表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トーノブユース  作者: 富士都


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/58

第十六話①

 春休みは、始まる前に思っていたよりずっと短かった。

 気づけばカレンダーは四月になっていて、制服に袖を通した私は鏡の前で小さく息を吐く。

「……二年生、かあ」

 口にしてみても、まだ少し実感がない。

 ついこの前まで入学したばかりみたいな気がしていたのに、もう一年が終わってしまったなんて信じられなかった。

 新しいクラス。

 新しい教室。

 もしかしたら新しい担任。

 そして、綾香と同じクラスになれるのかどうか。

 そこが一番大きい。

 スマホを見ると、綾香から朝早くに連絡が来ていた。

『起きてる!?』

『起きてるよ』

『クラス替えこわい』

『分かる』

『高野くんと同じクラスだったらどうしよう』

『そこなの?』

『そこです』

 思わず笑ってしまう。

 綾香らしい。

『私は明日香と離れたら泣く』

『高野くんと一緒なら泣かないでしょ』

『……それはちょっと迷う』

『最低』

 やり取りをしながら、緊張が少しだけほどけていく。

 こうして朝からいつも通り話せるだけで、なんだか安心する。

 スマホをしまって鞄を持つ。

 階段を降りながら、ふと別のことを考えた。

 ちとも今日から新学年なんだろうか。

 学校にちゃんと行けるのかな、とか。忙しすぎて寝不足じゃないかな、とか。そんなことが自然に頭に浮かぶ。

 昨日の夜に来ていたメッセージを思い出す。

『始業式がんばれ』

 短い一文に、らしさが詰まっていた。

 応援してくれているのが分かる。ぶっきらぼうなのに優しいところも、いつものちとだ。

 私は小さく笑って、玄関の扉を開けた。

 外の空気は春らしくやわらかい。

 少しだけ冷たさも残っているけれど、冬のそれとは違う。新しい季節の匂いがした。

 駅までの道には、同じ制服の生徒たちが何人も歩いている。みんな少しそわそわした顔をしていて、きっと考えていることは同じなんだと思う。

 クラスどうなるかな。

 仲いい子と一緒かな。

 先生誰かな。

 そんな不安と期待を抱えて、みんな今日ここにいる。

 学校の門が見えてくると、胸がどきどきしてきた。

 一年通ったはずの校舎なのに、今日は少し違って見える。

「明日香ー!」

 聞き慣れた声に振り向くと、綾香が大きく手を振りながら走ってきた。

「おはよう!」

「おはよ、朝から元気だね」

「緊張するとテンション上がるタイプなの私」

「知らなかった」

「今知って」

 相変わらず勢いがすごい。

 でもその明るさに救われる。

 綾香は私の腕に軽くしがみつくみたいに並んで歩きながら、小声で言った。

「……ちなみに高野くん、さっきいた」

「え、もう?」

「門のとこ通ってった」

「見つけるの早すぎない?」

「好きな人センサーなめないで」

 胸を張って言うことじゃない気がする。

「で、話しかけたの?」

「無理だった」

「だと思った」

「でも目は合った」

「進歩なの?」

「進歩です!」

 綾香が力強く言い切るから、私はまた笑ってしまった。

 こんなふうに話していると、緊張なんてどこかへ行ってしまう。

 昇降口で靴を履き替え、張り出されたクラス表の前へ向かう。

 すでにたくさんの生徒が集まっていて、ざわざわとした熱気に包まれていた。

「うわ、人すご……」

「明日香、探そ!」

「う、うん」

 綾香と並んで人の隙間から表を見る。

 二年A組、B組、C組――。

 自分の名前を探しながら、喉がからからになる。

 お願い。

 せめて綾香と同じクラスで。

 そう願いながら視線を走らせて――

「あっ」

 ほとんど同時に、私と綾香の声が重なった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ