第十五話②
「……俺も」
その声が、まだ耳に残ってる。
抱きしめられたまま、
少しだけ時間が止まったみたいだった。
「……」
何も言わなくてもいい時間。
ただ、あったかい。
「……明日香」
名前を呼ばれて、
「……ん」
小さく返す。
少しだけ腕の力がゆるむ。
ゆっくり離れる。
距離ができる。
でも。
さっきまでの温もりが、まだ残ってる。
「……元気だったか」
ちとが、静かに聞く。
「うん」
うなずく。
「ちとは?」
「……まあな」
少しだけ苦笑する。
「忙しかったけど」
「……そっか」
なんとなく分かる。
テレビとか、ネットとか。
直接は見ないようにしてても、
やっぱり情報は入ってくるから。
「……でも」
ちとが、少しだけこっちを見る。
「今日は、大丈夫」
その言い方が、ちょっとだけ特別で。
「……よかった」
自然と笑う。
少しだけ空気がやわらぐ。
「……座る?」
ベッドを指さす。
「……ああ」
ちとが腰を下ろす。
私も、その隣に座る。
前より、少しだけ近い距離。
「……春休みだな」
ちとがぽつりと言う。
「うん」
うなずく。
「やっとって感じ」
「……一年、終わったな」
その言葉に、
ちょっとだけしみじみする。
「ね」
「いろいろあった」
「ありすぎた」
思わず笑う。
ちとも、少しだけ笑った。
「……二年になる」
「うん」
その一言に、
少しだけ空気が変わる。
「……環境、変わるな」
「クラス替えとかね」
「……ああ」
ちとが、少しだけ考える顔になる。
「……今より、会いにくくなるかもしれない」
その言葉に、
胸が少しだけきゅっとする。
「……そうだね」
正直に答える。
時間も、距離も、
今までと同じじゃいられないかもしれない。
「……でも」
ちとが続ける。
「会う」
その言い方が、はっきりしてる。
「ちゃんと」
「……うん」
うなずく。
それだけで、少し安心する。
「……明日香」
名前を呼ばれる。
「なに?」
振り向く。
ちとの目が、近い。
少しだけ距離が縮まる。
「……会えない時間が増えても」
ゆっくり、言葉を選ぶように。
「ちゃんと続ける」
その言葉が、真っ直ぐで。
「……うん」
自然とうなずく。
「私も」
ちゃんと答える。
そのまま、
少しだけ沈黙。
でも。
さっきみたいな重さじゃなくて、
落ち着いた空気。
「……なんかさ」
少しだけ笑う。
「真面目な話ばっかだね」
「……確かに」
ちとも、少しだけ笑う。
「……せっかく会えたのに」
「だよね」
うなずく。
「もっと普通に過ごしたい」
「……普通に」
ちとが繰り返す。
「うん」
少しだけ肩をすくめる。
「ゲームするとか」
「……いいな」
ちとが、少しだけ柔らかい顔になる。
「久しぶりだ」
「でしょ?」
立ち上がる。
「やろ」
振り返る。
ちとも、ゆっくり立ち上がる。
「……負けないからな」
「それ前も聞いた」
思わず笑う。
テレビをつけて、
ゲーム機を起動する。
コントローラーを渡す。
指が少し触れる。
その小さな距離が、
なんかちょっとだけ嬉しい。
「……よし」
ゲームが始まる。
画面の中のキャラが動き出す。
「ちょ、待って」
「待たない」
「ずるい!」
「普通だ」
そんなやり取り。
笑い声。
少しずつ、
恋人の空気に戻っていく。
さっきまでの真面目な話も、
大事だけど。
こういう時間も、同じくらい大事。
「……あ」
ふと、手がぶつかる。
コントローラーを操作しながら、
距離が近くなってることに気づく。
「……」
顔を上げる。
ちとも、こっちを見てる。
ゲームの音だけが、少しだけ響く。
でも。
もう、意識はそっちじゃない。
「……明日香」
小さく名前を呼ばれる。
「……なに」
同じくらい小さく返す。
ちとの手が、そっと伸びてきて、
私の頬に触れる。
びくっとするけど、
逃げない。
「……いい?」
前と同じ言葉。
でも、
前より少しだけ、自然に聞こえる。
「……うん」
小さくうなずく。
そっと、
唇が触れる。
やわらかくて、
あったかい。
少しだけ長く、
ゆっくり。
目を閉じる。
何も考えられなくなる。
ただ、
この瞬間だけを感じる。
――離れる。
「……」
息が少しだけ乱れる。
目を開ける。
ちとの顔が、すぐ近くにある。
「……ゲーム」
ぽつりと言う。
「……止まってる」
その言い方が、少しだけおかしくて。
「……ほんとだ」
思わず笑う。
さっきまでの空気が、
一気にやわらぐ。
「……続きやる?」
聞くと、
ちとは少しだけ笑って、
「……やるか」
って言った。
その声が、すごく優しくて。
私はもう一度コントローラーを握る。
隣にいるちとの温度を感じながら、
またゲームを再開した。
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みなさんお久しぶりです!
お待たせしてすみません。
いろいろゴタゴタしておりまして……
まだまだ読者は少ないですけど、少しでも多くの人の目に留まるよう、
またたくさん物語書いていきます!
ぜひこれからも読んでいただけたら嬉しいです!




