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34 太公望さんの私室で

 まるで子ども同士の言い争い。

 そんなことをしながら私と太公望さんは城内のとある部屋へと戻って行った。

 太公望さんに『一緒に来い』、と言われてしまって連れて来られた部屋は、今までいたところよりも(食堂とか姫昌さんの部屋とかに比べて)こじんまりしているところだった。置いてある家具というものも寝台とか、椅子とかテーブルぐらいだけのモノだから……太公望さんが個人的に使っている部屋だったりするのかな?


 部屋に到着すると、すぐに太公望さんは温かなお茶の準備をはじめてくれた。元から何でも出来る人なのか、それとも慣れてきた行為なのかは分からないけれどお茶を淹れる手付きはとても自然なモノで、あたふたしているところなんて全然見られない。


「……ほら、コレでも飲め」


「ありがとうございます!んーっ、イイ匂いですね!」


 一脚しか置いていなかった椅子に私を促すとテーブルにお茶を置いてもらえば立ち上がる湯気とともにお茶独特の良い香りというものが鼻に届いてくる。ついつい、こういうものを飲んだり、嗅覚で味わうと『あー……』とかって溜め息が出てしまうのだけれど、お茶あるある、かな?

 ふぅふぅ、と火傷をしない程度までに息を吹きかけてお茶を冷ましてからゆっくりとお茶を口にしていくと、香ばしい味わいにまたもや大きな溜め息を吐いてしまった。


「……年寄りのババァか、お前は」


 椅子に私を座らせてしまった太公望さんは寝台の端っこに座りながら同じく温かなお茶を口にしていた。そして、私のなんとも言い難い溜め息のようなものを耳にすると呆れた顔をしてから顔を引きつらせていた。


「え~?こういうホッとするモノを飲むと溜め息って吐きません?」


「まあ、気持ちは分かる……」


 小さくフフッと笑みを浮かべてそう言うものだから、なんだお茶が落ち着くっていう気持ちは分かるんじゃない!と気持ちが通じた嬉しさでだらしなく、へらへらと笑ってしまった。


「……お前は、これからどうするんだ?」


「どうするって言われても……力は上手く使えませんし、まだまだ怨霊を倒せるレベルってわけじゃないですから、この辺りでお世話になりつつ力を蓄えるって感じでしょうか」


「それで、力が付いたら?」


「……そうしたら……んー……取り敢えず、ここら辺を蔓延っている怨霊を倒しまくる、とか」


「元いた仲間とやらの場所に帰る気にはならないのか?」


 太公望さんに言われてハッとしたけれど、そう言えば操られていたとは言え双子ちゃんたちには酷いことをしてしまったんだった。さすがに怪我……まではさせていないと思うけれど、怖がらせてしまったかもしれない。それなのに、今更仲間ヅラをして戻るなんて……出来るんだろうか。


「えーっと……今は、ちょっと考えられなくて……」


「確かこっちに来るときには何者かに操られていたって話だったのだろう?その怪しげな存在は……今は特には感じられないが……」


「最初は、幻聴のようなモノからはじまって……頭の中に直接声が聞こえてきて、それから手足も言うことを聞いてくれなくて……大変だったんです……」


「まあ、そういう類の術なのだろうからな。だいたい普通の家の娘だったのだろう?それが何故いきなり神だのなんだのという話になった?」


「それは私だって知りたいですよ。……私の祖母が、伝承とかに詳しい人だったっぽくて、きちんと毎日神社に参拝に行くようにって言ってくるような人だったんです。神社への参拝は日課のようなモノだったんです、それが……突然、変わってしまって……」


「……祖母が?」


「何処何処の神社には、こんな神様が祀られているとか、そういうお話が好きだった……人みたいで……あ、れ……?」


「……どうした?」


 お婆ちゃんの姿を思い出そうとするが、まるで頭の中にモヤでもかかってしまったみたいにお婆ちゃんの顔を思い出すことが出来ない。それどころか、両親の顔すらも分からなくなってきてしまった。それを伝えると太公望さんは急ぎ立ち上がると私のかたわらに立ってそっと私の額に片手を当ててきた。


「……いろいろと考えることが多いから疲れているんだろう。今は余計なことは考えずに、『休め』……」


「は?……ぁ……れ……っ……」


 ジッと太公望さんの銀色の目に見つめられたかと思うとフッと体中の力が抜けてしまったように体が傾いた。そのまま床にべしゃっと倒れ込んでしまうものかと思っていたのだけれどいつまで経ってもその衝撃がやってこないのでぽかーんとしていたら太公望さんの腕に抱えられていたみたい。

 そのまま私の体は太公望さんに支えてもらいながら寝台に運ばれると横にさせられてしまった。不思議だ……。太公望さんに『休め』って言われた辺りから急に体の力が無くなって、それで今はとにかく眠い……。太公望さんの言葉には不思議な力でもあるんだろうか?でも、術の類なんて使えないって言ってなかったっけ?

 そんなことをぼんやりと思いながら、どんどん重くなってくる瞼に逆らえずに目を閉じてしまった。


「……やれやれ、ようやく寝たか……」


 小さな寝息が聞こえてくることを確認し、そのまま寝台に寝かせてしまったものだから棚から新たに取り出した毛布をハノメの体に広げて掛けてあげた。

 神?こんな小娘が?力らしい力なんてものは自由に使えることも出来ない、ただの娘のくせに。

 変わっているのは、その境遇ぐらい。そして私のことを綺麗だとなんだと言ってくるその感性。私の髪が怖くないのだろうか、目の色だって周りと比べてみれば一目瞭然。私の方こそ異質な存在に映っているだろうに。

 私は、周囲の人間には打ち明けていないことがまだまだたくさんある。もちろんハノメに語った過去のことは本当だ。だが、姫昌殿たちと出会い、いろいろな人たちとの出会いと別れを繰り返している間に私の中身にも変化が起こったらしい。今まではちょっとした趣味の延長線上にあるようなモノで簡単な占いをしていただけだったが、その占いがことごとく当たるようになってきた。さらには、不思議な力というものも……誰にも言えていないことだが有ったりする……。

 私が川で溺れたことが原因なのだろうか。その時も、確か地元ではそこそこに有名な川に落ちたんだったか……私の人生に影響を起こしているのはことごとく川や水が関わっている気がする。これは単なる偶然だろうか。姫昌殿と初めて出会った場所も、とある川だった。そして、ハノメと関わるようになって彼女の禊の場、訓練の場に選んだのも川だ。

 あの時……一度だけ出会った水の神と自称する女には会えていない。もしかしたら今も生きているのか、すら分からないものだ。


『あなたには、やるべきことがたくさんありますから、どうか命を投げ出さないください』


 やるべきこととは、一体何なのか自分でも良く分かっていない。未だに。

 姫昌殿たちと出会うことか?それとも多くの仲間とも呼べる者たちに出会えたことだろうか。……もしくは、ハノメのように困った人物の手助けをしてやることだろうか。

 自分の不思議な見た目のせいで、散らせなくても良い命は故郷にたくさんあったはず。それを思い出すと自分ばかりがこんなにも周りの人間に恵まれた生活の中にいても良いものなのかと疑問を抱いてしまう。これから、自分に何か成すべきことでも生まれ出てくるのだろうか?

 私の中に生まれた力……たぶん、これからも誰かに伝える気はないし、その必要も無いだろう。ただ、私は周りの人間が誤った道を踏み出してしまわないよう、占い、先見し、後ろからそっと正しき道に向かうよう背中を押してやるぐらいで良いのだ。


 おもむろに椅子に座り直してテーブルの上に、占いに使っている道具を広げ、ハノメのことを占ってみた。これから先の未来、近々起こりうる未来が何なのか。

 すると、占いというモノは不思議なモノで、正直に物事を伝えてくる。占いを半信半疑だというヤツもいるが、私の占いはよく当たるのだ。


「……やはり、東か……」


 ハノメにとって行くべき方角はここから東と出ている。ここ……周では無い。だが、今の未熟な状態のまま東に行け、などと誰が言えるだろうか。最低限でも自分の身ぐらいは守れるようになってもらわねば。

 あら。やっぱり太公望さんにも秘密にしているらしい『力』がある!?それが何なのか気になりますねぇ!!……なんだか、無性に日本茶が飲みたくなってしまいました(苦笑)


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