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12 異変

 人間たちの住まう集落へとやってきた、私たち五人。

 とても人が住めるような所じゃなかった。

 とても目に入れられるような光景じゃなかった……でも、それでも暮らしているんだよね。

 集落をざっと見て回ると最後に足を運んだのは……今にも枯れそうな……それでもしっかりと根を張り続けようとしている大木。その大木の元には、いくつもの土葬されたであろう土が盛られている場所と墓石と思わしき石がいくつも置かれていた。きっと、この集落で亡くなった人たちは、ここに埋葬されているんだろう。……それにしても、凄い数だ。石の数が多い割には、土葬されている箇所が小さいような……?


「……ふむ。……こちらには、幼子……子どもたちが土葬されたようですね……」


「子ども……」


 おもむろに地面に軽く手を触れたドグジンさんが手元に集中すると、悲しそうに口を開いた。

 子どもと聞くと土葬されて盛られている土も小さい理由が分かった。体が小さいから。それに、栄養が足りず、満足に食事することが困難になっているのであれば一般的な子どもよりも小さく、細かったのだろう。私は、静かに手を合わせることしかできなかった。『どうか、静かにお眠りください。そして次に生まれてくるまでには世を安全に、健康に過ごせる世にしてみせます』と誓った。すると、私以外の神様たちも思うところがあったのか、静かに目を閉じ……ここに眠る子どもたちを見守っているように感じた。


「……さて、移動しましょうか。長く同じ場所にいるのは、あまりお勧めしませんからね」


「はい……」


 大木の近くから去ろうとしたときだった、何処からともなく小石が飛んできたのは。足元にコロン、コロン、と。


「なんだぁ?」


 小石が飛んでくる方向に顔を向けると集落の住人らしき人たちが集まって私たちを遠くから見ている。誰もかれもが栄養不足でやせ細って見える。でも、その顔には私たちに向けて、怒りのようなものを感じた。


「……アンタら、何者じゃ……そこには近付かないでくれ……」

「わ、私の子どもが!私の子どもがぁ!!」

「落ち着け!あの子は、いない!死んだんだろうが!」


 悲痛な声が、心に響く。

 子どもが生まれても、世の中がこんな様子じゃ……きっと、生まれてすぐに亡くなってしまうという子もいたのだろう。なかには、子どもの幻覚でも見ているのか必死に空中に腕を伸ばして叫んでいる女性もいるようだが、それを必死に押さえている男性の姿もある。胸が苦しい……まるで、子を失った女性の気持ちが直接頭の中に響いてくるかのようで子が母を求めて必死に泣く声と、母親の苦しむ声が一緒になった声が一緒になって頭の中に響き渡る。


「……ぐ、ぅ……っ」


「ハノメさん?」


 思わず頭を押さえながらその場にしゃがみ込んでしまうと、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように必死になって酸素を求めた。あれ、呼吸ってそもそもどうやってやるんだったっけ。分からない……分からない……ワカラナイ……だ、誰か……っ、胸が苦しい……頭も痛い……!


「ハノメ!」


 ゼェゼェヒューヒュー、とおかしな呼吸をしている私に尋常じゃない様子だと思ったヒルコさんが私の肩を支えつつ、急いでその場から離れるために足を早めた。墓地から一歩一歩と遠ざかっているのに、いつまでも子どもたちの泣き声が頭の中から離れてくれない。そして、子を求める母親の声も消えてくれない。ずっとずっと頭の中で反響していて、頭がガンガンする……。


「ハァッ、ハァッ……あ、頭が……っ……」


「頭?」


 じっとりと嫌な汗が額に浮かぶ。制服の袖で拭っても拭っても、じとりと浮かぶ汗が頬を伝い、ぽたぽたと地面に落ちていくのに、何故だか背筋は寒くて、今にも凍えてしまうんじゃないかと思うぐらいに寒くて……ぶるぶると震え始めてしまった。


「チッ……。おい、貸せ!」


 ガクガクしているのは、私の膝だろうか、それとも全身が震えているのか分からないぐらいに震え出した体を、片腕で抱っこしてくれたのはカグツチさんだった。いきなり体が空中に持ち上げられてもガクガクと震える体は止まってくれない。


「双子!今すぐに道を開けろ!」


 カグツチさんが双子ちゃんに向かって声をかける。もちろん双子ちゃんは目に見えるような場所にはいないから何も無い空中に向かって叫んでいるんだけれど、ゼェゼェヒューヒューと、おかしな呼吸を繰り返すばかりで、まともな言葉を一つも出すことができなかった。


 眩しい光が見えると、私を抱っこしたままのカグツチさんがその中に向かって足を進めていく。もちろん他の神様たちも。でも、そのずっと奥……ずっとずっと遠くに、女性の姿が見えた。アレは、先ほど倒れていた女性ではないだろうか。眩暈を起こしたらしいけれど、今は大丈夫なのだろうか……と、視線だけ女性に向けていたのだが、不意に女性の口元が……笑っていたように見えた。そして、口が小さく動いたのだ。


『見つけた。……逃がさないわよ』


 そう、聞こえた気がした。

 女性は、かなり遠い位置にいたし、本当にそう言ったのか分からなかったのだけれど、確かに、そう言ったように聞こえたのだ……。


 眩しい光の先を抜けると、いつもの庭園。まるで、天国にでも来てしまったかのように穏やかで、何でも願えば出てきてしまうような平和な庭園。ここだけ世界が違うかのような……外界の荒れた地がまるで嘘に思えるぐらいに平穏な庭園に戻って来たのだ。


『『ハノメ様!ハノメ様!!』』


 双子ちゃんたちが私の名前を必死に呼んでいる。それに応えたい、笑顔を向けたいのに……動かない、手も足も……言うことを聞いてくれない。震えは、まだ続いているのだろうか。呼吸は?私、呼吸は普通に出来ている?


『『カグツチ様!ハノメ様をこちらへ!!お早く!!』』


 私の視界いっぱいに広がるのは、池に咲く蓮の花。すると、カグツチさんはゆっくりとだが、私の体を池の中に浸からせはじめていく。

 ……池の、水……?

 ……冷たい、でも、さっきまでは背筋が震えるほどの嫌な寒気のようなものを感じていたのに、それがだんだんとおさまってきた。それにじっとりと掻いていた汗もぴたりと止まってきたし、体の震えもだんだん無くなってきたように……思う。


「……わ、たし……」


 あ、やっと声が出た。さっきまでは手も足も自分の意思ではまったく動かすことができなかったというのに、池の水に触れたところから、どんどん健康になっていくように……何か体にたまった悪いモノが外に出ていくように感じた。


『『ハノメ様!意識は、ございますか!?』』


「……双子ちゃん……あ、れ……私……」


 手を上げようとすれば、池の水に濡れた手を不思議そうに見上げる。私の体、今、池の中にあるの?


「は、は、ハノメさん!だ、大丈夫なのですか!?」


『『……ここまで来れば、大丈夫でしょう。意識も取り戻したようです』』


 おどおどした声のククノチさんと双子ちゃんたちが何か言っているのが聞こえる。それに、他の神様たちも落ち着いたように深い息を吐いていた。ゆっくりと、池から体を起こそうとすると意外にも池は浅いようだ。人が池の中に横たわったとしても完全に浸かってしまうことがないぐらいの水の量。底には簡単に手が届くし、それを支えに体を起こして、やっとここが庭園なのだと気が付いた。


「ったく。心配かけてんじゃねえよ……」


「す、すみません……」


『『一体、何があったのですか!?ハノメ様には注意するように仰いましたよね!?』』


「……申し訳ありません。墓地のような場所に行ったまでは普段と変わらなかったようなのですが……突然、ハノメさんの様子が変わってしまって……」


 双子ちゃんはいつもの穏やかさは何処に行ってしまったのか四人の神々に怒鳴りつけていた。神たちは罰が悪そうに顔を背けたり、伏せたり、そっぽを向いたり、真面目に謝罪をしたりと様々な反応をしていたけれど……私も、自分に一体何が起きたのか分からなかった。

 摩訶不思議な体験、経験をしてしまうのは不安定な世、異能力が存在する世界ありありなのかな、と。でも、実際に主人公みたいな目に遭ったら……怖いですね……。


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