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42 宴

 どうやら一部を除き、不思議な力がある人たちには食欲が無いらしい。

 では、その分の栄養は何処から蓄えられるんだろう?……目には見えないけれど、大地のエネルギーみたいなものなのかな?

「これはこれは、太公望殿にハノメさん。ご参加いただき、ありがとうございます」


 イケオジ様、こと……このお城、というかこの国で一番偉いらしい姫昌さんがわざわざ私たちのいる席まで足を運んでくれるとにこやかな笑みをとともに挨拶をしてくれた。さすがに姫昌さん相手にも、ぎこちない挨拶だけで済ませるわけにもいかずに深々と頭を下げてこちらもお礼を言う。


「伯邑考さんからお誘いいただいたのですが、その、ありがとうございます」


「宴だなんて何日ぶりだ?貴殿にしては珍しいじゃないか」


「まあ、たまには良いでしょう?それにハノメさんの交友関係を広げるには良い機会ではありませんか。いつも太公望殿とばかり一緒に過ごしていたら……そろそろお二人の関係を怪しむ者たちも現れるのではありませんかな?」


「関係?」


「……コイツが考えも無しに無茶をしようとするから近くで見守っているだけなのだが……」


 確かに太公望さんと一緒に過ごす時は多い気がする。でも、それって他の人たちにはやることがあるし、それを邪魔するわけにはいかない。じゃあ、太公望さんは基本的には暇人なのだろうか?でも、別に暇って感じでもなさそうなんだけれどなあ。


「ほほ、そうして見守っている姿を何度も見かけていれば恋仲と取られてしまうかもしれませんぞ?」


「恋仲!?」


「ハノメ、うるさい……。ただ、近くにいるだけでそんな関係に見られたらたまったものではないな。だいたい私にも好みの異性のタイプというものがあるし……」


「へぇ!太公望殿の好みのタイプ!聞いてみたいですね!」


 恋仲、と言われ思わず声を出してしまうものの、太公望さんに鋭い目付きとともにぴしゃりと注意を受ければ両手で口を覆う。だが、不意に太公望さんの好みのタイプという話になってしまって天化さんは興味津々とばかりに食いついてしまったらしい。


「少なくともハノメのように無茶をするような女性はタイプでは無いな」


「ええ?そういう無茶をしてしまう女性ってちょっと可愛く見えてしまうことってありません?」


「……なんだ、天化はコイツみたいなのが好みか?」


「好みかどうかまでは分かりませんけれど、可愛い人だとは思いますよ」


 な、なんていうイジメだろうか……今すぐこの場から立ち去りたい。

 一人は私みたいな人間はタイプでは無いというが、一人は可愛いとはっきり口に出されて知らず知らずのうちに顔に熱が集まってきてしまう。べ、別に好意があるとかって言われたわけじゃないけれどそれでも可愛いなんてあまり言われないものだし……。


「おやおや。太公望殿は嘘つきでいらっしゃいますなぁ。ほほ、それもまた良いでしょうが。では、私は他の方への挨拶もありますので一旦失礼しますよ」


 なにやら意味深な言葉を残していきながら姫昌さんは楽しそうに場所を変えて、また違う人との談笑をおこなっていった。

 残された……というか、元々この場にいる私、太公望さん、天化さんからすれば異性のタイプがどうこう(私を除いて)そしてしまいには私のこういうところが可愛いっていう話にまで発展していってしまって更に逃げ出したくなるのだった。


「!そうそう。何も口にせずに話だけなんてあれですからね……太公望殿は酒は大丈夫なんでしたっけ?」


「あぁ、それぐらいなら口に出来る」


「ハノメさんは?」


「え、お酒……ですか。えーっと、まだ飲める歳ではないので……」


 宴ならば酒の用意もされているんだろう。あちこちで独特の匂いが漂ってくるから酒を飲んでいる人も多そうだ。

 意外にも太公望さんはお酒はイける口らしく、天化さんに御猪口といっただろうか……そこにお酒を注いでもらってゆっくりと口にしていた。なんだか普通に見ているとお茶とか水とかを飲んでいるみたいに気軽に口にしていくけれど、さすがにお酒は勘弁かな……。


「ハノメさんの所ではお酒が飲める歳ってどれぐらいなんです?」


「一応、二十歳からってことにはなっていますけれど……」


「……二十歳?」


「結構、遅いんですね。俺は今は十八だったと思うんで既に元服は済ませたんですがハノメさんの所だと怒られちゃうんでしょうか?」


「それは世界や地域独特なモノだと思うので……ここでは、許されているんですよね?」


 しかも天化さんは食事もそこそこに口にしていくが、一度太公望さんとお酒を飲み始めるようになってからはお酒ばかり。お酒を飲むときって、おつまみとかが必要になるんじゃないのかな?というイメージがあるのだけれど、二人は特におつまみ系を口にするようなことはなく、話そのものがおつまみといった感じで、次次にお酒を飲みかわしていく。


「おやおや。淑女を除け者にして男だらけで飲み会ですか?ハノメさんは、こちらをどうぞ」


「!ありがとうございます」


 すっかり気分的には太公望さんと天化さんはお酒も入って、談笑していて楽しそう。まあ、無理にお酒を口にして具合が悪くなったりしたら大変だからそんなバカなことはしないのだけれど。

 不意に軽く肩を叩かれると振り向いた先には楊戩さんがいて、一つの湯飲み茶わんを差し出してくれた。なかには、ホワッとイイ匂いがする……お茶だろうか?それが入っていてゆっくり口にしていくが、ちょっと普通のお茶って感じとは……違う?一気に顔に熱が集まるような感じがして、ドキドキと鼓動が速まる感じがした。


「あ、あの……楊戩さん、これは……?」


「お茶ですよ。ほんの少しばかりお酒は垂らしているので冷える夜などには温まるのですが……もしかして、苦手でしたでしょうか?」


「お、お酒!?」


「もちろん数滴入れた程度なので体にはほとんど無害でしょう。子どもでもこれぐらいならば口にすることもありますし……っと、大丈夫ですか?」


 顔が熱い……え、たった数滴入れただけ!?私の体的にはお酒そのものって感じがしていて顔だけでなく体も熱いんだけれど。


「!ちょちょ、楊戩さん!?ハノメさんに何飲ませてるんです!?」


「……おい。顔が真っ赤だが……」


「嫌だなあ、二人して。単なるお茶ですよ。少しばかり体を温めるためにお酒は入れてありますが、ほんの数滴ですよ?」


 うう~ん……顔が熱い、頭もクラクラしてきたかも……。

 ぽふっ……っと、一番近くにいた天化さんには申し訳無いのだけれど、その彼の肩に凭れ掛かってしまった。


「!ちょ、大丈夫ですか?」


「……酒そのものが苦手なんじゃないのか?おい、ハノメ……」


「それはそれはすみません。でも、せっかくハノメさんがいるのに男二人で盛り上がっていたら可哀想じゃないですか」


「あー……それは、申し訳無かったんですけれど……」


 天化さんに体を支えてもらいながらぺちぺちと軽く額やら頬やらに冷たい手が当たる感触がする。ぼんやりとだが視界に入るのはキラキラとした銀髪だったから太公望さんだったんだろう。手が気持ち良い……。

 いろいろな所から溜め息が聞こえて来たのだけれど、私もしかしてここで寝ちゃう……?


「悪いな、天化。コイツの部屋は分かるか?分からなかったら私の部屋でも構わんからコイツを運んでくれるか?」


「太公望殿はどうするんです?」


「姫昌殿と相談があるのでな……」


「はぁ、そういうことでしたら……よっと……」


 上手く力が入らない私の体を、簡単に持ち上げてしまった天化さん。しかも、その持ち方っていうのが、お姫様抱っこだったみたいでたまたま近くにいた人たちからは視線を集めることになってしまったみたいだったのだが私があまりにもぐったりしている様子だったので看病でもするんだろうとすぐに落ち着きを取り戻し、キャアキャア言っているのは一部の女官さんたちだけだったみたい。


「天化くん、お気を付けて」


「?いえいえ、ハノメさんぐらいの体だったら途中で落としたりはしませんよ?」


「あー……いえ、天化くんに『気を付けて』っていう意味です」


「はあ?」


「では、ハノメさんのこと。よろしくお願いします。あと、申し訳無かったと気が付いたら伝えてもらえると助かります」


「分かりました」


 まだまだ宴は続いているようで耳の端っこに入ってくる騒がしさみたいなものは途切れることが無かった。廊下を進むと途端に静かになる音に、ドクドクと鼓動が速い自分の心臓の音に気まずくなりながら向かった先は……とある一室だった。

 分かる!分かります!海外だとホットワインだとかいろいろお酒を口にする方法ってありますよね、寒くなってくると!でも、それに過敏に酔ってしまった……?(苦笑)


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