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46 寝起きの悪い朝からお茶のお誘い

 昨夜はきちんと寝台に横になって寝たはず。

 なのに、朝、目が覚めたら……床と仲良く寝ていました。

 寝台から落ちたのも気付かずに寝ていたの!?というか、こんなに寝相って悪くなかったはず……だし。いくらなんでも落ちたら普通起きるよね!?

 朝、起きたらやけに冷たい感触に、慌てて体を起こすとそこは寝台……ではなく、部屋の床だった。なにゆえ!?


「い、たた……いつ、落ちたのよ……全然、分からなかった……」


 頭やらあちこち体が痛い。とにかく手が届く範囲の場所は、軽く擦り、撫でて痛みを和らげていったものの、断じてここまで寝相が悪いわけではないのになあ……と一人、愚痴をこぼしていた。寝台だって別にそんなに狭いってものじゃないし、一人で寝転がっていればじゅうぶんに手足を伸ばすことができる大きさだと思う。私の体型は一般的なJKの体型とそう変わらないと思うので(めちゃくちゃチビでも無ければ大きすぎるというわけでもない)寝台が体に合わなかったってことも無い。それに、ここに来てだいぶ経つ。それが今更になって寝相が悪くなって寝台から落ちた!?こんなこと誰にも話せないじゃない。誰かに話したらきっと大笑いされてからかわれるに決まってる。

 疲れとかがあったとか?昨夜は確か、私は慣れない宴やらお酒をちょびっと口にしてしまっていたけれど、お酒の酔いだって天化さんとお喋りをしているうちに醒めていったと思う。確かに場慣れしていない感はあったけれど、長時間知らない人と話していたってわけでもないし、私はそうそうに退出することが出来たので負担とかも少なかったはずなのになあ。


 コンコン。


「!あ、はーい!」


 ドアがノックされると軽く髪を整えつつドアを開ければ、太公望さんが立っていた。


「……おはよう。ちょっと良いか昨日の……って、どうした?その顔」


「……顔?」


 やば……起きてからちゃんと顔確認していなかった。手櫛で髪は軽く整えたつもりではいたけれど、顔がとんでもないことになっているとか?

 慌ててぺたぺたと顔をあちこち手で触れてみるが、太公望さんの手も私の顔に伸びてきてしまって、ぎくっと体を強張らせてしまった。


「……頬が赤くなっている……。どうした?やっぱり昨日は一人で泣いたのか?」


 ぺたり、と私の頬に片手を添えて見つめてくる太公望さん。相変わらず目付きは鋭い……けれど、それだけじゃなくて心配してくれているのか、普段のキリッとした眼差しってわけじゃなく、ちょっとだけ眼差しが和らいでいるような……気がする。


「泣いては、いませんけれど……」


「なんだ。つまらん」


 つ、つまらないって何よ!?泣いていなかったのだと分かると頬に添えていた手も下ろしてしまったし、泣いていたらからかうつもりでもいたのか本当に残念そうに息を吐いていた。こ、この人って……本当に人!?泣いていたらからかうだとか、そういうのって人の心とかが無いんじゃないの!?まったく、ひどいんだから!


「……そ、それで用事って何ですか?」


 頬が赤いのは赤いらしく、思わず袖口で頬を覆い隠してしまうものの、それよりも太公望さんが朝からたずねて来た理由を知りたい。


「昨晩は落ち着いて話も出来なかっただろう?茶でも用意してやるから、付き合え」


 そう言い終わるなり、私の片手を引っ張っていくものだから、転ばぬように!と急ぎ足を動かし、太公望さんが連れて行こうとしている先へと私も連れて行かれることになってしまった。途中擦れ違う、城内で働いている女官さんたちだろうか?そういう人たちと出くわすと朝の挨拶とともに私と太公望さん……というか、太公望さんに引っ張られている私の手も視野に入れると何とも微笑まれてばかりいるのだけれど……えっと……別に、別に怪しい関係とかではないので!そういう微妙な顔をするのは止めてください……。太公望さんだって、太公望さんだよ!別に、私は一緒に行こうと言われればしっかりとついて行くというのに、わざわざ手を引っ張っていく必要ってある!?


 まさか朝から裏の滝にでも行くんだろうか?と考えていたものの、太公望さんが向かった先は城内の敷地内に丁寧に築かれている庭だった。そこの小部屋に向かうらしい。ここで前に姫昌さんに淹れてもらったお茶も美味しかったんだよねえ……。


「ほら。ここだ」


「わ、分かってます。……というか、どうしたんですか?手まで引っ張っていくなんて」


「は?別に理由なんて無いが」


 だったら別に引っ張らなくても良かったんじゃないでしょうか……。って言っても、あれこれ言われそうなので、『そうですか……』と自分に納得させるように呟き、小部屋に潜り込んでいった。ちょっと入り口が低い位置に設定させられている、如何にもな茶室な感じだったりするのでどうしても体を屈む必要がある。

 てっきり太公望さんと私だけ……と思っていたのだけれど、小部屋には先客がいた。


「!おはようございます。朝からお呼び出してすみません」


 柔らかな笑みとともに挨拶をしてきてくれるのは、楊戩さんだった。


「お、おはようございます……ん?楊戩さんが私を?」


「えぇ。まずは、ゆっくり落ち着いてから……に、しましょうか」


 私が入り口の……比較的、近い位置に座っていれば『もっと奥に行け』と太公望さんに注意されてしまったので、ただでさえそう広くない小部屋のなか、楊戩さんとの距離をさらに縮めて座ることになった。そして逆サイドには太公望さんが座ったので、楊戩さん・私・太公望さん……という面白いサンドウィッチ状態のようになってしまった。


「お茶は『望ちゃん』が得意でしたよね?だったら、お願いしましょうか、『望ちゃん』?」


「!……っ、ふふ……」


 お茶道具はしっかりと準備されているようで、後は淹れるだけのようだ。そこで、何やら面白いあだ名のようなモノで太公望さんを呼んでいく楊戩さんに思わず笑ってしまった。だ、だめだ……この、『望ちゃん』っていうあだ名にはまだ慣れそうにない。だ、だって太公望さんだよ!?この見た目……口を開かなければクールそうなイケメンに『望ちゃん』っていうあだ名って変過ぎる!


「……おい、笑うな。そして楊戩……いい加減、その呼び方は止めてくれ……話が出来ん」


 ジロリ、とそれはそれは鋭い目を楊戩さんに向けていく太公望さんだったのだが、楊戩さんはニコニコしているばかりだった。小さく舌打ちをしながら(ガラ悪すぎでしょう……)お茶の用意をしていく太公望さんの様子を見守りつつ、楊戩さんをちらりと見てしまう。私を呼んだってことは、少なからず私に用があるってことなんだよね?


「……『望ちゃん』は昔からお茶を淹れることが上手ですから、こういうとき一緒にいると助かります」


「……っ、あはは……」


「おい」


 私にも太公望さんからの鋭い視線が飛んでくるものの、ちゃっかり手は動かしていたからあっという間にお茶そのものは出来上がり。それぞれの近くに置いていくと太公望さんはお茶を口にしつつ小部屋の壁に背を預けていった。


「……その、用件というのはハノメさんについて、なのですが。昨日の宴でもあまり話せなかったので、これを機会に交流でもどうかと思いまして」


「交流、ですか?」


「僕たちのことを知ってもらい、そしてハノメさんのことについてもいろいろと知りたいと思いましてね」


「え、あ……えっと、はい……」


 交流って、こういう感じなんだっけ?この小部屋だって、もともとはお茶の交流とかの場のために用意されていると思うのだけれど、どうしても『交流』って感じがしない。空気的に、ちょっとギスギスしているというか、堅苦しい感じがしている。


「……いきなり見知らぬ男に交流と言われても戸惑うばかりだろう?こういう時のために、お前の犬たちでも出してやれ」


「あー、そうですね……」


「犬?」


 楊戩さんが、軽くぽんぽんと何も無い床を叩いてみたかと思うとそこからは、そこそこに大きさのある犬が……現れた。

 楊戩といえば、やはり犬に鳥!意外と鳥(鷹だったかな?)の存在はあまり知られていないようで……これを機会に、登場させてあげようかと考えています。


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