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37 優しいイケメン、楊戩

 まさか、何処かの部屋に待たせているのではなく城門まで出ていくことになってしまった。

 ……改めてだけれど、城内って広い……。

「……何の用だ?楊戩ようせん


「これはこれは。……っと、先ほどの武人と……あまり見慣れない女性ですか……太公望殿にもようやく伴侶という存在が見つかったのですね。凄く意外ですが」


「……伴侶?」


「誰がだ、誰が!」


 城門から少し離れた位置に立っていたのは、少し長めの髪を一つに結い上げて纏めて、額にはヘアバンドだろうか?それを付けた美丈夫。伯邑考さんが一般的なイケメンの類に入るなら、こちらは優しい感じのイケメンって感じだろうか。太公望さんは、見た目な感じからして口を開かなければ遠目からずっと眺めていたいようなイケメン。天化さんは武に秀でているので運動神経抜群そうな爽やかイケメンって感じがする。もちろん姫昌さんは素敵なイケオジ様だ。

 あれ……イケメン、多くない?イケメンはイケメンを引き寄せるのだろうか?


 楊戩……ようせん、と呼ばれた彼は太公望さんに向かってちょっと付け加えなくてもいい言葉を足しながらそれはそれは意外そうに目を丸くしつつからかっていた。それに子どもっぽく反論しているのが太公望さんである。


「ごほん。……ハノメ、こいつが楊戩だ」


「お初にお目にかかります」


「あ、こ、こちらこそ……」


 楊戩さんは軽く頭を下げて笑みを浮かべた程度だったものの、ついついぺこぺこと頭を下げて挨拶することになってしまった。なんというか、圧が強くて……。


「で?用件は?」


「あれ、用が無きゃ立ち寄っちゃいけませんか?僕は東方面でいらぬ苦労をさせられてきたんですがねぇ……?誰かさんのせいで」


「ぐっ……」


「……二人って、めちゃくちゃ仲良さそうですね……」


「あ、やっぱりそう思います?私もなんとなくそう考えていたんですよね」


 楊戩さんの言葉にいちいち目くじらを立てている太公望さんだったが、傍から見ているととても仲が良い二人って感じがする。それを察したのか、天化さんとちょっと離れたところでこそこそ話をしていた。


「あ。そうですよ、僕たちって基本的には仲が良いんです。ね?太公望殿?」


 私と天化さんの会話が聞こえたらしく満面の笑みを浮かべながらぽん、と太公望さんの肩に手を置く。が、すぐにその手は太公望さんによって振り払わられてしまった。


「~っ、んなわけあるか!だいたい、なんだその呼び方は!普通に呼べ、普通に!」


 す、凄い……。

 なんというか、あの太公望さんをからかえているのが。同い年ぐらい、かと思うのだけれど太公望さんが完全に子ども扱いのようにされていることに素直に驚いた。


「普通に、と言われましても……あ。ちょっと前に呼んでいたように呼びましょうか?『望ちゃん』って」


「……望ちゃん?」


「ハハッ!太公望殿のことを望ちゃん!?え、え、本当にそんなふうに呼んでいたんですか!?」


 天化さんは思わず呆気に取られてから吹き出して笑うと、『マジですか!』と楊戩さんに食らい付いた。その呼び方とやらに興味津々になってしまったみたい。

 楊戩さんが太公望さんのことを望ちゃん……えーっと、かなり昔からの付き合いがあるんだろうか。とても、この年齢ぐらいの男性に向かって呼ぶようなあだ名って感じがしないのだけれど……。でも、楊戩さんがからかいのつもりで呼んだあだ名には、ほんのりと頬を赤らめてしまっている太公望さん。……本当のことらしい。


「普通に太公望で良いだろうが!んな気持ち悪い呼び方をするな!」


 大きな声で(この時、城門近くにいた兵士さんたちもビクついていたから太公望さんがこんなに大声を出してあれこれ喋っていることは少ないんだと思う)反論すると、多くの人たちから呼ばれているように言い直そうとする。


「……でも、私と初めて会ったときには『呂望』って呼んでくれって言ってませんでしたっけ?」


「!へぇ~?初対面の、しかも女性からそのように呼ばせるように言ったんですか?太公望が?」


「え、えっと、そのうちに姫昌さんたちが太公望殿って言うのを聞いてなんとなく太公望さん呼びになっちゃったんですけれど……」


「へぇええ!これはこれは、ついに太公望にも春がやって来たのかもしれませんねぇ!」


「アホか。……だいたい、今の季節は冬間近の秋の終わりだ」


 楊戩さんの太公望さんへのからかいもそこそこに終わったのか、太公望さんは軽く片手を頭に押さえながら深い深~い溜め息を吐いていた。


「あれ、ハノメさんの時はそういうふうに言われたんですか。俺の場合は最初から『太公望』でしたね。ハノメさんが女性だったせいでしょうか?」


 天化さんの場合は、普通に『太公望』呼びだったらしい。

 私が女だから?そんな単純な理由だったんだろうか……。


「ここに立ち寄ったということは何か思うところがあるんだろう?立ち話は面倒だ。中に行くぞ」


「少しの間、お邪魔させていただきます」


 なんとも礼儀正しい人のようだ。

 私や天化さんにもわざわざ会釈と声を掛け、城門近くに立っていた兵士さんにも挨拶をしていく。生まれとか?育ち?が良かったりするのかな。


「んじゃ、俺たちも行きましょっか。……あれ?また、イイ匂いがしますね……」


 先を行く太公望さんと楊戩さんの後と追うために踵を返すものの、鼻をひくひくさせた天化さんがまたもやイイ匂い発言をしてくる。イイ匂い?私からだろうか?


「……うん。これは、やっぱりハノメさんからしますが……香り袋みたいなモノって持っていたりします?」


「香り袋?」


 袖口を鼻に近付けてくんくんと嗅いでみるものの、良い匂いなんてものはしないはずなんだけれどなあ……。


「花とかを詰めた小袋みたいなモンですね。でも、その顔だと知ら無さそうですし……不思議ですね」


 私と天化さんはお互いに首を傾げつつ、太公望さんたちの後を追った。

 匂い……?私が寝ている間に太公望さんに何か振りかけられたりしたんだろうか。でも、そうすると私自身でも匂いが分かるはずなのだけれど……。それに、天化さんが言うには、たまーに匂いがする時があるって感じらしい。ずーっと香っているわけじゃなくて、ふとした瞬間にフワッとって感じだ。

 衣服とかの匂い……って、わけじゃないのかな?


「……それにしても、あなたのそばには次から次へと変わった人たちが集まるみたいですね」


「こっちは頼んだ覚えは無い」


「あの武人は黄飛虎殿の息子さんでしょう?幼い時に一度だけ会ったことがあります。それに、あの女性……なにやら、気にかかることでもあったんでしょうか?あなたが故郷で呼ばれていた名を使って自己紹介していただなんて……もしかして、本当に伴侶としてお考えだとか?」


「バカか。んなわけがあるか。……たまたまだ。気が付いたらそう口に出ていたってだけだ」


「おや。そういうのを無意識、無自覚と言うのでは?」


「うるさいぞ。……だいたい、いつも一緒にいる犬やら鷹やらはどうした?とうとう森にでも返したか?」


「彼らならいつも僕とあります。今は僕の影の中に入ってもらっていますよ」


「ふぅん?……とうとう、主人に愛想を尽かしたのかと思ったが……つまらん」


「はは。その気にでもなればいつでもあなたの首を噛み付かせることも出来ますから退屈はさせませんよ」


「……さらりと末恐ろしいことを言うな、アホが」


「……それよりも。ハノメさんと言いました、か。……彼女、人間とは少し違うような……」


「ハノメのことは今はどうでもいい。それより早く部屋に行って東方面の話が聞きたい」


「はいはい。案内よろしくお願いしますね、望ちゃん」


「望ちゃん、言うなっつーに!」


 後ろからだとはっきりと太公望さんと楊戩さんの会話は聞こえないのだけれど真面目そうに話しているかと思えばいきなり太公望さんが食って掛かるようなときもやってきて、一体二人ってどういう知り合いなんだろう?と疑問しか浮かばなかった。

 楊戩は『ようぜん』と打たないと出て来ないのですが、読みは『ようせん』です。一部では『ようぜん』と呼ばれていることもあるのですが、今作では『ようせん』読みを採用しました!


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