25 神通力を持つ青年
一応、ここ……周の一番偉いとされている姫昌さんからの勧めもあり、しばらくは周で過ごすことになった。
だけれど、ただ住まわせてもらうだけではなく戦う術を身に付けるため、でもある。
どうやら太公望さんには戦える人物に心当たりがあるみたい。
「剣術であれば私にも心得はありますが……」
戦い方。でも、それは人と斬り合うような戦いをするわけじゃない。伯邑考さんが剣術ならば私がお教えしましょうか?と言ってくれるが、私が戦うのは悪霊や怨霊といったちょっと摩訶不思議な存在たち。そのような存在に、普通の剣術って効くのかな?と考えていると太公望さんが呆れたように首を左右に振った。
「伯邑考殿。悪霊や怨霊に、ただの剣術が通じるとお思いか?……ハノメが言うには神の力が備わっていなければ……つまりは、神通力に似た力が備わっていないと悪霊たちには通じないのだろう」
せっかく提案を出してもらった伯邑考さんには申し訳無いもののどうかその剣術は自分や大切な人たちを守るために使ってあげてください。
「神通力、ですか」
「ああ。……人間ではあるが、一人……普通の人間にはあり得ないであろう、並みの力ではないモノを持っている人物に心当たりがある」
「おや、そのような人物がこの国におられましたかな?」
「……一応、な。だが、少し変わり者で今も何処ぞの山に籠もって鍛錬でもおこなっているのだろう」
変わり、者?そして太公望さんの知り合いっぽいなあ。一体、どんな人なんだろう。その人は、人間らしいけれど、神通力に似た力があるらしい。……もしかして、めちゃくちゃ筋肉マッチョな人間だったりするんだろうか……。
「た、太公望さん?その人は一体……」
「ん?会えば分かる」
えー、そんなアバウトな……せめて名前とか、見た目とか教えてくれても良いのに。だって広場とか大通りとかでバッタリ顔を合わすかもしれないじゃない。そのとき、気が付かずにスルーしてしまっていたら勿体無いじゃないですか。
「せめて名前だけでも……」
「はぁ……名は、黄天化だ。見た目は私や伯邑考殿とそう変わらん年齢。もともと武に長けていた家系の息子だが、人間離れしている故、神通力を秘めているのではと噂されている好青年だ」
黄天化。……やっぱり、聞いたことあるじゃん!彼もコッチ側にいるんだ!
「戦う術を習うならヤツが一番適格だろう」
「天化殿は悪霊との戦闘経験があるのですか?」
そこだ。私が気にしているところは。いくら運動神経が良くて、武力が長けていても悪霊とは戦えないとなればお話しにならない。
「有るから話に挙げている。他にも妙な術を使う者はいるが手っ取り早く戦いに慣れるなら天化が良いだろう」
うーん……その、妙な術の使い手の方が、神には近いんじゃないのかな?その天化さんの武力というものを目にしたことが無いからどうとも言えないのだけれどどっちかって言ったら黄天化の実力って純粋なフィジカルっぽい感じが……これは完全な私のイメージなのだけれど。
「彼は、今はどちらに?」
姫昌さんがたずねるものの途端に渋い顔付きになってしまったのは太公望さん。えーっと……変わり者だったって話だったっけ?もしかして、所在が掴めないとかなのかな。
「……」
「た、太公望さん?」
無言になってしまったので話し掛けるとじろりと鋭い目付きで返されてしまうから、もしかしたら私の予想は当たっているのかもしれない。
取り敢えず凄い力を持っていそうな人は、いる。だけれど、その居場所が知れない……ってこと!?そ、そんなのどうやって探すの!?呼べば来てくれるとか……って、そんなバカなこと出来ないよね!?
「えーっと……鍛錬から、いつ戻ってくるかってことは分かっているんでしょうか?」
「……分からん」
「はぁ!?」
「困りましたね。……父上、彼の居場所を占いで調べることは出来ないのですか?」
「さて。どうだろうか……」
「恐らくだが分からんぞ。私も昔試してみたことがあるが、ヤツの気は何故か占いに現れない」
不思議な気、にでも守られているのか占いに出ない秘密のオーラ的なモノにでも包まれているのか、少し謎な人物っぽいな。黄天化と言えば太公望さんの仲間としてそこそこ有名だったはずの人物。最期?……えーっと、どうだったかな。さすがにそこまで読みふけっていたわけじゃないから何とも……でも、仲間だってことには変わらなかったはず!
さて、彼をどうやって探すべきか……彼の好きなモノで吊る、とか?そんな子どものような手に引っかかるかとバカにされるかもしれないけれど、好きなモノ・興味のあるモノで注意を引かすのはいつの時代でもそう変わった方法では無いはず。
「鍛錬がお好きなのですよね?でしたら、ハノメさんも山に入ってみては?」
「え、山に……ですか?」
「おいおい。この娘は、まだ戦う術が無いんだぞ?猛獣の檻の中に生身の人間を放り込むようなことをする気か?」
「悪霊や怨霊に襲われている民がいれば、さすがの天化殿も見て見ぬフリはせぬのではありませんか?少々危険が伴うかもしれませんが、方法の一つとして考えてみるのも有りかと」
伯邑考さん!?意外と末恐ろしい発言をするのですね!それ、自分がその立場だってことをちゃんと考えているのでしょうか!?
「ふむ。……おい、娘。危なくなったらとにかく逃げろ。取り敢えず身の危険を感じたら逃げろ。それでも良いなら山に連れて行く」
どうしたものか……。山、でしょ?いやいや、悪霊とか怨霊ばかりじゃなくて、普通に獣とか出るんじゃないの!?安全な山……だったりするのかな。
「……わ、私は……い、行ってみても良いかなとは思いますけれど……」
確か、悪霊や怨霊が出る前ってゾワッとした背筋が震えるような嫌な気配があったんだった。それがあれば、すぐにでも逃げられるかも……。
「私も一応同行する。が、私には特別な術など使えんことは知っておけよ?」
あ、良かった。一人で行かされるものだとばかり思っていたから太公望さんも同行してくれると聞いて安堵した。だって一人だと何も無くても心細くなるじゃない?話相手もいないって、つまらないじゃん。つ、つまらないって言うのも失礼かもしれないけれど誰かがいてくれる安心感っていうのはあるよね。
「万が一、何か起こりそうならすぐに言いますから。……に、逃げることに集中しましょうね」
姫昌さんは改めて占いをしているみたいだが、やはり黄天化さんの居場所ははっきりと読み取ることができなかったらしい。彼に何があるのだろうか。……神通力のようなモノがあったとして、それって占いの結果に左右されるようなものだったりするんだろうか。
一度、きちんと会ってみないと。そして話が通じる相手なら戦う方法を教えてもらえるように頼まないと。……それが出来る相手なら、良いんだけれどなあ。
なーんか、太公望さんの言葉を汲み取ると『自由人』って感じがしないでもない。変わり者って一言では言えるけれど、何がどう変わり者なの?性格だろうか……。まあ、性格になるんだろうけれど……。
太公望さんも武そのものはあまり得意では無いらしく、姫昌さんから預かった短刀の類だけを衣類の内側に入れ、山へと向かって行った。目的は、黄天化さんに会うためだ。これから向かう山にいてもらいたい。いなければいなくても良い。ただ、そのときには安全に太公望さんにも何も起こらずに姫昌さんや伯邑考さんが待つここへ戻って来られればそれで良い。
簡単な旅支度(旅支度と言っても念のために軽食といったものを詰め込んだだけ)を済ませると太公望さんと一緒になって山へと登って行った。
名前は出ましたが、一体どのような人物になるのか!?
早く会ってみたいものですね!!
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