33 水遊び
これは……えーっと、取り敢えず、ちょっとは力が表に出るようになった、と喜んでも良いのだろうか?
ただの糸だったモノに氷柱が生まれているという不思議な光景。
太公望さんは近くにいて、よりビックリしたのかもしれない。
「……瞑想するのは構わんが……力が抑えきれなくなって暴走するようなことにはなるなよ?そうなったら私でも対処が分からん」
「……暴走。!あ、慣れないうちに焦って力を使おうとして暴走する危険もあるから、焦らずに……とは言われていましたけれど……もし、暴走したらどうなるんでしょう?」
「私に聞くな。……その力は自分から発しているモノなのだろう?だったら、自分自身に跳ね返ってくると思えばいい。例えば……自分が氷漬けになる、とかな」
このように身近にある水分を凍らせることが出来るのなら。これが力の制御が効かずに自分に跳ね返ってくるようなことになったら……実物大の氷人間の出来上がり、ということになるんだろうか。氷漬けになった自分をイメージすると、思わずブルッと身震いしてしまった。だいぶ長いことここにいるし、体が冷えてきたこともあったのかもしれないけれど、氷って冷たいし……。でも、遠くから眺めている分には、氷で出来た彫像とかってキラキラって光りに反射して綺麗なんだよね。
思わず、氷と似た色をしている太公望さんを見てしまうが『なんだ?』と鋭い視線を向けられてしまうので、慌てて川に視線を向けた。綺麗な見た目をしているのに、ちょっと視線の圧が強いというか、最初は優しそうだと思ったのに、だんだん打ち解けていくと意外と口が悪いところもあったりする……それだけ、ちょっとは仲が良くなったということなんだろうか。
……なんとなく。
本当に、なんとなく川の水に触れたくなって片手を川の中に入れるとその冷たさに驚きつつも、その冷たさが気持ち良くも感じてしまって『はぁー』と深い深い溜め息を吐いた。
「……なんだ、その溜め息は?」
「えー?なんか、冷たくて気持ち良くて……さすがに頭から被るのは避けたい冷たさなんですけれど、触れていると気持ち良くてついつい」
「気持ち良いか?……っ……おい、あまり長く手を入れているなよ?冷たい、で済む温度じゃないだろう……」
太公望さんも私にならって片手をそっと川の中に沈めたのだが、その冷たさに耐え切れなかったらしくすぐに手を引っ込めてしまった。
「え、そうですか?……これだけ気持ち良いと……足ぐらいなら入れてみても良いかもしれませんねえ……」
ほら、子どもたちもよく川に来ると裸足になって川に入って遊ぶじゃないですか、と説明してあげると太公望さんは『……お前は、歳はいくつだ?川遊びをするような歳なのか?』と呆れられてしまった。う~ん……こういうのって年齢って関係すること?ちょっとぐらい良いじゃない。
履物と裾を何度か捲り、素足になると岩場に腰掛けながら届く範囲で足先を川に入れて足を動かし、パシャパシャと水しぶきを上げて遊んでいた。
「おい。……バタバタさせるな。こっちに飛ぶ」
「太公望さんもご一緒すれば良いのに。楽しいですよ?」
「冷たい、寒い、凍える……だいたい、今の季節を考えろ。そろそろ秋が過ぎて冬も近いんだぞ?」
「……は?」
秋?冬?
周囲の林道は、紅葉らしきモノは見えないものだからてっきり初夏とか……春ぐらいなのかな、と思っていたけれど……まさかの秋!?
「ええ!?秋!?冬!?え、こ、紅葉は!?全然、緑緑しているじゃないですか!山も!」
「紅葉?……ここら辺の植物たちは、紅葉をしないモノばかりだが?」
あ……そうなんでしたか……。こっちは日本生まれ、日本育ちなので秋になれば紅葉を目にすることが当たり前になっているんですよ。でも、そうか……ここは日本じゃないから、当たり前のように目にしていた紅葉も見られないってことになるんだ……それは少し残念だな。
赤や黄色、そして緑が残る山の色を見るのも秋の楽しみの一つだ。視覚的な楽しみって、ここら辺だと得られないのか……ふぅん?
「場所によって木々の種類も違うのだろう?それに、ここら一帯の植物たちは冬を迎えても不思議と枯れずに育っているから錯覚するかもしれないが……まあ、慣れろ」
「か、枯れることもないんですか……それは、不思議ですねぇ……」
「……ほら、いい加減に……っ……おい、足が冷たい……さっさと上がれ」
ぺた、と太公望さんの手が裾を捲った私の素足に触れると途端に眉を顰めるのは彼の方だった。え、冷たい?ちょうど良いぐらいなのだけれど……。
「……はーい、分かりました」
まあ、これからもこうして川の水を堪能する機会には恵まれそうだし、今日のところはこの辺までにしておくか、と川から足を上げると捲っていた裾を下していく。……というか、何気に今、太公望さんにセクハラされた?普通に足を触られたんだけれど、これってセクハラ?この世界に生きる、この時代の人たちにセクハラってどう言えば伝わるんだろう……。
「おい、こら」
セクハラについて考え込んでいると、ペシッと軽く額を叩かれたものだから何度か瞬きを繰り返してから既に立ち上がっている太公望さんを見上げるとどうやら片手を差し出してくれているらしく、この手を借りて立ち上がれ……ってことで良いのかな。
「……ありがとうございます……」
太公望さんの手を握って立ち上がると、温かい手だなぁ……と、しみじみ感じていればピキピキッとした不思議な音が。それは、だんだんビシッというような音にまでなっていき何の音だ?と周りを見渡してみると先ほどまで私が足を入れていた川部分に氷が張っていた。前回のように薄く表面だけが凍っているわけではなく、そこそこに分厚く凍ったらしくそれがヒビ割れた音がビシッ!という音になったらしい。
「……今、何を考えていた?」
「えーっと……」
恐る恐る太公望さんの顔を見ると呆れたような……それでいて、川の様子に驚きも示しているから、なんとも言い難い顔をしているのだけれど……声は、明らかに怒りを含んでいるようで視線を背けることしかできなかった。
「氷漬けになりたいのか、お前は!」
「ひぃっ!だから、そんなことにはなりたくありませんってば!」
「お前が足を上げた途端に凍り始めたんだぞ!あと少し足を浸からせていたら凍傷にでもなっていたかもしれないだろうが!」
「ご、ごご、ごめんなさいっ!!別に、意識はしていませんでしたから!!」
途端に滝の音にも負けないぐらいの怒声が飛ばされてくると私はとにかく謝ることしか出来なくて、さっさとこの場から逃げ出したかったのだけれど、むぎゅっと片手を太公望さんに握られたままだったから逃げることも出来ずに、ただただ太公望さんから怒られるという時間が続いてしまった。
「こういうことが暴走に繋がるんじゃないのか!?水は冷たいのに、平気で手やら足を突っ込むお前がおかしいんだ!痛覚やら感覚やらに問題は無いのか!?」
「ふ、普通ですってば!」
「普通だと!?滝の水だぞ!?冷たいに決まっているだろうが!よく、そんな中に手足を入れられるものだな!」
「つ、つめた気持ち良いぐらいでしたよ!太公望さんが冷え性だったりするんじゃないんですか!?」
「誰が老いぼれで冷え性だ!」
「誰も老いぼれだなんて言っていないでしょう!?」
最初は無意識のうちに、また川の水を凍らせてしまって怒られているだけのものだったのに、次第にワケの分からないところで太公望さんが怒り出してしまうものだからいちいちフォローをしていくことが大変だった。
誰もご老人のようだ、なんて私は一言も言っていないというのに……こういうところが、もしかして子どもっぽいって感じなのだろうか。ムキになって言い返したりとか?大人っぽかったり、逆に若々しくてムキになったり、忙しい人だなあ……。
水遊びは楽しそう!それに綺麗な川なんでしょう?それはそれは、気持ち良いでしょうねえ。……でも、凍っちゃった?それはそれは大変ですねぇ(汗)
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