだね」「そうしよっか」などの声が上がる。
これで終わりかな、とレヴァンが思った所で、
「……っ。甘いわ!」
「「「……ち」」」
レヴァンの背後に同時に展開された多様な網魔法を、あえてその方向に向かって回避することで難を逃れる。同時にその場の女子全員から舌打ちが漏れた。
レヴァンは嘆息しながら、あのなぁ、と語りかけた。
「ほんとにやめようぜ。おまえら、魔症で倒れたりでもしたらどうするんだ?」
「……う」
見事に同時に顔をしかめる女子一同。それにレヴァンは追い打ちをかけるつもりで続けた。
「おまえらが倒れたらって思うと不安になるしさ。いや、ほんとに心配なんだ」
暗に「倒れたら迷惑するんだぞ」というメッセージを込めたつもりのレヴァンだったが、女子たちが顔を朱に染めたのを見て、少しと言わずに困惑した。
「……心配してくれるの?」
「? 当たり前だろ?」
意味が分からずに首を傾げるレヴァンに、彼女たちは「……きゅん」と言って胸を押さえた。
そして一名。逆に怒りのオーラを纏う者が。
「この、たらし……」
「え、なんで怒るの」
レヴァンは気迫に押され、後退り。そして、
「よくわからないけど……とりあえず、さよなら!」
「あ、逃げるなぁ!」
フロルへの恐怖と状況の不可解さに、レヴァンは脱兎のごとく背を向けて逃げ出した。
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「あ、レヴァっち。おかえり~」
「……」
クラスの魔闘士志望の女子に真面目に体術を教えていたリンが、軽い調子でレヴァンに挨拶。
レヴァンは恐らく先ほどの状況の元凶である少女に、文句を言った。
「俺を巻き込まないでくれよ……」
「あ、はは……いやーまさか捕まえたら好きなようにしていいって言っただけであんなことになるとは思わなんだ」
「そんなルールがあったのか!?」
つ、捕まらなくてよかった……と内心今更のように冷や汗をかきつつ、状況把握が一応出来たので、もう追求しないことにした。
「……レヴァっちってモテそうだねぇ」
「そうか? だったら嬉しいけど……」
何やら感心しているふうなリンをしばらく観察した後、レヴァンは、
「じゃ」
と言って、近くの木陰に腰を下ろした。そのまま少しぐらいいいだろと休みを取ろうとする。
「俺、少し休むよ」
「うん、さっきはゴメンね」
「気にすんな。もう終わったことだし」
そう言って目を閉じる。
教官がいない訓練はこう過ごすべきだ、とゆったり考えながら、レヴァンの思考は静かに沈んでいった。
その後もテキトーに訓練をやった後、着替えて教室へ。代理の先生が連絡を口にして、放課後となった。
そこで、
「……この前は本当にごめんなさい」
「エリカ先輩? いや、いいんですよ。俺も黙りこんじゃったのが悪いんですし」
件のエリカ先輩が謝罪しに来たのをあっさりと受ける。まだ暗いままの顔だったが、
「……まだ諦めていないからね?」
そう不敵に笑って言う姿を見て、レヴァンは安心する。最後には気安げに挨拶をかわして別れた。
「……お人好しなんだから」
フロルにそんなことを苦笑気味に言われて、そうかもなぁ、とほんのり自覚。
その後ろでは、リンがミグルスを撫で回そうと走りまわり、追いかけ回していた。
「や、やめるのだ、娘よ。氷漬けにされたくなければ――」
「問答無用だー! 触らせろ―!」
リンはアミナにミグルスを紹介してもらった瞬間、愛玩動物としてミグルスに一目惚れ。それ以来、ミグルスを追いかけ回すことが多くなっていた。
そんなこんなで放課後も時間が経っていく。
そんなこんなで全ての用事が終了し、ファミグリアの面々が大体集まった所で、
「今日はクリームあんみつの解禁日!」
「「「いえーい!」」」
フロルの掛け声に、女性陣が元気よく同調。ハンスは教官に呼ばれていてこの場にいないが、カナンは参加。最近ではリンもすっかり「南の大三角」のデザートが気に入っている様子だった。
と、そういえば。
気になったことがあり、レヴァンはリンに耳打ちした。
「おまえって訓練で能力使わないの?」
そう言って、手を頭の上で動物の耳を表し、ぴょいと動かす。
「うん……まだやっぱり……」
「そっか……。でもま、いつかは見せてくれよな。おまえの姿ってやつをさ」
そう言ってリンの背中を軽く叩く。痛い痛いと言いながらリンは仄かに嬉しそうな表情をしていた……が、
「おまえの姿を見せてくれって……なんかエッチ」
「んなわけあるかっ!」
レヴァンはしばらくツッコミ担当かもしれなかった。
「じゃあ、早く行こ!」
フロルがうきうきと教室の出口へと向かう。それに続いて全員が移動を始めようとした、そのとき。
「あ、ごめんアタシだ」
鳴り響いた電子音。リンの端末からだった。
リンは端末のボタンをぴっと押し込んで耳に当てる。
「……はい…………っ。……わかりました」
短い内容だったようで、通話はすぐに終わる。しかし、
「どうかしたか?」
リンはレヴァンの顔を伺うように見て、その後ファミグリアの面々を見渡した。
「……ゴメン。用事ができちゃったよ」
「用事?」
傭兵の仕事はしばらくやめるという話だったが、なにかあったのだろうか。レヴァンはそのまま尋ねる。
しかし、リンは外せない用事だとしか言わず、急ぐような様子を見せた。
「ゴメンね! また今度一緒に行かせて!」
そう言ってリンは駆け出す。
「…………大変、そう」
「どしたんだろ?」
「……そうだな」
アミナとフロルの疑問に返しながら、レヴァンはリンの表情を気にしていた。
あの悲しげな表情は、本当にデザートが食べられないからだろうか。
「とりあえず、行きません?」
ぼんやりと考えながら、レヴァンはカナンの促しに従ったのだった。
そろそろ事態が動き出します。今度は誰の思いが出てくるのか……。




