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41 お誘い

 気まずそうに太公望さんからは謝罪してもらった。

 でも、水のイメージ……どうしても近くに太公望さんがいるとキラキライメージが強くなってしまうんだけれどなあ……。

 時間帯的に、このまま滝の近くにいるのは寒い、冷える、ということで私は腕を引っ張られて部屋に連れ戻されてしまった。もうちょっとぐらい滝の近く……というか、流れる川の近くにいたかったのだけれど、残念……。


「まったく。自覚が無いのか?滝の近くは冷える!昼間でも冷える場所なのだから夕暮れ時にそんな場所に長時間いたら風邪でも引くだろうが」


「それは、分かってはいるつもりですけれど……」


 私を部屋に戻して、すぐに太公望さんも出て行くのかと思えば、そんなことはなく。太公望さんからはお叱りの言葉を受けることになってしまった。それは、つまり……私のことを心配してくれているのかも?と最初は嬉しい気持ちで聞いていたのだけれど、なにより太公望さんは鋭い目で見てくるし、そこそこに心を開いた相手には口調も悪くなっていくのか、不良にでも絡まれているような気分になってしまった。


「分かっていないだろが。水のある所なら庭の池でも良いだろう」


「あ。そう言えば池もありましたね」


「……忘れていたのか、お前」


「!いえいえ、たまたま滝の方が気持ち良いかなあって思っただけですってば!」


 そうだった、そうだった。見事な庭園もあるんだった。そこには池もあるし、魚も泳いでいたはず。それなのに、何故か滝の方に足が向いてしまったのだからしょうがない。庭の方には目もくれず、滝に無意識のうちに足が向いてしまったのだ。


「……それで川の中にでも落ちたらどうする?」


「え、あの川って底深かったでしたっけ?」


「深い浅いの問題では無い!頭でも打って気絶でもしたらそのまま溺死……なんてこともあるんだぞ?」


 あー、それは確かに怖いかも。

 足を滑らせて岩場とかに頭をゴツン!と打つ危険性だってゼロってわけじゃないから気を付けなきゃいけない場所だったりするのかな……。あ。そういうこともあるから天化さんとかも滝に行くなら一緒に行くって言ってくれたのかな?それに、さっきだって太公望さんも早くから私を追って来てくれていたのかもしれないし……。


「……き、気を付けます……」


「絶対に一人で滝に行くな、分かったか!?」


「……はい……」


 ここで、ちょっとでも渋る表情でも見せたら太公望さんからのお説教再び!になってしまうので『はい』と答えるしかなかった。目が怖いです、目が……。マジで目だけで怨霊とか倒せそうなんじゃないですか?キラキラ……いや、ギラついているようにも見えてしまってほんと怖いですから。


「はぁー……分かればいい。というか、ハノメは腹は減らんのか?」


「あー……あまり。というか、こっちで過ごし出してからは特にはお腹って空かない感じがしていて……」


「ふぅん?そこは、なんとも神らしいな……」


「え、何か関係でもあるんですか?」


「私の周りにいる人間で、不可思議な力を使いながらも普通の人間同様に空腹を感じているのは今のところ天化だけのようだ」


 そう言われてみると『腹減りました』って山から帰ってくるとガツガツと食事をしていた天化さんに対して、私や太公望さんたちはお茶とかは口にするものの食事らしい食事って今のところ……って思い返していけば、ここまともに食事らしい食事なんて口にしていない!?


「え、あの……空腹で倒れちゃうことってあるんでしょうか?」


「さぁ?……そう言われてみると腹が減って死にそう……だなんて口にするヤツは天化ぐらいだろうな」


「太公望さんは?お腹は空かないんですか?」


「特に感じない。なんとなく客人が目の前にいるのでお茶ぐらいは出して、それぐらいならば口にしているが……目の前に食事が並べられても食い気というものは起こらないし、食べる気にもならない」


「……それって、体には影響って無いんでしょうか?はっきりしたことは忘れてしまったんですけれど、神様たちも食事は用意されてもほとんど食べずにいたような……」


 体に良さそうなお膳を用意してもらったことを思い出したのだが、せいぜい一口とか二口食べるだけで勿体無く思ってしまったけれど料理のほとんどを残してしまったことを思い出していた。


「大地のエネルギーとか……お前の場合なら、水の近くにいることでそこから必要なエネルギーでも摂取しているのではないか?」


 水、水場を求めてしまうのはそのせいなんだろうか。


 コンコン


「失礼します。楊戩殿が戻られたので、ちょっとした宴のようなモノを開くようなのですが……一応、お二方も参加されてはいかがでしょうか?」


 ドアを軽くノックされて顔を出してくれたのはイケメン代表の伯邑考さんだった。太公望さんの姿も見つけることができたので、にこりと笑い掛けてくれるものの『宴か……』と渋い顔付きをしてしまう太公望さん。

 さっきまで特に食欲らしい食欲は感じないって言っていたばかりだもんね……。


「食欲があまり無いようでしたらお酒やお茶だけでも構いませんので」


 あ、こういう心配りをしてくれるってことは食欲が失われている太公望さんのことを理解してくれているのかな?


「……まあ、顔を出すぐらいなら……」


 ちょっとは渋ってみたもののせっかくの伯邑考さんからの直々のお誘い。無碍にするのも悪いと思ったらしく、私にも行くように声を掛けてくれた。

 食欲かー……そう言われてみると何か食べたい、とかお腹が空くって感覚が無い。これってもしかしてこういう不思議な世界に来てしまったせい?かとも思ったのだけれど他にも食欲がわかない人たちはいるみたいだ。そう言えば双子ちゃんや神様たちもお茶とかお茶菓子の類は口にしていたけれど他には特に食べているところって見ていない。

 神……というか、不思議な力を持っているから、だろうか。それにしては不思議なものだ。


 伯邑考さんと太公望さんは二人して何やら話をしていたみたいだったけれど、なんだか話そのものが難しそうな気がして混ざることが出来なかった。二人の後を追っていけば、既に多くの兵士さんだったりお城に住んでいるらしい人の姿が集まっていて、各々にお膳が用意されたりお酒やらお茶なども用意された宴が開催されていた。もちろん宴を催しているのは姫昌さんを中心として。そして、今回は楊戩さんが周に戻ったということも合わせての宴らしい。楊戩さんは姫昌さんと楽しく談笑しているようだから初対面……って感じは無いのかな?


「あ、きたきた。太公望殿、ハノメさん!」


 ほとんどが見知らぬ人ばかり……の、なかで声を掛けられた方へ顔を向ければ天化さんが既に着席していて軽く手を振っていた。


「なんなんだ、この集まりは……」


 人の多さに、ウザったそうな顔つきをしている太公望さん。

 いやいや、お城の中で日頃から一緒に生活している人たちなのでしょう?そんなふうに見たら失礼なんじゃ……。


「あはは、やっぱりそう思います?姫昌殿が楊戩さんへ向けた宴らしいのですが、そのなかにはハノメさんへ向けた思いもあったらしいですよ」


「……私、ですか?」


「ハノメさんはここら辺には詳しく無いでしょう?だいたい見知っているのは俺らぐらいですし。だから、これを機会に城の関係者と仲良くなってみるのも良いんじゃないでしょうか」


「な、なるほど……」


 普段は兵士として鍛錬やら国を守ることに精を尽くしている人たちやら、女官たち……だろうか。いろいろな人たちが気さくに話しかけてくれるものの、ぎこちなく挨拶を返したり、苦笑い混じりに話に応じることしか出来なくて、こんなやり取りで良いのかな?と不思議がってしまった。特に同じ女性という立場ということで『困ったことがあれば何でもお話くださいね』と話し掛けてくれる優しげな女性も多かったものの『ありがとうございます』とぺこぺこと頭を下げることしか出来なかった。

 ……私って、こんなに人見知り激しかったかな。普通、だと思っていたんだけれどさすがに知らない顔の人たちばかりの場に来てしまうと委縮してしまったのかもしれない。

 宴ってこんな感じなのかな?あとは、舞だとか演奏とかがありそうな予感……。


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