27 オッドアイの好青年、現る
鳥型の怨霊が現れた。
太公望さんは『頭を下げていろ』とばかり言っているし、このままだとアイツに突進されるのでは!?
今まで悪霊とか怨霊に出くわしても何かされる前に神たちの力によって亡きモノにされてきた。だから怨霊たちがどんな力を持っているのだとか、どんな攻撃で人たちに害を加えるのかが分からない。そして、私も力の使い方が分からない身だし、太公望さんだって戦うような術を持っていないと言う。これ、大丈夫なの!?
「ハノメ。首を切られたくなければ絶対に顔を上げるな」
「首?」
「……やっと、来たか」
「お、いたいた!そ~ら、これでも食らえ!」
第三者の声が聞こえた。それから何かが頭上を走っていた感覚も。ビュンッて風が頬に当たったから何か投げたりしたのだろうか。だが、その青年の声の後には鳥型の怨霊はまともに声を上げることもなく、亡きモノにされて元から何も無かったかのように消滅してしまった。……え、やっつけたの?怨霊を?こんなに、あっさりと!?
「……って、アレ?もしかして太公望殿!?しかも女の子と一緒!?こんな所に女の子を連れて来て何しているんです!?」
怨霊の気配が無くなったことによって太公望さんも体を起こし、私もゆっくりと顔を上げていくと、そこには二本の刀剣を手にした好青年が立っていた。着ているモノは私たちとそう変わらないのかな。上着はちょっとチャイナ服風で、でも体が動かしやすそうにゆったりとしたデザイン。もちろん下は私たちと同じようなパンツスタイル……これまたゆったりとしたデザインのモノを着ていた。この時代は、ゆったりしたデザインの服が主なのかな。ただ、特徴があるとすれば手にしている二本の刀剣と左右の瞳の色が……違うこと。右は深い海のような瑠璃色、左は飴のような琥珀色をしていた。
「お主を探しに来たに決まっているだろうが、このバカたれ!出掛けるときには何処に出掛けるかきちんと書置きの一つも出来んのか!?」
「え?あはは~、まあまあ!さっきも危ない所だったのに、なんとかなったでしょ?良かった良かった!」
あ、明るい人だな。伯邑考さんとは違い、爽やかにニカッて笑うタイプ。もしかして、この人が……。
「あはは、じゃないだろうが。まったく……ハノメ、コイツが黄天化だ」
「え、俺に用事ですか?……取り敢えず……城に戻りません?さすがに、腹減ったんで……」
天化さんはどれほど山にこもって鍛錬をおこなっていたのか、言うが早いかお腹を片手で擦ると途端にグルキュ~……という音が聞こえてきたので思わず笑ってしまった。そんな様子を呆れた顔をしてみている太公望さんと、一応何かあったときのために軽食(本当に片手でサクサクと食べられるモノみたいで、現代で例えるならカロリー〇イトみたいなモノだった)を天化さんに渡すと『ありがとうございます!』と爽やかにお礼を言いながらパクパクと口を動かしていった。
「……天化さんの武器、パッと見では一本の刀剣に見えなくも無いんですが二本なんですね……」
「あ。俺の親父のことって聞いてます?えーっと、ハノメさんでしたか。コイツは元々、俺の親父が使っていたモノだったらしいんです。それが戦で死んじまって……戻って来たのがコイツだけだったんですよ。その時には、一本だけだったんです。でも俺が鍛錬していくうちに二本の刀剣になっちまって……不思議ですよね」
一本の刀剣が、二本に?不可思議な事もあるものだ……って、神様がいろいろな術を使って怨霊を倒していることもじゅうぶん不可思議なこと、かな。
「……あの、失礼かとは思うのですが……戦をすると亡くなった方のご遺体とかっていうのは……」
「亡骸か?戦で果てた亡骸を持ち帰る余裕なんてものはほとんど無い。そのままその地に還るか、野獣や野犬どもに荒らされるのがほとんどだ」
太公望さんがあまりにも当たり前のように言うものだから、ちょっと冷たい……と思ってしまったけれど、そうか……落ち着いて考えてみれば天化さんのように何かその人の所持品のようなモノだけでも戻ってくることの方がキセキなのかもしれない。
「……っ……ツラいですね……」
「そうですか?親父も戦には毎回命を掛けてましたし……そりゃあ死んだら悲しくないって言ったら嘘になりますけれど、命を掛けてやれることをやったなら、その結果がどうであれ親父は満足していると思いますよ」
何でもない顔をして言う天化さんだったがその様子をじろりと太公望さんは見ていた。きっとお父さんが死んだと聞かされたときには今のように笑うことさえしばらく出来なかったんだろう。
「えーっと……城は……コッチですね」
「え、分かるんですか?」
先ほどの戦いでバタついていたせいもあって方向感覚がほぼ無くなってしまった私。たぶん太公望さんも占いとやらをしないと分からなかったかもしれない。そのなかでも天化さんはちょっと考えただけでズンズンと先を運んでいく。
「何となく、ですよ。俺、こういう勘は外れたことが無いんで安心してください」
「……こういう所が、ヤツの持つ神通力に繋がるかもしれん……」
止まることなく天化さんの後を付いていけば、あっという間に周の王城に着いてしまった。すご……神通力っていうのもあるのかもしれないけれどまったく迷うことなく『コッチですね、コッチ』と言う勘のようなものに感心してしまった。
あ。結局、戦い方を教えてもらうよりも先に城に戻って来てしまった。だが、今の天化さんに戦い方を教えてください!とお願いしたところで『腹減ってるんで後にしましょう!』って言われるんだろうなあ。
「……結局私たちは、何をしに行ったのだ……」
広間……というか、食堂?そこそこの人が集まれて、そして食事をすることもできる場に来るとガツガツ!と食事をはじめていく天化さんを横目に太公望さんは呆れてしまったようだ。野菜や肉が豊富に入ったスープのようなモノに、アレは……パン?果物といったものをお盆に乗せて机の上にドンと置くと相当お腹が減っていたらしい天化さんは食事をすることに集中してしまったらしい。
「……山の、散策……でしょうか」
「無駄足だったのでは?こんなことなら、城で待てば良かった……」
「でも、改めて怨霊の怖さが分かった気がします」
「……怨霊?さっきのアイツみたいなことですか?」
私が『怨霊』と口にするとようやく食事のペースが落ち着いたらしい天化さんも口を挟んできた。でも、どうやら彼は怨霊とは分からないままにやっつけてしまったということだろうか。
「そ、そうですよ。知らずに私たちを助けてくれたんですか?」
「あー……何と言うか、変な気配は感じてましたね。えーっと……怪しげなモヤみたいなモノ、見えませんでした?」
「あ!はい、見えました!」
「たぶん、そういうのが怪しい気配だと思ってて後を追いかけて行ったら太公望殿とハノメさんがいた所に来たって感じです」
私の気のせいかも……と思っていたけれど、やっぱり見えていたんだ。
「太公望殿は?怪しげな気配って分かりました?」
「……怪しいかどうかは知らん。が、アレは普通の鳥では無いことは分かった」
だからすぐに体を倒したんだろう。きっと普通に立っていたら鳥の嘴やらであちこち突っつかれて血まみれ状態になっていたっておかしくなかったよね……。
それに不可思議なモノは今も存在しているのだけれど……。天化さんの刀剣は、二本あるのに、何故か鞘は一つだけ。どういうからくりになっているのかとても不思議なのだけれどそこら辺は天化さんも不思議に思っていることらしい。
「……で、俺に用事って何だったんです?わざわざ山の中にまで入ってくるなんて」
「ハノメに戦い方を教えてもらいたい」
「え、俺にですか?」
「戦う方法なら天化さんが適任だと太公望さんに言われました。なので、どうかお願いします!」
「えーっと、戦う方法はいろいろ知ってはいますけれど……なんで、俺なのか?って聞いても?だって太公望殿の周りにはいろいろな人がいるじゃないですか」
「それは……お主が一般人には無い不思議な力のようなものを持ち得ているからだ」
「はぁ、それでですか。……うーん……少し、考えさせてもらっても良いですかね?時間をもらえませんか」
「それは任せる。お主がどうしてもダメなら他を探す手間が掛かるだけだ」
食べ終わった食器類をお盆にまとめて片付けていくとともに席を立った天化さん。その表情を見ていたのだけれど、悩むような……困ったような……いずれにしてもあまり良い表情を浮かべていなかった。これは、人選を間違えてしまったんだろうか……。
オッドアイの好青年の登場です!双剣の使い手です!あれ、双剣?何処かで見たような……と思う方は、きっと私と話が合うかもしれません!(苦笑)
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