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30 裏の滝

 怨霊を探知する力も、私の力の一つかもしれない……。

 そう言われて、少しだけ肩の力が抜けた気がした。

 だって、やっと自分にも出来ることがあるかも!って分かったんだもん。

「怨霊、探知……?」


 太公望さんは最初は不思議がっていたものの、山に一緒に入ったときに『そう言われてみれば……』と考えるところがあったのか、考えをまとめるついでに私の顔をジッと見ていた。


「俺は、なんとなく……嫌~な感じがするって感じがするだけですが、ハノメさんには寒気がするって体にはっきり現れているんですよね。そういうのもしっかりとした力の一種だと思いますよ」


 天化さん的には、寒気とまでは感じないものの独特の勘のようなものが働くらしく『嫌な感じ』として感じることが出来ているらしい。その感じ方は私とはちょっと異なるようで、私のようにはっきりと寒気だとか背筋が震えるってところまではいかないみたい。


「まあ、それも一つの力なんだろう。……で、怨霊とはどのように戦えば良いんだ?コイツは?」


 じろっと太公望さんの鋭い視線が向けられているのが嫌でも分かる。どんなに『これから怨霊が現れます!』って分かって予想が出来たとしても実際に戦える方法も無ければ私なんて前線で戦うことが出来ない。

 そう言えば……。


「えっと……私には『水の気がある』って言われていたんですけれど、水と関連のあるモノを攻撃に使うことって出来ないんでしょうか?」


「水?」


「水なら……普通に、ありますよ。ほら、空気中にも少なからずありますし。あとは……ハノメさんの体内の水分を活用するっていう手もあるんじゃないでしょうか?」


 おお!さすが武に長けた黄天化さん!凄い、いろいろなアイディアを出してくれて凄くタメになる!太公望さんは近くにいるけれど何やら難しそうな顔をして腕を組んでしまっているばかりで、あまりタメになるような発言というものはしてくれない……あれ、太公望さんってこんな静かな人だったっけ?


「まあ、水そのものはあちこちにあるので、それをどうやって戦う術に使っていくかどうかは……結局はハノメさん自身の考え方になっちゃうのかもしれませんけれど……他の神様たちはどんなふうに戦っていたんですか?」


「えっと、実際に力を使っているのを見たのは二人だけなのですが……一人は手から炎を出して悪霊を倒していましたね。もう一人は、こう……自分自身の拳に力を込めて、直接殴りつけるように戦っていました」


 異常な現象を目にしていたというのに、今にして思うと意外と冷静に思い出すことが出来ている。あの人は、こういう戦い方をしていた、とかこの人はこういうふうに戦っていたとか……まあ、それだけインパクトが大きかったってことなんだけれど。


「炎?はは、凄いですね……もう一人の方は、何となく分かるような気がします。気とかを込めて自分の力を底上げとかして怨霊を倒した感じがしますね」


「……ハノメさんが、こちらに来ることになった原因は……今は、無くなったのですか?」


「あ……えっと、どうなんでしょう……」


 天化さんは『なんだなんだ?』と伯邑考さんの言葉に首を傾げていたものだから、私が何か不思議な存在に操られてしまって大切な人たちを傷付けそうになったこと。そして、無理やり道を開けてもらったことで辿り着いた先が、ここ……周であるということを説明した。


「操られていた……?え、今は?平気なんですか?」


「……今のところは、平気みたいです」


「滝の水で禊に似たことをしたと言ったろう?そこでハノメに憑りついていたらしい何かは払うことが出来た」


 ようやく太公望さんの口から言葉らしい言葉が出てくるようになったものの、またもや小難しい顔をして顔を伏せてしまう。何か、考えでもあるのだろうか……。


「あぁ、裏の滝ですか。あそこの水は清らかだと有名ですからね。きっとそれが役に立ったのかもしれません」


「「清らか?」」


 つい、天化さんと声がダブってしまった。え、裏の滝がそんな凄い場所だったなんて今まで知らなかったんですけれど。


「滝そのものも有名ですが、水も。その水を口にしたり、体を流せば心身ともに清められると周では有名なのですよ」


「……もしかして、その滝の水って山の方から続いていたりしますか?」


「はい。ちょうどお二人が天化殿を探しに行かれた山から流れてきていると言われています」


 あ。

 天化さんを探しに行った山が緑緑していた理由が何となく分かったような気がする。水だ。清らかな水が流れているから植物も元気に、育っていたのかもしれない。やっぱり水って大切なモノなんだなあ……と改めて考えさせられてしまう。


「なら、これからはその滝や川の近くで意識を集中する訓練をおこなった方が良いんじゃないでしょうか」


「え、鍛錬所とかじゃなく?」


「ハノメさんは『水』にまつわる気の素質のある神らしいじゃないですか。なら、闇雲に体を鍛えるよりもハノメさんの力の元となる場所があふれている所……それこそ、清らかな水があふれている滝があるんですから、そこで集中や瞑想をおこなってみる方が良いかもしれません」


 お、おおーっ!!なんか、天化さんが言うことには説得力のようなものがあって凄く有難い。それに、凄く私に合っているというか、ちゃんと私のことを知って、私の体に合う場所での訓練を提案してくれるので分かりやすい。

 だんだん、はっきりしてきたかも!


「あぁ、それは良いかもしれませんね。……私的には、先ほどから太公望殿が静かなのが気になっているのですが、何か気になることでも?」


「……いや、別に……」


 やはり伯邑考さんも気になっていたらしく太公望さんに声を掛けるものの、僅かに首を左右に振るだけでまた顔を伏せてしまった。いやいや、そんなことをされると余計に気になってしまうんですけれど!


「天化さんってフィジカル……えっと、武器とか体術とかに詳しいんだとばかり思っていたんですけれど、いろいろな訓練の仕方とかの心得があったりするんですか?」


「訓練というほどでもありませんが、滝行とか水で頭を冷やすっていうのは良くしていますし……なによりも、水を被ると頭をすっきりするじゃないですか」


 た、滝行……す、凄いな……そんなことまでしているんだ……。

 思わず滝行をしている天化さんの図というものをイメージしてしまったが、とてもとても自分には真似出来そうにはなさそうだった。


「滝の近くで集中や瞑想をするようでしたら俺にも声を掛けてください。さすがに一人で水場に行かせて滝にでも落ちたら大変ですからね」


 や、優しいんだなあ……戦好き?変人!?全然だよっ!凄く優しい良い人じゃん!


「その時は、よろしくお願いします!」


 ぺこり、と天化さんに向かって頭を下げると『はい、こちらこそ!』と爽やかに返されてしまった。

 一時は、どうなることかと思ったけれど、自分に出来ることがだんだん見えてきたのでやっと道筋?って言うのかな。それが一気に広がる感じがした。


 ただ、ちょっとばかし気になるのは、同じ場にて会話をしていたのにも関わらず太公望さんの口数がいつもより少なかったこと。悩み事?困ったことでも起こったんだろうか。それとも全然関係無いことでも考えていたのだろうか。ただ、それだけが気になってしまった。特に、何も無いと良いのだけれど……。


「……水の気、か……」


 ぼそっと、それはそれは小さな声だったので私にははっきりと聞き取ることが出来なかったのだが、太公望さんが小声でそう呟いていたらしい。それは一体、どういう意味で呟かれたものだったのか、分からなかったのだけれど、太公望さんは今もずーっと小難しい顔をしているんだよね。

 おお!やっと修行が出来る!?

 うってつけの場所もあるし!(滝)やったじゃん!これで、一歩、前に踏み出せた……かな?


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