26 山へ
戦い方を教わるなら『黄天化』が良い。
ということで、太公望さんと一緒に山に入ることになった。
「……なんだか、緑緑していますね」
「は?なんだその言い方は」
一応、敷地的にはここも周に入るらしいのだが、山と言っても私が今まで目にしてきた荒廃してしまったような景色が広がっているというわけではない。山という自然がまだ生きているらしく、植物も木々も生き生きとしているように見られた。
「えっと、私が今まで見てきた景色は……植物なんてほとんど枯れてしまっていて……こんな景色では無かったんです」
「……そちらの方が荒れていた、ということか」
「はい」
逆に言うと、とても歩きにくい。植物は生き生きとしているものだからあちこちから育った蔓や植物の葉や根が伸びていて、なかなかに数メートル歩くだけでも時間がとても掛かる。これは、思っていた以上に黄天化さんに出会えるのは難しいのかもしれない。
「……その、黄天化さんというのはどういった方……さっきの言い方だけじゃどういう人なのか分かりませんよ」
「あぁ、とにかく変人だ」
「だからその変人の意味を……」
たまたま上空で……鳥、だろうか。ギャアギャアと鳴きはじめたものだからどうしたって肩が震えてついつい反射的に上を見上げてしまう。空が、灰色なところはこちらも変わらないのだけれどどうしてここはこんなにも自然が豊富なんだろう。
「……戦マニアとでも言うべきか……戦いの場面になればヤツは生き生きとしながら戦う。もちろん無益な争いは私も好まんから注意はしているがな。娘が何処から来たのかイマイチ分からんが、悪霊や怨霊がそこら中に蔓延っているとヤツの前で言ってみろ。大喜びしながら戦闘に参加するだろうな」
「……戦うことが好きな方、なのでしょうか」
「天化の父上も武に秀でていた人物だったからその血を強く受け継いだのかもしれん。だが、それだけでは無いな。アレは。血を、戦を追い求めているようなヤツだ」
黄天化さん。太公望さんが説明するとどうしても戦好きな人っていうイメージが強くなってしまう。今までは自由人みたいな感じかな、と思っていたけれどいろいろな意味で真逆になるかもしれない。ちょっと危ない系の人だったりするんだろうか。
「その、お父さんは……今は?」
「……亡くなっている」
「え!?」
そ、そうだったんだ。あれ、そうだったっけ。結構、長生きしているようなイメージがあったのだけれど違うのか……。そうだよ、伯邑考さんが生きているってことは私の知る史実とか歴史漫画とか歴史小説とかはだいぶアテにはならなくなってしまうかもしれない。本当に名前だけを知る感じになるだろう。
「そう言えば、湯殿ではお前はいきなり泣き出したな。何か理由でもあったのか?」
「あ、いえいえ。驚いたというか安心したというか……感情がごちゃごちゃになってしまって……」
まさか早くにお亡くなりになるはずの伯邑考さんがピンピンしているものだから……なんて言えないよねぇ。そんなことを言えば何故そんなことを知っている?って話になるだろうし。史実とか歴史小説系では伯邑考さんの……その、いろいろ事件っていうのはそこそこに有名な話だったからなあ。言わないままの方が良いだろう。きっと聞いたらショックだけじゃ済まないかもしれないし。
「そ、その……天化さんのお父さんは何故……」
「それを聞いてどうする?それを知って、お前はどうする?」
「……故人なら……今を生きている天化さんたちにしっかりとこれからの人生を生きてもらいたいと思うからです」
「ほぉ?普通なら故人を偲ぶとか思うはずだが、少し変わっているな」
「私はその、天化さんのお父さんのことを知りませんし……だったら今を生きる人のことを考えたいからです」
「なるほど。正論だな。……天化の父は黄飛虎という。数年ほど前に東の方で戦が起こり、戦に参加した黄飛虎はそのまま亡くなってしまったんだ」
戦……どんな戦だったんだろう。その、黄飛虎さんが亡くなったというからには、きっと大勢の人も傷付いて亡くなったに違いない。どうか、悪霊の類にはならずに静かに眠っていてほしい……亡くなった人をまた傷付けるなんてそんなことはしたくはないから。
「ふむ。……やはり、それらしい気配は見つからんな……」
「天化さんですよね。……静か、ですし……鍛錬しているならもっとバタバタしていてもおかしくない気もしますし……」
鍛錬って聞くとやっぱり戦闘の独特な音が聞こえてもおかしくないはず。それが、今聞こえてくるのは木々のざわめく音ばかり。時々、鳥の鳴き声のようなものも聞こえてくるのだけれどそれ以外の……人が何かしているような音は聞こえてこない。場所を、間違えてしまったのだろうか。
「このまま奥に進んで探すという手もあるが……今のところ、悪霊や怨霊の気配は?」
「……それらしいモノは、いないと思います」
背筋がぞくぞくするような気配、ブルッと震えるような気配というものはいなさそうだ。つまり、今のところは安全ということ。でも、山の中だとそれ以外のものの危険性だってあるんじゃないかな。野生の動物類とか。
「もう少し先に進んでみるか。少しでも違和感があれば教えてくれ」
「分かりました」
歩きにくい山道を、足元の草木を踏んでいきながら先へ先へと進んで行く。これ、大丈夫なのかな。天化さんと出会えるかどうかっていう心配よりも、帰り道の心配。同じ道を帰って行けば良いだろうって思うかもしれないけれど、かなり植物たちが鬱蒼としているものだからちょっとでも道を逸れてしまうと帰り道も分からなくなってしまう。
それに、歩き慣れない道を進むというのは、なかなかに体力を使うらしい。太公望さんは慣れているのか息を乱してはいない様子だが、私はだいぶ息が上がってきていて一歩前に踏み出すたびに『ハァッハァッ』と息が上がっていく。
「……おい、大丈夫か?」
「……え、何がですか?」
「疲れただろう。少し休憩するか」
懐から短刀を手にした太公望さんは目に付いた木の周りを生い茂っている植物たちを切っていけば簡単なモノだが腰を下ろし、休める場所をつくってしまった。
「まったく。アイツは一体どこにいるんだか……」
「はは……相当、奥のところで鍛錬でもしているんでしょうか」
木の根元で二人して座り込むと『ふぅ』と一息吐いてはぎゅっと立てていた膝を両腕で抱き締めた。別に寒いとか心細いという意味では無い。そういうことは一切無かったのだけれど……太公望さんに肩を抱かれて引き寄せられてしまった。
「あ、の……?」
「……別に、なんでも無い。私が寒かっただけだ。……しかし、神そのものが目に見えるだなんて世も変わったものだな」
「えーっと……私は、ちょっとどうなるか分かりませんけれど?」
「素質があると言われたんじゃなかったのか?」
確かに。でも、素質って言われてももしそれが悪い神様とかだったりしたらどうするんだろう。それに見た目だけならこの太公望さんの方がよっぽど神っぽいんだけれどなあ。
「太公望さんは占いが得意と言っていましたけれど誰かに習ったんですか?」
「まあ、基本は。……私のこの見た目をどう思う?」
「どちらかと言うと神様に近い気がします」
「私は一度死んでいるからな」
「……は?」
「冗談だ」
た、たちの悪い冗談はやめろ!とばかりに、肘でぐりぐりと太公望さんのお腹辺りを突っついてやると『悪い悪い』と笑って返してくれた。もう、死ぬとか……そういうのって言わない方が良いって言われたから余計に気を付けているんだよ、こっちは。
さて、そろそろ先を行くか……と立ち上がった太公望さんに続くように立ち上がったときだった。背筋が冷たいモノで触れられたときのようにブルッと震えたのは。途端に周りを見渡すがすぐにはそれらしき姿が見えない。
「太公望さん!」
「……先を行くか、戻るか……さて、どうするかな」
私の声に周囲に気を配らせるものの時間差?のようなモノでもあるんだろうか。今はまだ姿を見せない悪霊か怨霊に太公望さんの顔も真剣なモノになっていく。そして、ギャアギャアと再び鳥のような鳴き声が上空から聞こえてきたものだから、普通に鳥か……と思っているが太公望さんは慌てて私の体を抱え込みながら植物が生い茂る場所に倒れ込んだ。
「な、に!?」
「顔を上げるな、アホ。ヤツだ……ヤツが、怨霊だろう」
見た目は鳥。しかし、普通の鳥じゃないと理解した。目が真っ赤だ。それに、あの体に纏っているものは何だろう。モヤのような不思議なものだ。こちらの怨霊たちは普通に動物の姿をしているの!?もしくは死した動物たちが怨霊とでも化したのだろうか。
さて、アレからどうやって逃げるか……。ごくり、と息を呑んだ。
太公望さんの髪色は銀。そして瞳も銀です。おやおや、彼にも事情というものがおありかも!?の前に、怨霊から逃げるか戦うかしないと!!
古代ファンタジー系作品。聞き馴染みのあるキャラクターも登場してきているのではないでしょうか!?興味を持っていただけると嬉しいです!
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