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23 イケメンの伯邑考

 あの時、……私に語り掛けて来てくれたのは一体誰だったんだろう?

 子ども……のような声じゃなかった気がする。

 とても大人の落ち着いた声。

 湯殿に放り込まれた私は、自分の体が相当に冷え込んでいることに気が付いた。私の体にぴたりと張り付いている巫女装束を脱ぐだけでも苦労したし、ホカホカな温かな湯をゆっくりと体に掛けていくととても熱く感じたのはそれだけ体が冷たくなっていたってことの証。それでも何度か湯を体に慣らし、湯が溜まっている湯船にゆっくりと体を沈めていくと温かなお湯についつい溜め息を吐いてしまった。こんなにゆっくりとお湯に浸かるなんて久しぶりな気がする。それに、時間を忘れるかのように何も余計な事を考えずにただただお湯を楽しむことも久しぶりだった。


「あったか~い。お風呂だから当たり前か。でも、なんだか頭も心もスッキリしたなあ」


 さきほど滝でおこなった禊とやらは一応、成功したということだろうか。


 でも、ちょっとだけ川の表面が凍っているのを見たときには目を疑ってしまった。太公望さんの仕業じゃないってことは私がした……ってことになるんだよね。じゃあ、私の力が目覚めたってこと?


「…………何も、起こらない?」


 カグツチさんのように手元に集中してみようとするものの、湯船が変化する様子は見られない。ヒルコさんのように拳が光るのか……とも思っていたけれど、それらしい光は見られない。……もしかして、さっき川の水がちょこっとだけ凍ったのは偶然の産物とかだったっていうことだろうか。

 それでも、やっぱり私には不思議な力っていうのがあったらしい!それが分かっただけでも気持ち的には凄い支えになった。コレがあれば、この力をきちんと使えるようになれれば悪霊だって怨霊だって怖くなくなる!?もしかして、世のバランスを整えて、平穏な世にすることもそう遠くないことなのかも!?


「……っと、上がらなきゃ。また覗かれたら大変だもんね」


 不思議な庭園の屋敷の中で湯浴みをしているところをカグツチさんにバッチリ見られたときにはそれはそれはビックリしたものだった。だって異性が湯浴みをしているんだよ!?そんなところに堂々と覗きにやって来るとか信じられないでしょう!?……後から、私がぶっ倒れているんじゃないかって心配している様子だったらしいけれど、それにしたって一声掛けてくれても良いと思うんだよね。


 温かな湯船から上がるのは名残惜しく感じながらも着替え……あれ、そう言えば私……これから何に着替えれば良いんだろう。元々着ていた巫女装束はびっしょりと濡れたままだ。

 気は進まない。絶対に普段ならこんなことはしないのだけれど……そーっと湯殿と廊下を隔てている戸を開けて顔だけひょこっと外に出すと湯殿から少し離れた壁に背を預けている太公望さんがいたものだから思い切って声を掛けることにした。


「た、太公望さん!太公望さん!」


「…………なんだ」


「あの、着替えはどうすれば……」


「あ。忘れていた。適当に用意してくるから、もう少し待て」


 何か考え事でもしていたのか私が声を掛けてもすぐに反応してくれず、顔はじっと廊下に向けられていたし私の声が届いてもこちらを確認するまでだいぶ時間が掛かっていたように思えた。……もしかして、先ほどの超自然現象なるモノを目にしてしまって(川の表面が凍り付いたこと)私を異常なモノとしてこれからどう処分しようか、とか考えていたんじゃないだろうか。


「……おや?このような時間に。どうなされましたか?」


 太公望さんが去って行った方向とは別の……つまり、逆の方から声を掛けられてしまって私はびっくりしながら顔だけを向けると(湯上り状態、つまり体はすっぽんぽんの状態なので、とても人様に見せられるわけにはいかなかったため)そこには、美丈夫が!えっと、現代風に言うならばこれぞイケメン代表!っていう感じの男性が。整った顔立ち、黒い髪はウルフカットのようにも見えて後ろ髪は少しだけ長め。その髪型からカグツチさんを思い出させるものの雰囲気は全然こちらの男性の方が落ち着いている。太公望さんと同い歳ぐらいだろうか、それとももうちょい上だろうか。なににしても素敵なイケメンに私は目を丸くするばかり。


「?どうかされましたか?」


「ハッ!す、すみません!えっと、湯浴みをしていたのですが、着替えを忘れてしまっていて……その、太公望さんに着替えを持って来てもらうのを待っていたところだったんです」


 なんか、言っていて自分でも間抜けかも(着替えも用意せずに湯浴みをするなんて)……と思っていたが、目の前のイケメンさんは私の言葉を耳にすると『そうでしたか』とニコリと優しく微笑んでくれた。おおーっ!イケメンは笑う姿もイケメンだった!あれ、でも、ここにいるってことは姫昌さん、もしくは太公望さんの知り合い……だよね。こんなイケメン……誰だろう。


「……ハノメ。これで良いか……っと、これはこれは伯邑考はくゆうこう殿。如何なされた?」


「いえいえ。こちらの女性が顔だけを出しているので何事かと思ったのですよ。ふふっ、太公望殿のお知り合いでしたか」


 ……伯邑考はくゆうこう?太公望は、確かに伯邑考って言ったよね。それって姫昌さんの息子だったような……それに、とある歴史とか漫画とかの話では可哀想な最後を迎えていたような気が……その人が、目の前に。そして太公望さんと話をしている。い、生きているんだ!この世界では!!


 思わず、ずるずるーっと座り込んでしまった私。しかも、両目からはボロボロと涙が溢れてしばらく止まらなかった。急に座り込み、静かに涙ばかりを流しまくる私に太公望さんも伯邑考さんも驚いていたものの私が泣き止むまで二人はただ静かに見守ってくれていたみたい。


 太公望さんが用意してくれたのは、全体的に体のラインは隠れてしまうようなゆったりとした服。そしてズボン……と思われるのだけれど、これまた裾が長くて、どうしたって歩くときには廊下を引きずってしまうような長いモノ。下着は取り敢えず自分のモノを身に付けると見様見真似で着込んでいけば見た目は太公望さんや伯邑考さんと似たような見た目になった。……この世界、というかここに住んでいる人たちの衣類というものはこういうゆったりとしたサイズの衣類が主なモノなのだろうか。あぁ、そうそう。髪の両サイドを止めている猫をモチーフにしたヘアピンは忘れずに。長い髪の毛も太公望さんみたく結ったり、縛ったりした方が良いのかな。でもヘアゴムとか、シュシュとかそういうものってこの時代にあったりするんだろうか。


 太公望さんが私を連れてそのまま姫昌さんの元へと向かうというので伯邑考さんも同行することになってしまった。決して太公望さんもブサイクってわけじゃない。見た目ならクールっぽいイケメン枠。えーっと、ここは日本では無いのだけれど銀色の髪を結って肩から流している様はちょっとこの世のモノでは無い感じがしていて、それこそ神に近い存在なんじゃないかと思うのだけれど今のところ話を聞いているなかでは特別な力や術などは持っていないらしい。銀髪なんて、日本人離れし過ぎていて珍しいよね?鋭い目付き、クールなところもあるけれど変なところで子どもっぽい感じも見られる太公望さんとイケメン伯邑考さんの後を追う私……私だけ、ちょっと場違いだよね、これ。なんかお二人のファンだとかお二人に憧れている女性からすれば羨ましいのかもしれないけれど今だけはごめんなさい!と言うことしかできない。

 それにしても伯邑考さんなんてビックリな人物の登場に私の頭の中はいろいろな事がぐるぐるとまわっていた。この時代って、確か……何処ぞの王様が好き勝手やっていて(確かめちゃくちゃ美人のお姫様がいろいろな意味で凄いことをしていて)国が荒れて、この周辺りで王が生まれて王様をやっつけたってことになっていなかったっけ?でも、途中で伯邑考さんは死んじゃったっていう話があったような……あれ、それだと今の時代はそこまで荒れている時代にはなっていないってこと?でも、太公望さんはここにいるよね。……もうちょっとちゃんと歴史漫画を見ておくんだったーっ!!

 姫昌繋がりで、伯邑考はくゆうこう登場!えーっと……いろいろ可哀想なエピソードは調べていただけると分かるのですが……それはそれは惨い亡くなり方をされた人物です。思い出したら私も泣けてきそうになりました。どうしても過去の人物は歴史や史実的に見た目がどうこうって調べていくと難しいのですが、もちろんイケメンとして登場!姫昌周り、もしくは太公望周りの人物は登場することが多くなると思います。伯邑考は何が得意なんでしょうね!?イケメンだよ!何をしても様になるはず!!


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