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21 滝へ

 私が出会った呂望さんこと……太公望さん。

 そして、姫昌さん。

 お二人はそれなりに占いができるらしい……だったら、私の未来を……これからどうすべきかのアドバイスを教えてほしかった。

「神たちの世界、ですか。それはそれは……ハノメさんは凄い所からいらっしゃったようですなぁ」


「……この娘の言葉を信じるのか?」


「ここまでの嘘物語を述べたと?そんな芸当が出来るのであればそれは素晴らしい作家になるでしょうなぁ」


 そう言う姫昌さんは穏やかな表情で『ははは』と笑いながらも私の言葉を信じているのか正直なところ、よく分からなかったけれどそれでもからかったりするようなことはしてこなかった。


「まったく。……穏やかなんだか、ちゃらんぽらんなんだか……」


 思い切って私の身に起きたことを話した。いや、話すことしかできなかった。だって、私だって未だに自分に神の力があるのか、そんな素質があるのかだなんて信じられなかったから。取り敢えず見聞きしたことを目の前の二人に言うことしかできなかった。

 姫昌さんというイケオジ様の方は、私の言うことを意外にもすんなりと信じてくれている派のようで、『なかなかに聞くことができない話ですからなぁ』と感心している。神様という存在そのものにも感動しているのかもしれない。でも、その反面。太公望さんはと言うと……。


「その顔を見れば何かあるな、とは思っていたが……では、どうすると言うのだ?貴殿は。下手をすればこの国に災厄を招くことにも繋がるかもしれんのだぞ」


 最初に感じた紳士的な優しさというものは何処へやら、眉を顰め難しい顔をしながら腕を組んで顔を伏せては姫昌さんを見上げ、そしてまた顔を伏せて……と繰り返していた。これが太公望さんなりに考え事をしている癖なのかもしれない。


「先ほどから言われている相っていうのは……?」


「おや、あまり占いにはお詳しくは無さそうですかな?人相とは……手相のように手のひらを見ればその人の人生が分かるように顔にもどのようなことが起きるのか、というものが分かるものなのですよ」


「……娘の人相には、災厄しか見えん。つまり、この娘が災厄そのものを引き寄せているようなものだ」


「太公望殿」


 姫昌さんが太公望さんの言葉を止めようと声を掛けようとするが、太公望さんは止まることは無く、そのまま言葉を続けていく。


「ここまでの相は見たことが無い。娘がいる場所では次から次にと災厄が降りかかるであろう……と顔に出ているのだよ」


「私が、災厄を……?」


 私が?だって、双子ちゃんは私には神の素質があるって言っていたじゃない。だからあの素敵な庭園に行けることができていたんだって。それなのに、私が神様どころか、災厄そのもの……?それって……。


「わ、私は……し、死んだ方が良いんでしょうか……」


 思わず言葉が震えた。ぶるぶると震える手はぎゅっと巫女装束をぎゅっと握りしめることで震えを少しでも誤魔化していたつもりだったのだけれど、きっとこの二人には私が動揺していることなんてお見通しだったのかもしれない。


「ハノメさん。死ぬ、だなんてそのような言葉は口にしないでいただきたい。まだあなたのような年頃の、未来が長い若者がそうそう使って良い言葉ではありませんぞ」


「で、でも……」


「確かに。そこまで災厄の相が出ているとすれば仮に娘が死んだとしても後の世が平和になるとは限らないだろう。最悪の場合、永遠に止むことのない災厄がおとずれかねん」


 では、どうしろと言うんだ。

 最初は神様なんて、神なんてなれないかもしれないと思っていた。だって力が全然出ないんだもん。そうしたらワケの分からない幻聴に苦しむハメになってしまって、みんなとは離れ離れになってしまうし、私の未来を読み取れる人に出会ったものは良いものの私が災厄そのもの!?そんなの、どうやってこの先生きていけば良いっていうのよ。


「娘、途中話にあがっていた幻聴というものはどういったものだ?」


「……誰もいないはずの場所で、こう頭に直接入れられてくるような声で……そこからしばらく手足も口から出てくる言葉も自分ではどうにもならなくて……」


「ふむ。……そういった他者を操る術を持つ者に心当たりが無いというわけではないが、娘はここら辺の出身ではないのだろう?」


「えーっと……日本って言うのが正しいのか……ここより、もっと東にある島国です」


「ほほぉ、それはそれは長旅だったようですなぁ」


「姫昌殿……貴殿は、少し黙っていてもらえないだろうか。話が進まん」


 姫昌という人は、おっとりとしているのか、穏やかなのか常にのほほんという感じで私と太公望さんの話に耳を傾けていた。それはそれは楽しそうに、でもしっかりと話を聞いているらしい。


「ここは、周という国にあたる。とても海を越えて娘一人が来られる場所では無いだろう。その双子の神といったか……その双子の神たちの名は俺も耳にしたことがある。それはそれは大きな力を持っていて、万能の力を世にもたらすことができるとか……」


「……ただ、双子ちゃんは、この世のバランスが崩れてしまっているとかで子どもの姿になってしまっています。神たちの行く先へと道を開くことができるだけで万能の力なんて……」


「子ども?」


「はい。十歳にも満たないぐらいの容姿をしていましたよ」


 はっきりと何歳とは言い表せなかったものの、あのぐらいの背格好だとせいぜいそれぐらいだろうか。でも、他の神様から言わせるととーっても長生きしていそうな感じの口ぶりをしていたような……。


「あぁ、この世界のせいか。……その双子とやらは娘からすれば想像もつかんかもしれないが世界の創造主的な存在だ。本来ならば大人の姿をしているはず」


 信じられなかった。あの双子ちゃんがこの世界をつくった!?つまり、双子ちゃんが死んじゃったりしたら……それこそこの世界は壊れちゃうかもしれないってこと?

 呆然とするしかなかった私に太公望さんはなおも私に話かけてくる。


「まずは、娘のその相を何とかしなければな。……よし。娘、立て。上手くいくか分からんが、禊に似たことをしてもらう」


「え」


 た、確か禊っていうのは心身に痛い思いをするっていうものじゃ……。

 途端に顔色を悪くしていく私に、太公望さんはニヤリとした悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「何も死ぬってものではない。それに、そのままでいればそれこそ娘の行く先行く先が災厄に脅かされるかもしれん。それを防ぐ意味もあるのだぞ」


「……っ……分かりました」


 一度、ぎゅっと目を瞑り、私がちょっとの痛みを堪えれば世の中は少しでも安寧に繋がっていける!太公望さんを信じよう!と自分自身に言い聞かせると目を開けて太公望さんの顔をしっかりと見た。


「よし。……姫昌殿。裏の滝を少々使わせていただくゆえ、人払いを頼む」


「かしこまりました。お二人とも、どうかお気を付けてくださいね」


 太公望さんは小部屋を出て行くと王城ではなく、横に逸れた林道のような道をずんずんと歩いて行く。歩き慣れない道に戸惑いながら太公望さんの姿を見失わないようにしっかりと私も歩を進めていくと、次第に水音が聞こえてきた。それはどんどん先を行けば行くほどに大きくなっていって……。


「……滝……」


 こういう状況でもなければ気持ち良い!とでも大喜びしていたのかもしれない。でも、これからおこなうのは禊というもの。心身にツラい痛みが待っているだろうから気合いを入れなければ。


「……では、川の中へ。それは着たままで構わん」


「は、はい……うっ……冷たい……」


 川の水の冷たさに、別の意味で体が震え始めるが『何を当たり前なことを』と呆れている太公望さんに、もっと滝のそばへ……と促される。

 ザブザブと水音を立てながら上から下へと落ちてくる見事な滝の大きさに圧倒されながら滝の元へ。


「……では、そのまま体を仰向けにして水に体を浮かべよ。決してうつ伏せになるなよ、溺れる」


 体の力をなるべく抜いて、深呼吸。そして、私はゆっくりと体をザザーッと滝の音が響く滝の下の近くで仰向け状態になってぷかぷかと浮かべていった。ちらりと太公望さんを見ると私の様子をしっかりと見ているらしく、岩場から眺めているがその目は真剣で見下ろしている。


「準備が出来たら瞑想をしろ。自分の体から悪いモノを払い除けるイメージを持て。今、娘の体の中には邪気が溜まっている。それを少しずつ体の外へ、水の流れに沿って流し出すように強くイメージしろ」


 悪いモノを外へ……とにかく、外へ……。

 途中、ビリッと電気でも走ったかのような感覚に襲われたものの『続けろ』と太公望さんの声が聞こえたので、意識を集中しながら水の流れに沿うように体の中の悪いモノを、外へ……外へと流れ出るようにイメージを続けていった。

 さっすが太公望さん!なかなかに、いろいろな事を思いついてくれる!!あ、姫昌さんはごくごく普通の人間です。ちょーっとばかし占いができるイケオジ様です。太公望さんは……詳細は、これからのお楽しみっていうことで(苦笑)


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