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44 武人との猫トークの果てに……

 どうやら猫のモチーフのヘアピンが気になったらしい天化さん。

 その顔は、猫派の顔をしていた。

 相変わらず私の手のひらに乗せている猫のヘアピンをまじまじと眺めている天化さん。


「……コレ、猫……ですよね?」


 どう見てもこのモチーフは『猫の顔』である。

 こっちの世界には猫が珍しかったりするんだろうか?


「はい!……可愛い、ですかね?」


 たぶん好きじゃなかったらこんなに見ることもしないだろうし、単なる物珍しさ的な見られ方とは少し違う気もしたものだから同じ可愛さを共有出来たら嬉しいなあ!と思っていた。


「!あー……えっと、めちゃくちゃ可愛いです……最初見たときには、気のせいかとも思ったんですけれどやっぱこうして見てみると可愛いですね!」


 ついついまじまじと見ていた自分に気恥ずかしさというものも感じてしまったのか、一瞬顔を背けてしまうものの、それでも気になるらしくちらちら伺い見てきては『可愛い!』と言ってくれる言葉に心から嬉しくなってしまった。

 そう言えばこっちに来て、制服は着替えてしまったし……最初に着ていた巫女装束なものも周に来てからはみんなが着込んでいるようなだぼだぼした衣類を着ているから元々持っていたモノっていうのは、この猫をモチーフにしているヘアピンだけだった。

 左右の髪留めとして使っているヘアピンだけれど、実は左右では猫の表情というものが微妙に違っていたりしている。

 残りの方のヘアピンも髪から外して、手のひらに乗せて天化さんに見せていくと、思わず天化さんの口からは噴き出した笑いがこぼれた。


「はは!なんですか、こっち!なんて言うか、面白い顔してません?」


「こういうの、私のいたところだと『ブサ可愛い』って言っていたんですよ」


 ブサ可愛い……つまりは、完璧なまでに可愛いだけではなく、ちょっとブサいく要素も感じられる猫の顔。ちょっと不機嫌そうな表情、とでも言うんだろうか。猫だからきゅるんとした瞳辺りが可愛い!って思う人も多いんだけれど、一つは純粋なる可愛い顔のヘアピン。もう一つは、ブサ可愛い顔をしているヘアピンを私は持っていた。


「ぶ、ぶさ……かわいい、ですか?はは、あんまりこういうのってここら辺では見ないんですが、コイツも可愛いと思いますよ」


 猫派を一人ゲットしました!


 酔っていた頭も何処かに吹っ飛んでしまうような猫トークというもので天化さんと盛り上がるようになってしまった。たまーに、こっちの世界においても野良猫の類は見かけることがあるようで、たびたび後を追いかけることもあるそうだが、残念ながら逃げられてばかりいるそうだ。

 たまーに足元近くにまでとことこやって来る野良猫がいたとしてもワクワクしながら手を伸ばして触ろうとするが逃げられてばかりいるそうだ。そんな話を聞いていくと、天化さんの猫好きながらも片思いに終わってしまっているストーリーに笑いが止まらず、二人して肩を落として残念がってみたり、『猫にはゆっくり近づかないと!』とアドバイス的なものを言いながら盛り上がっていた。


「え、猫って目を見ちゃまずいんですか?」


「目を見られると喧嘩を売られているように見られるとかって聞いた覚えがあります。見たい気持ちは分かりますが……」


「へぇー!……でも、気持ち良さそうに寝ている姿ってめちゃくちゃ触りたくなるんですよね。その前に、何故か気付かれて逃げられちまうんですけれど……」


「いきなり触ろうとしたらビックリしますって。まずは、ゆっくりと手を近付けて匂いやら何やらを嗅がせてからはじめないと!」


「……詳しいですね」


「私も猫が好きなので!」


 ヘアピンもわざわざ猫の顔が付いているモノを持っているぐらいだから猫は好き。というか動物全般はだいたい好きだったりしているが、猫の自由気ままなところに一番心が惹かれている。遊んで遊んで~、と構いに来たと思えば、あっさりと逃げ出してしまうようなところに、やっぱり猫って可愛いなあと思っているのだ。


「天化さんの方こそ、なんとなくのイメージですが猫よりかは犬の方が好きなのかな?と思っていました」


「犬も別に嫌いってわけじゃないですよ。近所にいた犬には顔をよく覚えられたり、散歩途中の犬と出くわせばちょいちょい構ったりしているんで」


 犬と戯れる天化さん……。モフモフの犬を『よしよーし!』と幼さが感じる笑みとともに撫でていけば犬としても最高の気分になるのではないだろうか。


「ですが、本命の猫には逃げられてしまうと……っ、ふふ」


「あ、ちょ、あんまり笑わないでくださいよ。これでもショックなんですからね!?もうちょいで触れそう!ってときになって、いきなりダッシュして逃げていく猫の後ろ姿を何度見送ったことか」


「わ、分かります分かります!静かに座っていると思えばいきなり動き出しますよね」


 あはは!と二人して笑っていたら時間も忘れてしまったらしい。はっきりとした時間は分からなかったのだけれど、部屋に灯されている灯りだけで、ぼんやりとお互いの顔が見えるぐらいまで外は暗くなってしまったらしい。さすがに男性の部屋に、これ以上お邪魔し続けるのは悪い気がする……。


「!すみません、つい長話をしてしまって……」


「いえいえ!俺も楽しかったんで」


「……さっきの、手は何とも無いんですか?凄い音がしたような気がしましたけれど」


 そう言えば、このヘアピンに触ろうとしたんだったか。天化さんの手はバチッと強い電気が走ったような音がして手をぶらぶらさせていた。


「ちょい強めの静電気みたいな感じでしたね。ちょっと赤くはなっていますが、別に痛いだとかは無いんで大丈夫ですよ」


「……ちょっと、手を見せていただいても?」


「え?あ、あぁ、はい……」


 随分、長いこと猫トークをしていたと思うのだけれど、改めてバチッ!と電気を食らってしまったらしい天化さんの片手は、特に指先の方は、かなり赤く……それに、これはまるで引っかかれたような切り傷のようなモノがあった。


「……これは……かなり痛そうですけれど」


「まあ、日頃から鍛錬していて怪我をすることもありますし、大したことではありませんから」


 いやいや、鍛錬をしていて怪我をしていたらいつまでたっても古い傷の治りって遅くなるんじゃ……?なにせ、これは私のヘアピンを触ろうとして食らった電気ショックのようなモノだったから私としても気まずい……。手当てでも……と考えたのだけれど、それらしい道具は近くには見当たらないし……。

 両手で天化さんの赤くなった手を包み込むように添えて、どうかこれを機会に猫嫌いにはなりませんように、と考え込んでいくと……気のせいだろうか、両手がちょっと温かく感じて不思議そうに自分の手と天化さんの片手を見つめていた。


「……あれ、なんか急に手があったかくなったような……?って、今何を……?さっきまでちょいピリピリしていた手が……つか、傷も……治ってる?」


「!本当だ。変な感じとかは……しませんか?」


「いえ、全然。むしろあったかくて気持ち良いような感じがしましたけれど……こういうのがハノメさんの力だったりするんですかね?」


 今までは力が使えたとしても凍らせることばかりだったから、まさか手元が暖かく感じるなんて。しかも、天化さんの手にあったらしい傷も治ってしまったらしい。

 これは、もしかしなくてもめちゃくちゃ凄いことなんじゃ……?


「こういうふうに力が使えたことは無かったので……正直、びっくりしてます」


「治療の力って言うんでしょうか。治癒の力ですかね。……なんにせよ、ありがとうございます」


 素直にお礼を言われ、ようやく役立てることが出来たと改めて考えていくと安心して笑みがこぼれた。すると、自分の手元から私の顔をまじまじと見つめられてくるものだから(いつぞやに感じた怒っているかのようにも見えるし、真剣に斬りかかられそうにも見える表情で)ぎくっと体を強張らせてしまうものの優しく添えている私の手を片方、そしてもう片方と外していった。


「……名残惜しいですが、そろそろ部屋に戻さないと誤解されそうですね。ご自分の部屋の場所は分かりますか?」


「あ、はい。なんとか……」


 慌ててヘアピンを髪に付けていくと、片手を差し出されたので躊躇いながら手を乗せると小さく笑われつつ『送ります』と声が掛かった。

 とっくに宴は終わったようで、部屋から廊下に出ると夜間独特のシンとした静けさに『え、こんなに静かだったっけ』と思いながら部屋の方向へと天化さんとともに向かって行った。


 もしかして力、解放!?どうやら治癒の力っぽい!?いいじゃんいいじゃん、役に立てるじゃん!猫トークも出来て良かったね!!


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