11 人間の住まう集落へ
えっと言い出したのは誰だったっけ……。
私はいろいろと分からないことばかり、もちろん世の中についてのこと。
なので、四人の神とともに外界へお散歩することになりました。
『『では、皆さんを外界へ。……この近くには人の住まう地域もあるようです。そこで人々の生活を見てみたり、どんなことが起きているのか改めて、その目で見てみてくださいませ』』
そう言うと双子ちゃんたちは息もぴったしの呼吸を繰り返していくと、綺麗な庭園の一か所に眩しい光の道が開かれていった。何度か目にしているのだけれど、双子ちゃんたちの呼吸も異能力の一つなんだよね。どういう仕組みになっているんだろう?……不思議だなあ。
「さあ、ではハノメさん。行きましょうか」
もしかして、神のなかでは一番大人?なのかもしれないドグジンさんに手招きされながら私が続いていくと、ヒルコさん・ククノチさん、そして一番後ろからはカグツチさんもついて眩しい道を歩いて行った。しばらく眩しい中を歩いて、外界に出るともちろんさっきまで目にしていた眩しい道は消えて無くなってしまった。再びあの庭園へ戻るためには双子ちゃんにお願いするしかないそうだ。
今、歩いているのは先ほどヒルコさんとおとずれた場所よりは多少は、人の手が入っていそうな場所だった。でも、やっぱり寂しいと感じてしまう場所。空は相変わらず灰色が何処までも続いているし、地面も乾燥していて、植物らしい植物の姿は目にすることができない。こんな寂しい世界ばかりだなんて、この世界で人々は一体どのような生活を送っているんだろうか。
「……生き物の気配が感じられませんね。土の状態も良くないようですし……これでは、良い作物も育たないかもしれません」
不意に、ドグジンさんが足元の地面に片手を当てると難しい顔をして呟いた。
え、神様ってちょっと触れるだけでそんなことまで分かってしまうものなの!?……す、凄いんだな……。
「やーっぱ土のことはドグジンが詳しいモンな!……でも、こんな土ばかりだと……ここら辺の人たちって何を食って生活してるんだ?」
「……まともなモノは何も。そのため、飢饉がどんどん増えていくとされるでしょうね」
飢饉……つまり、食べるモノが無いから飢えてしまうってことなんだ。そうしたら……そんな生活が続いてしまったら、生きていくことだって大変になるんだろう……。飢饉が続いた先のことを考えるとどうしてもぶるっと体が震えてしまう。死、が……こんなにも目の前に感じられるなんて……私のいた現代社会はなんて恵まれている時代なんだ……と、改めて考えさせられることになってしまった。でも、私があれこれと考えたところで、この状態が良くなるものでもないんだよね……心はとても痛むけれど、ドグジンさんに続いて先に進んでいった。
「……ここは、小さな集落ですか……」
私たちが立っているここはどうやらちょっとした坂の上になっているらしく、視線を下げればいくつかの住居と思える建物があった。ちょこちょこだけれど人たちの姿も目にすることができる。でも、その人たちは、誰もかれもが本当に生きているのか?と不安になってしまうほどに不健康で、栄養も足りていないんだろう……体の線もとても細く見えた。
「……っ……」
「どうか、目を背けないでください。……自分は彼らのことを知らない人だと思わず、しっかりと今を生きている人たちの生活をその目に入れてあげてください」
思わず視線を集落から背けようとしたときに、ドグジンさんからそう声がかけられた。ツラいから、目にしているのが痛々しいから目を背けようとしてしまったのだけれど……こういうのがいけないのかな。心は痛むけれど、この世界でも必死に生きている人がいる!と改めて息を吐くと集落の人たちの生活を目にしていくことにした。
「……悪霊とか怨霊だけが人々の脅威になってるわけじゃねえんだよ。……飢饉、災害……それらも人々の脅威になってるんだ。俺たちは、そんな人々の生活のために、一日でも早く世の中のバランスを整えなくちゃいけねえんだよ」
しゃがみこみ(ヤンキー座り?)ながらそう呟いていくカグツチさんの言葉に『……分かっています』と呟いた。
「……こうして人のいる集落まで来たのですから、下に降りてみますか」
「ひぃ!そ、そんな……人間のいる所に行くの、ですか!?」
ドグジンさんの提案にククノチさんはすぐさまビビった声を上げていたけれど、こればかりは私もククノチさんに賛成だった。だって、私たちは……。
「まあ、あまり勧められる行為ではありませんが……この世の中でどのように人々が暮らしているのか目にするのも大切なことですよ」
「……まあ、別に俺は良いけどさぁ……じゃっかん、コッチの二人が気乗りしてないみたいだぜ?」
首の後ろで両手を組みながらヒルコさんがククノチさんと私とを見ると、困ったように眉を下げていた。
「……何か聞かれたとしても旅の者、とでも言えば大丈夫でしょう。大丈夫、人たちは襲い掛かってくるようなことはありませんから」
人たちに何かされるというより、人たちの生活を目の当たりにしてしまうことの方がちょっと怖いと感じてしまった。一体どんなツラい生活をしているのか、……その、ちゃんと生きて生活することができているのか……それを想像してしまうだけでもこんなに怖いのに……。
「うだうだ言ってんなっつーの。ほら、行くぞ!」
立ち上がったカグツチさんに片手を取られた私は、引きずられるようにして坂を下りることになった。坂を下りれば、ますます人たちの苦しそうな生活を目にすることになってしまった。生活をしている建物はボロく脆くなってしまっているし、食べ物らしきモノがまったく見られない。一体、どれぐらいの間、まともな食事ができていないのだろう。
「ちゃんと見ろよ。そんで、自分には関係無いことだなんて思うな。ここはお前もいる世界なんだぞ。だから今はツラくても、いつか必ず良い世界にさせてやる!ぐらいの気持ちを持て!」
「……っ……で、も……」
「あのなあ……泣くのは無しだからな?だいたい、今苦しんでいながらも生きているコイツらの方がよっぽど泣きてえんだよ。でも、涙を流さずに毎日を生きてる。精一杯、生きられることを考えて、行動しながらな。だから、お前が泣くのは……おかしいだろ」
つい、涙の膜が浮かびそうになる目に、カグツチさんの言葉からの喝を入れられるとカグツチさんに引っ張られている手とは逆の手で目元をごしごしと拭いて、今ここにある現実を受け入れ、見て行った。すると……。
「!カグツチさん、あそこに人が!」
「あ?……倒れてんな……」
「様子を見てきます!手、離してください!」
「お、おい!」
ぐいぐい、とカグツチさんに引っ張られている手を動かせばあっさりと解放してくれたので、木の根元に倒れている人の近くへと小走りで近寄って行った。……女の人、だろうか……。
「し、しっかり!しっかりしてください!」
息は、ある!
軽く肩を揺さぶりながら必死になって声をかけていくと、その女の人はゆっくりとその閉じられていた瞼を開けた。見た目は、よれよれの服を着ているが、髪の艶は良いし、他の住人よりかは健康そうかもしれない。
「……あなた、は……」
「……えっと、旅の者です。何処か怪我は?具合の悪いところはありませんか!?」
「……あ、いえ……大丈夫です。少し、眩暈がしてしまっただけなので……ありがとうございます」
上半身を起こした女の人は、私の顔をじっと見たかと思うとニコリと柔らかく笑ってくれた。……ここの人、だよね。ここにいたってことは。それにしては……何か違和感が……。
「あの、お大事に……」
「えぇ、ありがとうございます。あなたも、お気をつけて」
眩暈があったというには、今はしっかりとした足取りで集落の奥へと行ってしまった。……大丈夫、だろうか。付き添ってあげれば良かったかな……。
「……今の、ここの住人か?」
「えっと、そうだと思いますけれど……」
いつの間にかそばに来ていたカグツチさんに問われるが、もうあの人は見えなくなってしまった。小さいと思ったけれど、集落って結構大きい規模があるのかな?
四神と散歩へ!
目を逸らさず、きちんと目の前にあることを受け止め、受け入れること。それも大切なことです。それが主人公の成長に繋がってくれると良いのですが……!
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