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43 自室に連れ込んだ理由

 どうやら酔ってしまったらしい……。

 でも、楊戩さんが言うには、ほんの数滴だというのに……?

「ううー……ん……」


「!はは、大丈夫ですか?」


 なんだか顔が熱い……顔っていうか、頭?頭がポヤポヤするというか、ぼんやりするというか……上手い言葉が見つからないのだけれど、首から下は普通……心臓だけがバクバクしている音が聞こえてきて、なんでこんなに鼓動が速いんだろうって、ぼんやりする頭で必死に考えていた。小さな灯りが付けられている部屋の天井を見上げると寝台に寝かされているようで、その寝台の端っこには私を見下ろして苦笑いしている天化さんの姿があった。


「てん、か……さん?」


「はい。俺です。すみません、ハノメさんがかなり酒に弱かったなんて知らなくて……というか、今、気分はどうですか?」


「顔が……熱いです」


「まあ、赤い顔をしていますからねぇ……」


 日頃の鍛錬のせいか、ゴツゴツしている男らしい手がぺたり、と頬に当てられると意外にも冷たくて気持ち良かった。ついつい気持ち良さに目を細めて静かにしてしまうが、天化さんの手は頬から離れて額やら首筋に当てられて、そのたびにビクリと体が震えてしまった。


「……あー……熱いですね。水でも用意しましょうか……起き上がれますか?」


 こく、と小さく頷き返すと手を退けてくれて、寝台に肘をつきながらゆっくりと上半身を起こしていく私の様子をじっと見ている天化さんの目と目が合ってしまった。えーっと……起きない方が良かった、とか?


「……あぁ、すみません。飲み水でしたね……」


 小さく咳払いをしてから寝台から立ち上がり飲み水を用意しに行った天化さん。

 しばらく……といっても数秒ぐらいだったと思うんだけれど、暫し天化さんと見つめ合ってしまっていて気まずいことこの上なかった。なんだか怒られているようにも見えたし、真剣に今にも斬りかかられそうなほどの強い眼差しにも見えたし……ちょっとだけヒヤヒヤしてしまったのは言わないでおこうかな。目付きが鋭いのは太公望さんだけでじゅうぶんですってば。って、あれ?そう言えば太公望さんたちは?まだ宴とやらから戻って来ていないんだろうか?

 そもそも、ここって誰の部屋なんだろう?だいたい部屋の造り自体にそう違いは見られないものだから家具の違いとかでもないかぎり誰の部屋かが区別がつかない。この部屋も最低限の家具が置かれているばかりで、あとは……あ、壁際に立て掛けられているあの双剣は……双剣といっても、鞘に収められている状態だと一本の剣に見えるからちょっと紛らわしいのだけれど……ってことは、ここは天化さんの部屋?


「ここって、天化さんの部屋だったんですか?」


「!え、えぇ。よく分かりましたね」


 気のせい、だろうか。今、ビックリされた?なんだか肩が揺れた気がしたのだけれど見間違いだったかな?


「あの武器が……天化さんの、でしたよね?なかなか他には見られないモノですし……」


「あぁ、なるほど。……はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


「今回は、凍らせないでくださいね?」


「!し、しませんから!……たぶん……」


「たぶんって……はは、たぶんですか?頼り無いなあ……」


 ごくごくシンプルな湯呑み茶碗に冷たい水を入れて用意してくれたんだろう。茶碗を持った両手からもヒヤリとした冷たさが伝わってくる気がした。そこで、天化さんなりに場を和ませようとしてくれたんだろう。凍らせないように、と声を掛けてくれたものの自信が無かった私は『たぶん』と付け足していけば、それがツボってしまったらしくてケラケラと笑っていた。青少年っぽい……でも、こういう笑い方をしていると幼さが混ざっているような笑い方をするんだなあ。なんだか、太公望さんといい、天化さんといい、笑うと幼さが感じられる人が多い気がする。

 コクコク、とゆっくり口にしていくと冷たい水が心地良くて、しかも美味しく感じられて小さく息を吐いてしまった。


「……実は、太公望殿からはハノメさんの部屋が分からなければ太公望殿の部屋に連れて行くように言われていたんですけれど……なんとなく一緒にいたくて、俺の部屋に連れて来ちゃいました」


「ごほっ、ごほ……!そ、そうだったんですか……」


 な、なんだろう……天化さんのこの言い方は。

 まるで、ちょっとした告白シーンにでも遭遇してしまったかのようなドキドキを胸に感じながら、思わず咳き込んでしまった。水を口にしている最中じゃなくて良かった……飲んでいるときに聞いていたら絶対に噴き出していたと思う。


「ハノメさんと太公望殿が来る前には、宴の中で舞踊をしている女官の方々もいらっしゃったんですが……うーん……」


「?」


 あ、やっぱりこういう所の宴ともなると舞とかが得意な人は人前で舞踊り、楽器?とかの演奏もしたりするのかな。さぞかし、舞を踊っていた人たちは煌びやかな服装とかで周りの方々の視線を釘付けにしていたのかもしれない。ちょっと見てみたかったなぁ……どういう踊りや舞をするのか、少し気になるじゃん。

 でも、天化さんは難しい顔をして『う~ん』と唸りはじめてしまった。……猫かな?あ、猫なら『ぐるる』だから違うかな。


「ちょっと失礼します……」


「はい……!?」


 未だに何かに疑問を浮かべているらしい天化さんが、寝台に片膝と片手を付くと私の近くに乗り上げると私の肩辺りに顔を近付けてくる。ち、近い……。でも、それ以上に近付くとか触ってくるとかは無いようで私もついつい?マークを浮かべてしまっていた。


「う~ん?やっぱ違いますね。何なんでしょう?このハノメさんから香る匂いって」


「え。まだ匂っているんですか!?」


 湯呑み茶碗を持っていない方の手元を鼻に近付けてクンクンと嗅いでみるものの、特別何かの匂いがするってわけでは無さそうなんだけれど……。


「ちょっぴり甘いような匂いがしていて……女官さんたちから香ったお香とも違うような気がするんですよね……」


「えーっと……それってクサいとか、嫌な匂いって感じでしょうか……」


 さすがに嫌な感じのクサさとかだったら嫌だな……と思いつつ、天化さんにたずねると『いえいえ、全然』と苦笑いされてしまった。


「むしろ良い匂いです。今まで嗅いだことの無い匂いなので上手く説明が付かないんですけれど……安心しつつも、ずっと手元に置いておきたくなるというか……」


「ど、どういう匂いですか、それ……」


 安心?手元に?それって安心出来ないのか、安心出来るのか、どっちか分かりません!

 不意に天化さんの視線が髪辺りに向けられているのに気付くとそっと手を伸ばされるが……その瞬間。


「イッデ……!!」


 バチッと静電気の一種だろうか、凄い電気の音のようなモノが耳に届いたので天化さんはもちろんのこと私もびっくりして目を丸くしてしまった。


「だ、大丈夫ですか?」


「あー、はは。大丈夫です、大丈夫です」


 軽く手をブラブラさせながら苦笑いし、それでも視線は髪に……おそらく、私のヘアピンを見ているんだろう。珍しいモノだったりするんだろうか。


「えーっと、それは……髪留めとかってヤツですかね?」


「あ。はい。元々、付けているモノで……コレが気になったんですか?」


「……あー、えっと……可愛いなあ、と思いまして……」


 分かる!天化さんは猫派なのかもしれない!そう思うと片方に付けている猫をモチーフにしたヘアピンを髪から外すと『はい……』と手のひらに乗せて天化さんに見せてあげた。私もバチッ!とされるかな?と不安だったけれど、普通に触っても何ともないから安全に取り外すことが出来た。


「……触って、何ともないんですか?」


「……おそらく、は」


 手のひらに乗せられているヘアピンをまじまじと見つめている天化さんは自然と表情が緩んでいく。やっぱり猫派のようだ。可愛らしい猫の顔がモチーフになっているヘアピンだから、猫派としてはついつい見てしまいたくなるかもしれない。私だって、この見た目に気に入って即購入した身なのだから。

 天化さんとの……いちゃいちゃ……に、ならねぇ!!(苦笑)いちゃいちゃ、したいのになあ……そろそろ、ね?だってイケメンばっかなんだぜ!?いちゃいちゃ、あっても良いじゃんよ!(苦笑)


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