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17 私は、帰れない?

 私が穢れにあたられて状態が悪くなってしまったのは私がまだ力に目覚めていないという理由もあるのだろう。つまり、穢れに対しての抵抗力とかが無いのかもしれない。

 力を使えるようにしたい……でも、どうすれば……。

 全部を食べることができなかった食事だけれど、それに対しては誰も文句を言ってくることは無かった。そして、私たちはそれぞれにあてがわれた部屋に移動すると、既に敷かれている布団に入って休むことになってしまった。特に、私は……。


『『いくら、穢れが薄まったからといっても無理は禁物です。なので、今日は……各々の部屋でゆっくりとお休みくださいませ』』


 双子ちゃんが必死になって頭を下げてまで言ってくるものだから、反論する人なんて誰もいなかった。この庭園にいると時間の感覚っていうものもおかしくなってしまうんだけれど……今は外界で言うところの何時ぐらいになるんだろうか。なんだか、この庭園は不思議なもので、ずーっと昼間が続いているみたい。朝でもなく、夜でもない。一番、気持ちが良くて過ごしやすい昼間の気候がずっと続いている。朝だとか夜だとかっていう概念みたいなものはここには無いんだろうか。本当に不思議なところだなあ。


「……寝て休んでくれって言われても……外がこんなに明るいとなあ……なかなか寝付けないような気がするんだけれど……」


 布団のかたわらには、いつでも好きなタイミングでお茶が飲めるようにお茶一式がお盆に乗せられて準備されているし、お湯の用意もばっちりされているみたい。

 布団をそっと触ってみると、とてもふかふかで寝転がったりしたらとても気持ち良く、良い夢だって見ることができそうだ。ただ、まだ寝るには早いかなと考えてからそっと自分の部屋から出ると、縁側になっているのでお茶を乗せたお盆をかたわらに置きながら、ずっと昼間が続いている庭園の空を見上げていた。

 近くの柱に体を凭れ掛かりながら、ぼーっと空を見上げた。何も考えることなく、ぼんやりと過ごせたら幸せかもしれないけれど、今の私には考えなくちゃいけないことがたくさんある。まずは、自分の力のこと。どうすれば力を使えるようになれるのか……それは、どんなことができるようになるのか。力を使えるようになるためには、何かきっかけのようなものでも必要になるんじゃないかといろいろと考え出したらキリが無かった。


「……考えるなって言う方が無理あるでしょ。どうしたって気になっちゃうよ」


 お茶は淹れたものの、口にするより、お茶から良い匂いが漂ってくるのでそれを嗅覚で味わうことの方が、今はそれでじゅうぶんだと考えていた。


「先代の人は、どうやって力に目覚めたんだろう……私のように、悩んだりするようなことにはならなかったんだろうか」


 出会いたくでも出会うことができない人にそんなことを聞いても分からないかもしれないけれど……やっぱり、足を運んだ集落のことを思い出してしまう。今回、悪霊や怨霊だけが人々の生活に害をなしているわけじゃないってことは分かった。でも、私が今この瞬間に力が目覚めたとして、人々の生活はすぐに良くなっていくことに繋がるんだろうか……。女性のツラそうな声……もちろん亡くしてしまった子どもが蘇ったりするようなことは無いだろう。世が良くなったら女性も前向きになって生きていくことができるんだろうか……。


「……失ったものは、元には戻らないもんね……」


 そんなの、どの時代においても、どの世界においても同じことだろう。だったら、少しでも良い世の中にしないと。それだけは考えているのに……どうして、私の力は目覚めないの!?ここにいるのに、双子ちゃんは、ここにいるなら素質はあるって言っていた。それなのに、私はいつまで待てば良いの!?焦るなって言ったって、焦っちゃうよ。どうにかしたいって思うのは当たり前なのに、その力が無いから……どうすればいいか、どうするのが良いのかって考えてしまう。


「……おや。ハノメさんも寝付けなかったようですね」


 顔を上げるとそこにはドグジンさんが立っていて、柔らかな笑みで私のことを見下ろしていた。


「お隣、よろしいでしょうか」


「は、はい……」


 お茶の乗ったお盆を逆に片付けるとドグジンさんは私の隣へと座ってきた。ドグジンさんはしばらくの間、何も言わずに私の隣にいてくれた。ドグジンさんは神様の中でも大人っぽい人だから私をからかったり、冗談なんかを不必要なまでに言ったりするような人ではなさそう。


「……ここは、不思議ですね。いつ起きようが、いつ寝ても……空は、明るくて昼間がずっと続いている空間なんです」


「……朝と夜が来ないのも、少しだけ寂しい気がしますね」


「あぁ、確かに。神になってからは朝や夜の時間の変化、気候の変化というものにはあまり気にしなくなってしまったものでしたが、ハノメさんからするとずっと昼間であることには違和感しか抱かないのかもしれませんね」


 そう言われてみれば……私以外の神様たちは神になってから月日というものは長いんだろうか。そこそこに長いとすると、ここの庭園や屋敷で過ごす時間もそれなりに多いというわけで、朝の気持ち良さとか夜に見られる星の美しさというものを忘れてしまっているのかもしれない。昼間は、太陽ばかりが見えてしまうばかりで、朝のちょっと冷たい空気とかも……今は感じることができないんだろう。


「私も、いつかは、この庭園での生活に慣れてきてしまうんでしょうね」


「そうですね。神の素質があるハノメさんはここに来てしまった。そして神として過ごしていけば、ここで過ごしていくことが神であるルールのようなものになりますから」


 神……そもそも、なんで私は、そんなものに選ばれてしまったんだろう。素質とか……双子ちゃんはあるって言っているけれど、本当に私にそんなもの持っているのかな?この庭園に来られているのがその証拠だって言っていたことも覚えているけれど、それだと普通の人間はここにはたどり着くことができないってことなのかな。

 でも、神になっちゃえば、今までの生活からガラリと変わってしまうんだ……。あれ、そうしたら外界に、元の世界には戻れなくなっちゃうってこと?双子ちゃんは、世のバランスが整えられるようになれば戻してくれるって言ってなかったっけ?


「あの、ドグジンさん……私って、世の中のバランスが良くなったら……元の世界に戻してもらうことって……」


「ハノメさんが神となったら……おツライでしょうが、ここから元の世界に戻るということは難しくなってしまうのではないでしょうか。あなたがいなくなれば、また世のバランスは崩れてしまうでしょうし……そうなれば、また新たな神を探さなければならなくなってしまいますからね」


 え。そうなの……?私、もう学校にも、家にも帰れないの?お祖母ちゃんの話ももう聞けないの……?


「わ、私……か、帰りたいです……ずっと、ここになんて……暮らしていくなんて、無理……です」


「ハノメさん……」


「だって、私はこの世界の住人じゃないんですよ!?それに、今は完全に神にだってなれていない……もし、双子ちゃんにお願いすれば元の世界に戻してもらえるんじゃ……」


「ハノメさん!」


 帰れなくなる、と聞いた途端に、ここには長居したくないと思ってしまった。この世界なんてどうでも良いとさえ考えてしまった。それは、この世界で生きている人たちにとってはいけない考えなのかもしれないけれど、それでも私にだって生活というものがある!もし、帰れるのならば帰りたいよ!!


「……っ……こんなことになるなら……私、あの日も……神社なんかに、行かなきゃ良かった……神社に立ち寄らなくて学校にそのまま行っちゃえば良かった……」


 私は顔を伏せながら神社に立ち寄った自分を悔いた。いくらお祖母ちゃんに言われたことだとしても無視してしまえば良かったんだ……そうだよ。そうすれば良かったんだよ……でも、今言っても遅いんだよね……。

 一人になるとやっぱり良くないことばかりを考えてしまうのは誰でもそうかもしれませんね。だから、誰かがそばにいてあげないと。でも、ドグジンは大人な神。神としても過ごしてきている期間が長いですからいろいろと割り切っているのかもしれません……難しいですね、主人公の気持ち……。


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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