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招魔の祈り ~law distorters~     作者: 平山コウ
1.~異端の少年~
21/71

【1】ー20  反魔法

 まずい。その一言に尽きる。

 レヴァンはなんとか相手をしているが、ときどき直撃を食らっては確実に消耗していっている。フロルもしばらくは魔法を使うことも叶わず、イレーネも『界境』の維持に力を注いでいる。『界境』は八割方完成しており、後は上空をわずかに残すのみだ。

 外にも相当数の冥種が残っているのだろう。応援は来ない。この場はなんとか凌ぐことしかできないようだった。


「……レヴァン」


 フロルは唇を噛むことしかできない自分に苛立ち、そんなことをしている自分に苛立った。

 ――そんなことする暇があるなら、状況を良い方向に持っていく方法を考えなきゃ。

 そんなことを理性で思っていてもそう簡単にはいかない。

 そもそもあの強大種は倒せるものなのだろうか。あの頑強な胴体。金属でできているかのような硬い皮膚。そしてなにより、物理、魔法問わず大概跳ね返してしまう波動。そのせいでレヴァンがつけているナックルダスターもあちらこちらにヒビが入り、限界が近いようだった。

 ――そんな事考えちゃダメ。弱気になったら出来るものも出来なく……。

 頭を振りながらそんなことを考えたフロルだったが、何かが引っかかったような感覚がして、考えを止めた。もう一度先ほどの思考を思い出す。そして、思い至った。

 魔力も跳ね返す波動。

 フロルはハッとした。何故今まで気が付かなかったのか。

 あの強大種はレヴァンの魔力すら跳ね返した。属性の付加された他の招魔の攻撃なら、物理攻撃を跳ね返すのと大差ない。しかし、レヴァンの魔力は無属性。外傷を与えるよりもむしろ敵の内側から破壊する性質のものだ。敵の体を妨げられることなく侵す、その魔力が弾かれているというのはどういうことか。


 波動には、魔力と反発する性質がある。


 単に壁としての機能で攻撃を防いでたのではなく、それに加え魔力と反発する性質があるとしたら、それは類似するものが存在する。他の個体の魔力と反発するという魔力そのものである。

 冥種が扱うあの波動が、自分たちの使う魔力と同じものだとしたら。

 あまりに常識離れした仮説であったが、フロルは確信に近いものを感じていた。

 ――もしそうなら、あれが効くかも……。

 そう言ってからのフロルの行動は速かった。


「レヴァン、もうしばらく耐えてっ!」



  ******************************



「レヴァン、もうしばらく耐えてっ!」


 その言葉が聞こえた時、レヴァンがまず感じた感情は安堵だ。

 フロルの元気そうな声。そして、なにか閃いたような雰囲気。そこに信頼を寄せるのは、もはや当たり前の事だった。


「……やれやれ、骨が折れる」


 少し口調を変えて気分を新しくするレヴァン。しかしその目は先程までにはない、強い光があった。

 強大種がその丸太のような腕を振るう。直前でかわすと同時、ナックルダスターをこすりつけるように振るう。魔力が尾を引き、その部分が鋭く切り裂かれた。


『ッッッ』


 先ほどまでとは違う鋭い動きに、戸惑うような仕草を行う強大種にレヴァンは追い打ちを仕掛ける。しかし、その蹴りは波動に遮られた。


「くそ」


 そう吐き捨てて、強大種から距離を取った。何をしているのか気になってフロルの方をちらりと見て、目を見開く。フロルが魔法を展開していたのだ。

 多少時間が経って体内の魔力汚染も少しは抜けたのかもしれない。しかし、あまり大きな魔法が使えないのは確かだ。ここは止めるべきなのだろう。

 しかし、あえてレヴァンは止めない。それほどまでにフロルの顔は真剣そのもので。だから、レヴァンは言われた通りのことを遂行する。

 フロルの邪魔はさせない。


「ミグルス……おまえの言いたかったことがやっと分かったよ」


 目の前の巨体を睨みつけながら、切れた口元を拭う。そのまま好戦的な笑みを浮かべた。


「招魔はその意志を明確にして初めて力を発揮する」


 いつか訓練中に聞かされた内容を、意識したわけでもなくつぶやく。自分の中で出た答えを確かめるようにして、レヴァンは足を踏み込んだ。


『■■ッ!?』


 先ほどまでより更に一段階速度を増した少年に、強大種が狼狽を見せる。そこを見逃せるほどに、レヴァンは優しくはなかった。

 懐に潜り込み、足が力強く地面を捉える。音を立てて地面が陥没した。

 それを踏み込みとして、レヴァンは後ろに構えた拳を一直線に強大種の腹部へと決めた。


 ギャ、とひしゃげた声を上げて、強大種が反対の壁まで飛ばされた。


「……ふー、ふー……」


 一発だけで上がった息を沈めるようにしてレヴァンは深呼吸すると、後ろでペタンと聞こえた。振り返ると、フロルが力なく座り込んでいた。


「フロル!」


 慌てて駆け寄る。フロルはふっと力ない笑みを浮かべた。


「やっぱり無理だった……」


 笑ったようで悲しそうな声で言うフロルの体を支えて、レヴァンは自らが吹っ飛ばしたものの方を見た。

 そこにはむくりと身体を起こす巨体。

 多少のダメージは与えていたようだが、まだ足りない。きっとフロルの発動させようとした魔法はあの魔物にとって致命傷となりうるのだろう。しかし、肝心のフロルが魔症で動けない。

 レヴァンの頭では方法が一つしかないように思えた。


「レヴァン……ごめんね。結局倒せなか――」

「フロル、俺を使え」

「――え?」


 言われた意味が理解できなかったフロル。レヴァンは強大種を睨みつけたまま、自分の腕をフロルの前に差し出した。

「俺が魔力を出すから、この指を使っておまえが魔法陣を描くんだ」


 今度こそフロルは絶句する。レヴァンはフロルの手を取って自分の腕を握らせた。


「おまえしかできないんだろ? 頼む」


 真剣な表情で、切迫した様子で、レヴァンがフロルを見据えた。巨体が起き上がる。それも見てからフロルは、


「わかった」


 再びその目に光を宿した。


「いい? 魔力の放出は慎重に。魔力の大きさは一定でありさえすれば考えなくてもいいから」


 わかった、と了解した後に、レヴァンは目を閉じた。魔力の放出に集中するためだ。フロルはレヴァンの指先から魔力を確認すると、魔法陣を描き始めた。

 強大種が完全に体勢を立て直す。ゆっくりと、しかし確かにこちらへと近づいて来る。それを無意識の部分で感知しながらも、レヴァンはただ魔力を放出し続けた。

 大好きな都市を無茶苦茶にされた。

 仲間たちを傷つけた。

 そして今、フロルを傷つけようとしている。

 レヴァンは目を開けた。すでに魔法陣は書き終わりだ。最後の直線を引く。


「レヴァン!?」


 フロルの叫びの意味はわかっている。自分が魔力の放出量を上げたからだ。しかし、魔法陣は壊れることなくその形を維持し続けた。


「……ちゃんと起動してる……?」


 回路となる魔法陣自体の線の太さは変えずに、そこに無理やり多くの魔力を注ぐ。かなりの力技で、人間には描けない魔法陣がそこに現れようとしていた。

 強大種が速度を上げて近づいてくる。本能的に危険だと判断したのかもしれない。レヴァンの目には、なんだか焦っているように見えた。その巨体が間近に迫る。


「フロル」

「うん」


 人間には大きな魔力は扱えない。その常識に当てはまらない異例の行動の結果、


 魔法陣が二人の身長ほども大きくなり、光り輝いた。


「反法特式――『干渉解体』」


 フロルが凛々しくそう告げる。

 強大種が禍々しい爪を伸ばし術者を貫こうとするのと、魔法陣から純白の光が伸びて強大種を包んだのは同時だった。

 両者の攻撃が交錯する。

 途端、断末魔の叫びがその場を支配した。何が上げている悲鳴か意識しないまま、眩しい光に目を細める。それと同時に、強大種の波動が消えて行く。否、まるで分解されているかのように細かな粒子となって散り散りになった。それは、冥種の力を無効化しているのだと、レヴァンは直感した。

 やがて叫びが途絶え、白い光が止んだ時、そこには黒の波動を脱がされた無防備な冥種がいた。しぶとく生き残り、あわてて波動を展開しようとするその冥種に、


「遅えよ」


 レヴァンが肉迫していた。

 拳を握る。そこに目を灼くほどの眩い蒼光が宿る。


『ッッッッッッ!?』


 逃げようと自らが壊した壁の方へと移動する冥種。


「……俺はみんなを守るって決めたから」


 そして、レヴァンは右手の拳を叩きつける。


 リィィィ……ィィィ……ン……――


 はかない響きがその場に残り、きらめく粒子になるものが一つ。


 その粒子は風に乗って運ばれて、陽光にきらめきながら空気に溶けていく。







「…………やった、の……?」


 現実感のない状態で、意識もせずにフロルがつぶやいた。それを聞いて、レヴァンも認識した。自分は守ることができたのだ。


「……やった……やった、レヴァン!」


 嬉しそうな幼馴染の声が聞こえてくる。禍々しい波動が消え去ったせいか、視界が明るい。後ろから軽やかな足音。フロルが近づいているようだった。レヴァンは振り向いて笑顔を見せようとする。


「……レヴァン?」


 しかし、レヴァンは振り返ることも叶わないまま、地面に崩れ落ちた。その脇腹からは新たに滲む赤い色。


「……レヴァンっ!!」


 なんでそんな顔してるんだ。

 そんなことを言おうとしても力が入らない。最後に食らった強大種の爪が見事に貫いてしまったようだ。フロルの魔法のお蔭で腐食効果がなくなっただけマシかも知れない。


「嘘でしょ……ねえ、レヴァン! レヴァン!」


 なんだようるさいな。頑張ったんだから寝かせてくれてもいいだろ?

 そんな文句を考えるのも億劫になってきていた。途端にまぶたが重くなってくる。焼けるように熱かった脇腹もいつのまにか寒くなってきていた。命の赤が、その場に水溜まりを作っていく。

 俺も、さすがに、無理かなぁ。

 最後の力を振り絞って、必死な様子で呼びかけてくる少女を仰ぎ見る。

 ……まぁ、コイツを守れたから、いっか……。


「ねぇ、目を開けてよ……! 馬鹿!」


 少女が必死に呼びかけて、イレーネが思い出したように救護を呼ぶなかで、


「ダメだよ! 起きてレヴァ――」


 レヴァンはふっと意識を手放した。




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