10 神々の優しさ
自分が情けなくて俯いていたとき、それはそれはゆーっくりとだが、近付いてくる影があった。
顔を上げてみると、その人は『ひぇっ』と声を上げながらも、恐る恐る口を開いてくれた。
「あ、あの……ハノメさんは……その、僕が言うのもなんですが……も、もう少し、自信を持てば良いかと……」
恐る恐るといった顔で、そしてゆっくりと時間をかけながら声をかけてくれたのはククノチさんだった。彼は、緑色の髪と瞳を持つ、『木』属性の神様らしい。彼も他の人とは変わった服装をしていた。なんて言うんだっけ……何枚もの布が合わさって作られている……漢服?っぽい感じ。凄い昔の人たちが着ているような服装をしていた。民族衣装にも近いような感じの服かな。
「自信、ですか」
「は、はひ!……えっと、僕も最初の頃は、上手く力が使えなくて……カグツチさんから『ダメダメ』言われていたものですから……気持ちが分かるんです。でも、今は……その、最低限のことは出来ていると思いますし……ハノメさんには、自信が足りていないのではないかと思ってしまって……」
今も、どこか怯えているような、おどおどしているような感じのククノチさんだけれど、いざ戦いになるとしっかりするタイプなんだろうか。でも、きちんと戦う術を身に付けているのならば心強い。
「あの、ククノチさんは、どんな異能力を使われるんでしょうか?」
「ぼ、僕ですか!?僕は、植物たちを活性化させて……主に植物たちの力で悪霊や怨霊を退治しています」
「植物!凄そうですね!」
何処にでもある植物かもしれないが、その植物を味方にして操れるようになるなんて凄い力だ。やっぱり神それぞれに能力は違うみたい。先代の水の神様は天候を操作していたような話だったけれど……私は、どうなんだろう?
ここにいても、神様がこれだけ揃っていても私の力はうんともすんとも言ってくれない。もしかして素質そのものが無い?でも、双子ちゃんはこの庭園に来られるのは素質がある人だけって言っていたし……素質があるのに、力が生み出せない?ヒルコさんと一緒に、いざ怨霊を目の前にしたけれど、自分が何かできそうな感じは全然無かった。
「ククノチさんの言う通り。ハノメさんには自信を持ってもらいましょうか。そして、焦らない。焦りは禁物、と言うでしょう?大丈夫。今のところ、悪霊や怨霊たちは私たちで退治することができています。ハノメさんはゆっくりで良いのでご自分自身と向き合ってみることからはじめてみてください」
「自分と、向き合う?」
ドグジンさんも私が自分に情けない、とネガティブになっていることを心配したのかフォローの言葉をかけてくれた。
「向き合うことは大切ですよ。自分の心と。今は分からないことだらけ。でも、この場に来たからにはいつかは力に目覚める必要がある。それは一体どんな能力になるかは誰にも分かりません。だからこそ、こればかりは自分自身と向き合う必要があるのです」
心……。いつの間にか、知らない場所(来た所は近所の神社だったんだけれど一気に時代が昔になってしまったって感じに近いのかな)に来てしまって、いろいろなモノを目にしてきて、落ち着く暇も無かったように思う。だからこそ、一度落ち着かないといけないのかな。でも、自分としては落ち着いていると思うのだけれど……。
あれ、そもそも自分の心と向き合うってどうやるんだろう?それが出来れば能力に目覚めることができるようになるのかな?
『『……ふふっ、これだけの神が揃っているのです。困っていればみんなで考え、知恵を出し合う。とても素晴らしいことですね』』
双子ちゃんが私の近くに座り直すと私の両手に、双子ちゃんたちの両手が重ねられた。……小さいけれど、温かい、優しい手だなあ……。
「だーいたい力なんて無い方が良いんだぜ?あー……えっと、今はあった方が良い、のか?えーっと……つまり!神の力ってのは、なかなか拝めないから特別!特別なモノは、そうほいほい誰もが使えるモンじゃないだろ?だからゆっくり時間をかけながら育てていけば良いんだって!」
ヒルコさんも温かい言葉をかけてくれる。しかも、私の背をぽんぽんと優しく叩いてくれるというおまけ付きで。
「あ?……別にお前が戦えようが戦えまいがどっちでも良いんだよ。最終的には世の中のバランスが良くなればそれで良い。……だいたい、俺らが戦えるんだから戦力的には問題無えだろ?戦いのことはコッチに任せて、お前はお前のことをじっくりと考えていけば良いんだよ」
カグツチさんからも温かい言葉をかけられてしまった。初対面で、ちょっと付き合いにくいかな、苦手かな、と思っていたのが嘘のように、優しい言葉をかけてくれる。みんな、優しい。優しすぎるでしょ。私、ただ、ここにいるだけなのに、なんでそんなに優しいんだろう……。
『『ハノメ様。目の前に困っている者がいれば、神だろうと人だろうと手を差し出すことには変わりありませんよ。大丈夫。我々も、なぜハノメ様の力がお目覚めにならないのか調べてみます。もしかしたら、そこにハノメ様の力が目覚めない理由があるかと思っていますので、あなたはドンと座って構えていてください』』
双子ちゃんも柔らかな笑みを浮かべてくれながらそう言ってくれた。嬉しい……凄く、嬉しいです。でも、やっぱり何もできない自分がここにいるだけなんて自分が許せないんです。早く、なにかしたい……何かできることがあるなら、したいんです……。
何もできない自分も悔しいけれど、困っている人がいるなら……世の中のために私が何かできることがあるのなら、力になりたい……そう、思っているんだけれどなあ……。なんで、力って欲しいときにあらわれてくれないんだろう。
「まあ、ここは落ち着くしなあ……あ、でも、たまには外界に出て、あっちの空気だって吸った方が良いんだぜ?ここにばかりいると外界の事情っていうのを忘れちまうからなあ……だから、たまには外に散歩に行こうぜ?もちろん悪霊が出たら、俺の拳でぶっ飛ばしてやるからさ!」
「ヒルコさん……」
「あぁ、それは名案ですね。ここは落ち着く所ですが、どうしても安全であるここにばかりいると危機感を失ってしまいますからね。散歩に行くときには私も同行させてください」
ドグジンさんも散歩に行きたいのだろうか、同行を願い出てくる言葉に『ぼ、僕も……行きますから……』と弱々しくククノチさんも言うと『……仕方無えなあ……行けばいいんだろ?行けば』とカグツチさんも散歩に付き合ってくれるらしい。
ここの神様たち……優しすぎるでしょう。優しすぎて、なんだか泣けてきそう……。もっと、叱られてもおかしくないのに……『早く力を使えるようになりなさい!』とかって怒ってくれても良いのに……なんで、みんなそんなに穏やかに笑っていられるんだろう。
『『……残念ながら、我々はこの場を離れることができないのでお散歩にご同行することはできませんが……四人の神々がいれば安心ですね。荒れた世界のなかを散歩するのもどうかと思いますが、それでも今起きていることを見聞きして、現実を受け入れることも大切なことになりますよ』』
双子ちゃんは、ここから移動できないのか……それは、ちょっと残念。でも、それぞれの神にやることがあるようにこの庭園には双子ちゃんの存在が欠かせないのかも。これだけ素敵な庭園だもん。壊れたりするようなことがあっちゃいけないもんね。
散歩、か……村とか、人がいる所に出掛けることってできるんだろうか。でも、世の中は荒れているんだよね……人たちの生活を見ても余計に心が苦しくなっちゃうだけだろうか……。
が、頑張れ!なかなかにネガティブな主人公を書かせていただくのは、こちらとしても心苦しいところがあったりするのですが、一日でも早く、凄い力に目覚めてくれることを祈っていますよ!!
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