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29 勝負の行方

 なんとも情けない所をみせてしまった……。

 こんなんじゃ、天化さんも戦い方を教える気になんてならないだろう……。

 さすがに泣き出してしまった私に、慌てはじめたのは天化さんと太公望さんだけではなく周りで鍛錬をしていた兵士さんたちもあわあわし出してしまって『だ、誰か呼んで来い!』『伯邑考様は!?』と誰誰を呼ぶか、誰が呼びに行くかといったことでザワザワしてしまった。


 私の涙は、ある程度流し終えると止まってくれたのだけれど、それでも『怪我とかしませんでしたか?』と怪我なんてあるはずが無いのに天化さんはあれこれと心配してくれる。


「だ、大丈夫……です……」


「本当に?……あー……手がちょっと赤くなっていますね……本当に戦いとは無縁の生活の中で暮らしていたんですか……コレ、別に手当する必要まではありませんけれどゆっくりマッサージしておいてください」


 慣れない剣をずるずると引きずりながらも持ち、そして槍の持ち方も正しい扱い方も分からないまま持って天化さんに立ち向かっていこうとしたのだからかなりぎゅっと強く槍を掴んでいたんだろう。手のひらが赤らんでいることにようやく気が付いた。私の両手をまじまじと見ながら、『怪我は……』と、あちこちチェックしてくれる天化さんに少しばかり気まずい。……というか、照れる。


「マッサージで、良いんですよね?わ、分かりました……」


「……綺麗過ぎる手ですね……なんで、あなたみたいな人が戦おうとするんです?」


 尻餅をついてしまっていたから立ち上がったときに、パパッと服に付いた土埃を払っていくと不意に真剣過ぎるぐらいの表情でじっと見られた。


「私が、世界のために役に立つって……素質があるって言われたんです。でも、今は少しだけ違うんですよね。天化さんみたいな若い人たちが命を散らせる戦とかが少しでも無くなるようにしたいと……今は、考えています」


「戦を無くす?」


「天化のような死に急ぐ若者を減らしたいと考えているそうだぞ」


「いや、でも……この世の中から戦を無くすなんて無理な話なんじゃ……?」


「ハノメがいた所では、戦は遠い所でおこなわれていて、そう身近にあるものでは無かったようだが?」


 太公望さんも『やれやれ』と肩を落としながら涙が引っ込んだ私の肩をぽんぽんと叩いて落ち着かせてくれる。いや、もうだいぶ落ち着いてはいるんですけれど……。

 時代的な意味もあるかもしれないけれど、現代の日本で戦なんて大きな戦いは無い。小さな犯罪とかならしょっちゅうだけれど。でも、日本から外に出るとあちこちで大きな戦争っていうものはたびたび起こっていてニュースになっている。ちょっと前までの私だったら『自分には関係の無いことだし……』と考えていたのかもしれない。でも、見るモノ全てが変わってしまって、いろいろな人と出会って現実を知ると争いや戦いというものが凄く身近だと感じられる。

 武器もさっき手にしたのがほぼ初めて。あんなに重いだなんて思わなかった。それを当たり前のように振るって、動かして……。毎日の鍛錬の凄さというものを身に沁みた。自分に向けられる刃の怖さというものも実感したし、本当に怖い世界に来てしまったのだと痛感している。


「戦っていうほどの規模じゃなくて、たびたび傷付いている人はたくさんいるような所でしたが……それでも、他人事のようには考えられなくなってきていて……少しでも平和になるように、戦いたいと考えているんです」


「……でも、俺の戦い方と、ハノメさんが言う戦う方法って違うモノなんじゃ……?俺たちは武器を手にして戦いますが、ハノメさんは……正直、武器なんて扱えないんじゃ……?」


「要は気持ちの問題、だろう?」


「うっ、いや、それは……」


「じっくりと二人のやり取りを見させてもらっていたが、剣をまともに振るえないハノメをお前は笑うでもなく、呆れるでもなく、扱う武器を変えただけ。それで真向から手合わせを受けた。なぜだ?普通なら、止めさせるところだろう?」


「……あまり、俺に勝負を挑む人というのも少ないですし……」


「本当に、それだけか?」


「……あーっ、もう!!分かりました!分かりましたよ!!俺の負けです!!」


 片手でぐしゃぐしゃと自分の髪の毛を乱しながら口をへの字にしてしまう天化さん。ん?負けた?太公望さんと勝負でもしていたのだろうか。


「別に私が勝ったとは一言も言っていないんだが……?」


「いや、アンタのその顔。めちゃくちゃ勝ち誇っているじゃないですか。くそーっ……!あ、ハノメさんも気を付けた方が良いですよ。太公望殿は口が上手いので、いろいろな人をあっという間に手中に収めてしまいますからね」


「へ?え?はい?」


 なんのこっちゃ?ワケが分からなくて天化さんと太公望さんを交互に見ていると、天化さんは悔しそうに、そして太公望さんは『してやったり!』なドヤ顔をしていた。


「良かったなぁ、ハノメ。これで天化に戦い方を教えてもらえるようになった。まさかお前のような小娘がいきなり天化と手合わせするとは思わなんだが……それも一つの刺激になったのかもしれん」


 え、……っていうことは、じゃあ戦い方を教えてもらえるってこと!?


「い、いいんですか?」


「……いや、別に断る理由は最初からありませんでしたよ。でも、こちらの……ハノメさんが戦うってイマイチよく分からなかったんで何のために戦うんだろうって俺なりに考えていただけです。……そうしたらいきなり手合わせしたいって言い出すし……なんか、ハノメさんって……いろいろぶっ飛んだ人だったりします?」


「まあ、コレでも神らしいからな」


「神?」


 あ、そう言えば天化さんって私のことって知らないんだよね、きっと……。同じ、ここに……周に住んでいる一人の女性ってことしか分かっていないのかもしれない。


「神って、えーっと……神様って意味で合ってます?」


「そうそう。それで合っているらしい。まあ、まだ力の使い方が分からず、怨霊退治が自分ではこなせない神の素質がある人間に近い者……らしいがな」


 しばらくの間、沈黙が続いた。その間に、兵士に呼ばれてやってきたらしい伯邑考さんが特に何事も起きていない鍛錬所に首を傾げつつ、太公望さんたちの姿を視界に入れると『どうかされましたか?』と問い掛けてきたものだから太公望さんは面白がりながら『ハノメが天化相手に手合わせをしていたところだ』と意地悪く笑いながら言うものだから伯邑考さんはギョッとして『大丈夫だったのですか?』と聞いてくれたが、怪我一つも無く過ごしている私を見て安心したらしい。


「……えーっと、では、その不思議な力を使えるようにしたい、と?いやいや、さすがに俺でもそういう力の使い方っていうのは……」


 伯邑考さんに『ちょっと休憩でも入れましょうか』とお声が掛かると私、太公望さん、天化さん、は揃って伯邑考さんに招かれた部屋の中でお茶をいただくことになった。

 が、改めて私の存在とやらを耳にした天化さんは『そっちの戦う意味ですか……』と頭を抱えてしまった。


「天化にも不思議な力があるだろう?その力は、どんな時にどうやって使っている?それを教えてやってほしい」


「あー……怨霊を倒した時みたいなことですよね。とは言っても、戦いに夢中で、何をどうこうすれば良いかなんていちいち考えていられないと言いますか……う~ん……」


「コイツは、最初……ここに来たばかりの頃だ。この裏に滝があるだろう?その川の水を一時的にだが凍らせた事がある。だが、同じことをさせようとしてもそれが上手くいかないらしい」


「へ?……それって神通力みたいなモノが働いたってことですかね?」


 私はお二人……たまに、伯邑考さんも口を挟んでくるが、彼らの言葉に耳を貸しつつ、手のひらをむぎゅむぎゅとマッサージしていた。意外と今頃になって手のひらが痛む感じがしてきたから。


「そうだ。確か天化も似たような力を使っていたよな?」


「う~ん、でも、そういうのって個人差があるっていうか、俺と同じ力をハノメさんも使えるってわけじゃないですから使い方と言われても……」


「山から城に戻って来たときは?道に迷わず真っすぐに帰って来ただろう」


「あれは、勘みたいなモノが働く感じですよ。それに、違う方向には嫌な感じがするとか歪んだ感じがするとか……そういうのはハノメさんは分からないんですか?」


「あ、悪霊とか怨霊が現れそうになる前だと背筋が震えるんです」


「今のところ、使えるのはこれぐらいだな」


 ハッと慌てて顔を上げて天化さんに説明をしようとするが、こんなんじゃ何もお話しにはならないんだろうなあ……実際、天化さんは、より一層困ったような顔をしてしまっている。


「……いや、その寒気とかも一種の力じゃないんですか?怨霊、探知みたいな。たぶん、そういう探知能力が優れているんだとは思います」


 困りながらも私が落ち込ませないように言葉を選んでくれているらしい。天化さんって手合わせをしようとしたときにも思ったけれど、イイ人っぽい。とても自由人とか変人とかではない気がする。

 お、教える気になってくれた!?優しいねぇ、このこのぉ!!なんだかんだ言うても周りに恵まれているハノメちゃん。そして、イケオジだったり、イケメンが多い……。え、羨ましい?いやいや、きっと本人からすれば怖い怖い!って考えていますって!


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