【2】ー11 仲間と絆
闇。そして端から漏れる青い光。
その二つしか知ることのできない狭い通路。パイプやらなんやらが雑多にあるそんな場所。
そこに、数人の人間が倒れていた。
「……早くも目を付けられてしまいましたか」
白衣のポケットに手を突っ込んだままの男が、その濁った目を倒れている人間へ向ける。その者たちは、浄魔士の隠密偵察部隊の鎧を身につけていた。
軽くて、丈夫。魔法の熱線すら耐えるというその胸当てのような鎧は、まるで蒸発したかのように綺麗に胸の真ん中をくり抜かれていた。
そしてその内側も。
倒れた人間たちにはすでに息がなかった。
「本格的に攻められると都合が悪いですね……」
コツコツと靴の音を響かせながら、男は足元の偵察部隊三人を冷たい目で見る。そのまま横へ視線を向けた。
そこには無惨に破壊された水槽。中にいたモノは不安定な状態から、蒸発してしまっていた。
「研究を邪魔されると、困りますし」
そう言って男はニヤリと口唇を吊り上げる。
「行動は……早いほうがいい」
そう言って男は通信端末を取り出して操作をし、耳に押し当てた。くく、という笑いが口から漏れた。
「さて、どうしましょうかね」
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浄法院の裏でウロウロしているリンを見つけた。
「お、リンじゃん。どうかしたのか?」
朝の眠気を無くすため軽く走りまわっていたレヴァンは特に意図せず話しかける。その瞬間、リンの肩がびくっと反応したように見えた。
「レヴァっちか……助かった……」
「どしたよ?」
問いかけるレヴァンに、リンは恥ずかしそうな表情を見せる。頭をわしゃわしゃとしながら、口を開いた。
「たはは……迷っちまってさー」
「おまえ、方向音痴だよな」
呆れて笑うレヴァン。お恥ずかしいです、とリンも笑った。
「んじゃそろそろ早朝練習だし、一緒に行くか」
「もうそんな時間? よろしく」
「せっかく同じチームなんだし、仲良くしような」
それに一瞬驚いたような表情をした後、リンは肘でレヴァンをつついた。
「あちきとレヴァっちはもうマブダチじゃないっすかー」
「いや、それ誰だよ」
そうしていつものやりとりに笑いを交えながら、二人は第一修練場へ向かった。
「おはよう……ってあれ? レヴァンとリン? 珍しい組み合わせだね」
「おはよー。彼に朝っぱらから人気のない場所に呼び出されて、ね」
修練場にすでに来ていたフロルからの挨拶にリンはいつものように返す。それにキッとフロルがレヴァンを睨むのを見て、
「もう勝手にしてくれ……」
さすがにツッコむのは諦めた。
「…………レヴァン、おはよう」
「おう。おはよう、アミナ」
小さくにこっと笑うアミナに癒されつつも、レヴァンはバックステップ。その場所を通るように木刀が高速で振り切られた。
「……チッ」
「おはよう、ハンス。カナンも」
「はい。おはようございます、レヴァンくん」
珍しくパルメル兄妹が早朝練習に参加している。浄魔士の方の仕事が少なかったのかもしれない。
レヴァンは一通り挨拶を済ますと、ハンス、カナンと頷き合ってから、
「おーい、リン。ちょっといいかー?」
フロル、アミナと会話をしていたリンを呼んだ。それに気づいたリンが軽やかに近寄ってくる。
「なにー?」
「来たな。よし。組手をやろう」
え? という表情をするリンを残す形でレヴァンが拳を構える。続けてハンスとカナンも、それぞれ木刀とゴム弾銃を構えた。
「……どゆこと?」
「四人で組手。乱戦で」
未だ戸惑う彼女に「リンの歓迎行事ってことで」と言ってレヴァンが片目をつむってみせる。
リンは驚いた顔を見せるが、すぐに笑ってみせた。
「……そっか。ならいっちょ片付けてあげよっか」
「そりゃこっちの台詞だっての」
「私たちを忘れてもらっても困ります」
お互いに緊張感を高めていく。
近接戦闘が得意というわけではないフロルとアミナは、おとなしく四人の様子を見ている。
緊張がいい具合になった時、リンがレヴァンにコソっと聞いてきた。
「ハンスくんとカナンちゃんって強いの? よく知らないんだけどさ」
「なんでも装器士で、しかもその中でもかなり強い方だってさ」
「はぁ、装器士ね……って装器士っ!?」
リンが驚愕している間に、レヴァンは足を一歩踏み出した。それだけでこの場の流れを動かすきっかけには十分。
「「「……っ」」」
「え、え? ち、ちょっと待ってよ!」
リンが出遅れながらも、四人は真正面からぶつかっていったのだった。
力の強い二匹の虎が闘えば、どちらか片方は致命傷になるほどの傷を負ってしまう。
そんな意味の言葉を聞いた覚えがあるような気がしないでもない。
まして、力が強い四人が真っ向から激突したのだ。結果は目に見えている。
「あ、足がいてえ……」
「あ、アタシは肩……」
「腕がしびれちゃってます……」
「ハッ。てめぇら、だらしねぇな」
「そう言うお兄さんもさり気なく腹部を押さえてます」
「……」
悲惨な有様だった。
講義を無事に乗り越え、訓練時間もしばらくすれば終了する、という頃。レヴァン達は痛みで地面を転がりまわっている状態だった。
「言わんこっちゃない」
フロルがからからと笑いながらその様子を眺め、
「…………治癒、使う?」
アミナが心配そうにリン、カナン、ハンスの三人を見る。
「待てアミナ。なぜ俺を心配してくれない?」
「…………レヴァンは、いつものこと」
「……」
なにか根本的な部分を否定したかったが、そんな余力もない。レヴァンは力なく仰向けにぐたっと寝転がった。
とそこで、
「お? 終わったか」
チャイムが鳴るのを聞いて、身体からさらに力が抜ける。レヴァンはもう立つ気力すら起きなかった。
しかし、女性陣は違ったようだ。
「今日はもうこれでお終いだよね?」
「はい、そうです」
「…………疲れた」
「疲れた後には……?」
「「「甘いものっ!」」」
リンを除いた女子三人が意見を合わせる。
「え、甘いものっ?」
リンも興味惹かれたのか、話に混ざる。その様子を見てレヴァンは微笑ましく思う。
呆れた様子のハンスと共に、帰ろうか、と、コソコソ移動を始めようとした所で、
「二人とも、どこに行くの?」
フロルがレヴァンの、カナンがハンスの、それぞれ肩をつかんで動きを止める。
男性陣二人は、顔を見合わせた後、はぁ、と諦めたように息を吐いた。
日常っぽいこののんびり感は大事にしたいと思っています。そのせいで少し間延びしてしまうかもしれませんが、そのへんはご容赦ください。




