13 穢れ
私にも、自分に何が起きたのか分からなかった。
ただ、双子ちゃんたちが言うには、帰ってきた状態の私には良くないモノがついていたらしい……。
池から上がった私は、もちろん濡れたその恰好のままでいるわけにはいかなかったので、複数の黒子さんたちによって案内された先で、着替えをすることになった。衣服は……神社にいる巫女さんの恰好!髪が完全に乾ききっていなかったので黒子さんたちからはフワフワのタオルを受け取り、みんなが集まっている大木の元へと戻って行った。
途中、私が浸かっていたらしい池が見えたんだけれど、なんていうか……透明じゃなくて、池の水が酷く汚れてしまっているように見えた。私が入って、底にある土でも巻き上げてしまったんだろうか……。でも、その汚れっていうのは土が混ざったような色っていうのとはちょっと違うように見えたんだよね……。なんていうか、墨?を水に落としたような感じに見えた。
『『ハノメ様の体には明らかに穢れが付いておりました。……外界で、危険に遭遇したのですか?』』
穢れ……。穢れってなんなんだろう。でも、やっぱり双子ちゃんたちの顔を見ると、決して良いモノではなさそう。悪い気とか、そういう関係になるんだろうか。
「……いえ、決して怨霊や悪霊と戦闘になったわけではありませんでしたよ」
『『だったら、なぜ!?』』
戦闘は確かにしていない。人のいる集落を見てまわろうってことになって。……土葬されているであろう墓地に足を運んで……それから、それから?それから、私の体、どうなったんだっけ。
「……子どもの泣き声と母親の子を求める声で、頭がいっぱいいっぱいになってしまったんです。頭はガンガンと痛むし、ワケが分からない汗は出てくるし……体は震えて、寒くて……最初は、知らない土地に来て、いろいろと見てしまって精神的に参ってしまったんじゃないかと思ったんですけれど……穢れっていうのは?」
『『穢れは、悪霊や怨霊退治を続けていくと自然と体内に残ってしまうモノですね……。そのままの状態にしておけばハノメ様のように具合を悪くしてしまいます。なので、定期的にここに戻り、心身を癒すことが必要なのですよ』』
私が帰って来たばかりの頃は、双子ちゃんたちは今まで見たこともないような様子で怒っていた。それに神様たちも私のせいで怒られてしまっていて、とても申し訳なく思っていた。
『『ただ、戦闘らしい戦闘もおこなっていないのに、ハノメ様の様子は尋常ではありませんでした。……何か、思い当たることはありませんか?』』
今は、すっかり双子ちゃんは口調も表情も穏やかなものになっているけれど、本当に申し訳ないことをしてしまった……私が、不甲斐ないばかりに……。
「俺たちとフツーに、集落を見てたんだよなぁ?あれ、でもカグツチと先に行ったんだっけか?」
「……別に、そこでも何かあったわけじゃねえよ」
何か……何かって言えば、こういうのってその『何か』に含まれるんだろうか……。
「あの……倒れていた人がいたので、助け起こしたんです。……でも、本当にそれだけのことで……」
「あぁ。確かそんなヤツがいたっけか。別に無事だったんだろ?ソイツ」
「はい。眩暈がしたとかで倒れていたらしいのですがもう大丈夫そうでしたよ」
『『……その、助け起こした人というのは……その集落の人間だったのですか?』』
「……そう、だと思いますけれど……」
世には悪霊や怨霊の類が出ると言われているし、あんな恰好で、女の人が一人であちこちに出掛けられるものだろうか?私たちのような恰好をしていたわけじゃない。あの集落にいた人たちと同じような恰好だった気がするし。
『『はっきり、とは言えないのですが……もしかして、ハノメ様には感応の力が高いのではないかと。……墓地という場所柄、子を失い、親を失った人たちも多いことでしょう。なので、そういう負の感情を目の当たりにしてしまったハノメ様は他人の発する感情といったものに影響されてしまったのでは……』』
「……感応が高いからって、あんな状態にまでなるのか?」
カグツチさんが胡坐をかきながら小難しい顔をして双子ちゃんにたずねる。もちろん双子ちゃんは外界で何があったなんて分からないのだから、憶測でしか語れないところもある。絶対、とは言い切れないものの、私の身には周りからの感情がぶつかり合ってしまって大きなストレスとなり、それが体ガクガク、汗ダラダラ、呼吸もきちんと出来ているのか分からない状態に陥ってしまった……と今のところ一番考えられる案のようだった。
「その場には、私たちも一緒にいたのですが……ハノメさんには影響力が強かった、ということでしょうか」
『『それはじゅうぶん有り得ます。人によっても怖い体験をしたからといって何でもない、すぐに忘れてしまうような人もいるのに対し、いずまでもビクビク怯えて過ごす期間が長くなる……という人もいますからね』』
とは言うが、何処か双子ちゃんも神様たちも納得のいっていない様子みたい。私としては、こちらに来て、一気にストレスが体にあらわれたんじゃないか……とも思えたのだけれど、それは関係無いのかな?
「ま、まあ……と、とにかく無事で……良かったです……」
「ありがとうございます、みなさん。双子ちゃんも」
『『……この場所は、皆さんのための場所ですからね。屋敷もありますし、落ち着いて休みたければお布団に横になっていただいて構いません。もちろん湯浴み、食事の用意もできますから』』
……本当に、外界から戻ってくると夢みたいな場所なんだよなあ。ちょっと現実味が無さすぎて夢の中にいるみたいな気持ちになってしまうけれど、少しだけ頬を摘まんでみれば痛いから、ここにいることだってちゃんとした現実なんだ。
「お!飯!やったー!ほら、ククノチも一緒に食いに行くぞーっ!」
「はひっ、わ、分かりました!行きます、行きます!!」
ヒルコさんは大喜びしてククノチさんの手を引っ張っていきながら庭園から少し離れたところにある屋敷へと向かって行った。
『『……ハノメ様。もう一度お聞きして申し訳ないのですが、ハノメ様が助け起こした方というのは……どんな方だったのでしょうか?』』
「えーっと……ごくごく普通の女性だったかと、思いますけれど……」
『『悪霊……いえ、怨霊が人の姿をしていたモノ、というわけではないのですよね?』』
「しつけえな。……俺だって見たし、怨霊の類じゃなかったっつーの。だいたい、そんなモンなら、なんでわざわざ倒れていたんだよ?」
『『単に怨霊たちが強くなるというのは、力だけではありません。頭脳も高くなり、時には卑劣な真似をしてくることもあるとされています』』
怨霊……あの、人が怨霊?まさか……でも……帰ってくる途中に、見えた……聞こえたあの人の言葉は、気のせいだったんだろうか……それとも、ワケが分からない状態になってしまっていた私が見た幻覚とか幻聴の類だったんだろうか。
「……あの、私の聞き間違いかもしれないんですけれど……こちらに戻る途中、その女の人の姿が見えた気がしたんです。それで……『逃がさない』って……言われた気がしたんですけれど、やっぱり私の見間違いか何かですよね……」
苦笑いまじりに私がそう言うものの双子ちゃん、そしてカグツチさんとドグジンさんから視線を集めてしまった。え、何か……変なことでも言ってしまったんだろうか……。
「お前、ここに来るまで意識あったのかよ!?」
「意識っていうか、えっと、たぶん見間違いだと思います。かなり、距離的には離れていたし……それでも、そう言われたような気がしてしまって……あはは、私も疲れているのかもしれませんね……」
『『女性……だったのは、間違い無いのですか?』』
「はい」
双子ちゃんは二人揃って片手を口元に添えながら何かを考え始めてしまうし、ドグジンさんは腕組みをしながら『う~ん』と唸り、カグツチさんは疲れを口にする私をじっと見つめていた。
庭園ばかりにどうしても目がいってしまうかもしれませんが、人間と同じ生活ができるように屋敷があり、きちんと食事や風呂に入ることもできます!!ふふん、これも双子ちゃんがいるから!!
なにやら、怪しげな雰囲気……かな?
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