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45 待ち人は『怒』モードです

 確か、こっちで合っている気がする……。

 特に何か目立つモノがあるわけじゃなかったんだけれど宴会場まではあれこれ曲がっていったことは覚えていたからそれを逆算して私にあてがわれた部屋の近くに来た。

 部屋の近くに、誰かいる……。

 めちゃくちゃ明るい廊下になっているってわけじゃないからよくよく目を凝らす必要があったのだけれど、そうして視界に入れた部屋の近くの壁に背を預けて立っているのは……太公望さんだった。


「……太公望殿?」


「……やっと帰って来たか」


 天化さんが不思議そうに名を呼べば、それはそれは苦虫を噛み潰したような凄い顔を上げてじっとこっちを見てきた。黙っていればイケメンなんですからそういう顔はしない方が良いと思うんですが……。それに声のトーンが、めちゃくちゃ低く聞こえたようが気がしないようでもないような……?え、怒ってる?


「宴はとっくに終わっているのに先に帰ったはずのお前は一体どこをふらふらしている?」


 鋭い目付きだけじゃない。

 めちゃくちゃ『怒』のオーラが、太公望さんの背後をズモモモ!!って占めているんですけれど!?


「え、えっと……よ、酔ってしまったみたいだったので……」


「それは知っている。だから天化に頼んで先に帰らせたんだが?」


「俺の部屋ですよ。太公望殿の部屋に一人、置いておくわけにもいかなかったでしょう?酔い醒ましなら何処でも良いかと思って俺の部屋に運びました」


 ずいっと私よりも前に出て太公望さんとの距離を詰めた天化さんがそう説明してくれた。別に悪いことをしていたってわけじゃなくて、敢えて言うとすれば談笑……だろうか。意外にも猫好きだっていうことを知ることが出来て話は盛り上がったし、ぼんやりしていた頭も冷えたから今ではだいぶすっきりしている。


「そうそう。ちょっとした事故みたいなモノでしたけれどハノメさんの力。戦うモノではありませんが、かなり役立つと思います。だからそんなに怖い顔しないでくださいよ」


 軽くぽんぽんと私の背中を押して促しながら部屋の真ん前にやってくると、天化さんはそのままくるりと方向を変えて『それじゃあ、おやすみなさい』と声を掛けてきて自分の部屋へと戻って行ってしまった。


「……力?」


 今の太公望さんと二人きりになるというのは、なんとも気まずい。何か話し掛けようにも、何か考え込んでしまった太公望にあれこれと話し掛けるのは逆に怒りを買ってしまいそうで、かなり怖い。


「えーっと……もしかして、ずっとここで待っててくれたんですか?」


「私の部屋にもいない、お前の部屋はもぬけの殻だったからな。……退屈だった。……それに、力とは何だ?」


「力って言えるかどうかは分かりません。ただ、ちょっと天化さんの手が傷付いていたみたいだったので触れていたら……いつの間にか治ってしまっていたんです」


 治癒の力って言っても良いんだろうか。でも、それが出来たのは今回が、たまたまだったものかもしれないし、同じことをやろうとしてもさて同じように事が起きるのかどうかは怪しい。それほどまでに私の……自分の力が何に使えるのか分からないのだ。


「傷を、治せるのか?」


 今までは、近くにあった水を凍らせてばかりいたもんね。だからイメージとしては上手く結びつかないのかもしれない。私だって未だに不思議だし。本当に私の力だったんだろうか?って疑問ばかりが浮かんでいるのだけれど天化さんは傷を治す系の力なんてものは持ち合わせていないようで、やっぱりあの状況で何かしたのであれば私……の力、だという。


「偶然の産物かもしれませんし、意識して出来るモノなのかどうかは分かりませんが……天化さんの傷は治ったみたいです」


「だったら……」


「あ!だからといって、わざと傷をつくって私の力を試してみようだなんてことは考えないでくださいね!?」


 ちょっと太公望さんなら、そういうこと(わざと自分自身を傷付けてしまうようなこと)をしてもおかしくなさそうだったので早めに口を開いて釘を刺しておいた。その効果は、有ったようで少しばかり残念そうに肩を落としているし!


「……ずっと立ちっぱなしだったのなら部屋で少し休んでいかれますか?」


「お前なあ……今、何時だと思っている?」


 時間は……はっきりと分からないけれど、夜。


「……夜、ですね」


「ハノメは夜間でも平気に男を部屋に入れるのか?」


「!い、いや、そういう変な意識とかはしていないので!」


 だいたいそもそも私のことなんかタイプじゃないんでしょう!?だいたい、少しぐらい部屋で休んでいくこと=紛らわしい意見としていちいち捉えないでいただきたい!別に、昼間でも夜でも……立ち続けている人がいたら休んでいきませんか?って声を掛けることって変だったりするんだろうか。


「……今日のところは帰る。お前は一人きりになって寂しくて泣いたりするなよ?」


「しませんから!」


 私にまではっきりと聞こえる溜め息を吐きながら、ぽんぽんと頭の上に片手を置かれて子ども扱いをするような言葉を向けられてきたものだから全力で否定しておいた。


「っもう!た、太公望さん!」


「はいはい。文句やら愚痴やらがあれば明日にでも聞く。私も今日は疲れた……明日にしてくれ」


「あ……えっと、お休みなさい……」


 太公望さんとすれ違う際にはフワッとお酒の匂いが漂ってきたから宴の中ではかなりお酒に囲まれた時間を過ごしていたのかもしれない。そんな人を、ここで立ち続けて待たせてしまったのか……それだったら、悪いことをしてしまった……かもしれない。もうちょっと優しい対応をしてあげれば良かったのかも、と思ったけれど既に太公望さんはかなり遠い位置まで離れて行ってしまったので、こう胸の辺りをモヤモヤとさせながら自室に戻った。

 もちろん今まで無人だった部屋は、冷たく感じたし、灯りもきちんと用意しないと基本的には暗いらしい。現代の電気製品とかが随分懐かしく感じられてしまうが、今日のところは特に何もせずに寝てしまうのが良いだろう。


「……あ。匂いについては結局分からないままだったっけ……」


 何度も何度も天化さんは私から漂う匂いを感じ取って不思議そうにはしていたようだったが、私自身も何か匂っているとは感じられないし、太公望さんとかからも何か匂いに関して言われることは無かったはず。天化さんだけが感じ取れる匂いでも発していた、とか?袖口をクンクンと鼻に近付けてみるものの何か特別そうな匂いっていうのは分からない。

 これも、また明日にでもなったら太公望さんや天化さん辺りと話してみれば良いかな。

 天化さんの寝台で寝かされているときには、ひんやり……とした感触は無かったけれど、自室の寝台にいざ横になってみるとやけに冷たく感じられた。今までこの室内は無人だったからだろうか。それとも天化さんの部屋では一緒に過ごしていたし……一人じゃなくて誰かと一緒にいたから、だろうか。ちょっとひんやりする寝具に体をじゃっかん丸くしながらすっかり暗くなってしまった窓の外を横目に見つつ、大人しく静かに過ごしていき、眠気がやってきてくれるのを待つことにした。不意に『一人になって寂しく泣いたりするなよ?』と太公望さんの言葉が蘇ってきて、むすっと眉を顰めつつ寝具を頭まで覆い被ると無理に目を閉じていつでも寝られるようにスタンバイした。


「……相変わらず、子ども扱いばっかりするんだから……歳は、そう変わらないはず……なのになぁ……」


 そう言えば太公望さんって何歳なんだろう?天化さんは宴で交わされていた話の流れ的に18ぐらいらしい。私よりもちょっと年上のお兄さんだったことにショックだったり、びっくりしつつ太公望さんも同じぐらいかな?と考えていると、やっとやって来たらしい眠気に意識を沈ませていった。

 そりゃあ帰ってみたら、いない!?となると焦るでしょう。こればかりは天化さんがいけなかったのかも?あまり心配掛けちゃだめですよー!


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