第十六話①
春休みは、始まる前に思っていたよりずっと短かった。
気づけばカレンダーは四月になっていて、制服に袖を通した私は鏡の前で小さく息を吐く。
「……二年生、かあ」
口にしてみても、まだ少し実感がない。
ついこの前まで入学したばかりみたいな気がしていたのに、もう一年が終わってしまったなんて信じられなかった。
新しいクラス。
新しい教室。
もしかしたら新しい担任。
そして、綾香と同じクラスになれるのかどうか。
そこが一番大きい。
スマホを見ると、綾香から朝早くに連絡が来ていた。
『起きてる!?』
『起きてるよ』
『クラス替えこわい』
『分かる』
『高野くんと同じクラスだったらどうしよう』
『そこなの?』
『そこです』
思わず笑ってしまう。
綾香らしい。
『私は明日香と離れたら泣く』
『高野くんと一緒なら泣かないでしょ』
『……それはちょっと迷う』
『最低』
やり取りをしながら、緊張が少しだけほどけていく。
こうして朝からいつも通り話せるだけで、なんだか安心する。
スマホをしまって鞄を持つ。
階段を降りながら、ふと別のことを考えた。
ちとも今日から新学年なんだろうか。
学校にちゃんと行けるのかな、とか。忙しすぎて寝不足じゃないかな、とか。そんなことが自然に頭に浮かぶ。
昨日の夜に来ていたメッセージを思い出す。
『始業式がんばれ』
短い一文に、らしさが詰まっていた。
応援してくれているのが分かる。ぶっきらぼうなのに優しいところも、いつものちとだ。
私は小さく笑って、玄関の扉を開けた。
外の空気は春らしくやわらかい。
少しだけ冷たさも残っているけれど、冬のそれとは違う。新しい季節の匂いがした。
駅までの道には、同じ制服の生徒たちが何人も歩いている。みんな少しそわそわした顔をしていて、きっと考えていることは同じなんだと思う。
クラスどうなるかな。
仲いい子と一緒かな。
先生誰かな。
そんな不安と期待を抱えて、みんな今日ここにいる。
学校の門が見えてくると、胸がどきどきしてきた。
一年通ったはずの校舎なのに、今日は少し違って見える。
「明日香ー!」
聞き慣れた声に振り向くと、綾香が大きく手を振りながら走ってきた。
「おはよう!」
「おはよ、朝から元気だね」
「緊張するとテンション上がるタイプなの私」
「知らなかった」
「今知って」
相変わらず勢いがすごい。
でもその明るさに救われる。
綾香は私の腕に軽くしがみつくみたいに並んで歩きながら、小声で言った。
「……ちなみに高野くん、さっきいた」
「え、もう?」
「門のとこ通ってった」
「見つけるの早すぎない?」
「好きな人センサーなめないで」
胸を張って言うことじゃない気がする。
「で、話しかけたの?」
「無理だった」
「だと思った」
「でも目は合った」
「進歩なの?」
「進歩です!」
綾香が力強く言い切るから、私はまた笑ってしまった。
こんなふうに話していると、緊張なんてどこかへ行ってしまう。
昇降口で靴を履き替え、張り出されたクラス表の前へ向かう。
すでにたくさんの生徒が集まっていて、ざわざわとした熱気に包まれていた。
「うわ、人すご……」
「明日香、探そ!」
「う、うん」
綾香と並んで人の隙間から表を見る。
二年A組、B組、C組――。
自分の名前を探しながら、喉がからからになる。
お願い。
せめて綾香と同じクラスで。
そう願いながら視線を走らせて――
「あっ」
ほとんど同時に、私と綾香の声が重なった。




