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金目の召喚術師 ~猫狂いは二塔に挑む~  作者: 鼻血魔人
地の塔五層は欲望を喰らう
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「地の塔にて零す」


 地の塔 大地の神ゲガンが、我獣の半数を封じたとされる塔。実際は、塔とは名ばかりに、下へ下へと潜っていく。床や壁は、大地の神の相を表し、石や土で構築されており、舗装されていない砂利道のような場所がほとんどである。よって非常に歩きにくい場所もあり、バランス感覚などを鍛えておかなければ地形によって殺される時もある。また、地下ということも薄暗い。ヒカリゴケのような発光植物や、発光する鉱石のおかげで、完全に暗闇ではないが、自身で明かりを生み出す術を持っていたほうが有利に状況を進めることができる。これだけを聞くと、かなりの難物であり、挑戦者が少ないように思われるかもしれないが、地の塔には多くの挑戦者が押し寄せる。理由は二つある。1つは、天の塔よりも躯結晶を得られる可能性が高いこと。天の塔に現れる我獣よりも、全体的に弱く、そして出現数が多い。結果、躯結晶を得る機会も多くなる。実際に、1層で手に入る我獣甲虫(ビードル)の躯結晶は、明かりとして利用されており、挑戦者たちの小遣い稼ぎとしてよく使われる。そしてもう一つの理由、それが多くの挑戦者を地の塔へと誘い、血に染めてきた大きな理由である。地の塔は大地の相を表す、大地の恵み、すなわち鉱石もまた、そこには現れるのだ。下層へと潜るほどに、希少な鉱石が現れ、そしてそれは、枯れることがない。運よく希少鉱石を得たものは、それだけで1年は暮らせるほどの収入を得ることができる。そのことから、地の塔には多くの民が訪れる。英雄を夢見るもの、食い詰めた貧民、畑を得ることができない農家の三男坊、影の仕事を行うもの、様々な挑戦者が訪れ、そして死ぬ。それはあたかも、甘い蜜に誘われて捕らえられる虫たちのようだ。貴族は、そのような浅ましさを嫌い、地の塔に潜る挑戦者を「モグラ」と侮蔑しており、この場所に潜りに来ることは殆ど無い。地の塔の別名は「欲望の塔」、過去から今に至るまで、多くの欲望を喰らい、また多くの欲望を叶えてきた場所。人の思いが入り乱れた、ある意味では純粋な場所、それが地の塔である。


 「んー。2層までで半月、早い…ほうなのかなぁ。」


 食事を摂りつつ、傍らの相棒に話しかける黒髪緑眼の少年、アルマーオ。やや吊り目ぎみではあるが、どことなくとぼけた印象を持たせる召喚術師である。


 「そうですね。早い方ではあるでしょうが、速さを競っているわけではございません。目的を達するために、どの段階でどこまで行けているか、が焦点でしょう。」


 塩を振らないで焼いてもらった魚の身を、少し冷ましつつ食べるミニシャムのような猫。口についた魚の身を、舌でなめとりつつ、冷静に分析をする。


 「はぅ。食事風景ですら愛らしさの再確認の場所でしかないとは、さすが猫、やはり猫、最強だ猫。生きててよかった!!」


 語られた内容よりも語った存在の愛らしさに当然となり叫びだす少年。この場所に、他に誰もいなければいいのだが、当然そんなことはない。


 「うるせぇぞ!金目!!いつもいつも叫んでんじゃねぇ!!」


 「はあ、ご主人様。時と場所と場合をわきまえてください。無理ですか?無理ですね。では仕方ありません。実力行使で―」


 「待って待って待って!!いや、すいませんハンイさん!!でもクロが素晴らしいから、仕方なってごめんクロ!わきまえるっわきまえるから旋風雷はやめっぎゃあああ!!!」


 「「「「だからうるせぇって言ってんだろうがああああ!!!!」」」」


 ここは、大酒場ヤクシュ。天の塔と地の塔の中央に作られた巨大な酒場。挑戦者はここに集い、ここから踏破を目指し、ここで栄光を称え、ここで死を悼む。仲間を集う場所であったり、依頼を受ける場所でもある。さらには、躯結晶の買い取りや食事の提供、宿屋しての機能も備える。まさに、挑戦者のための複合施設ともいえる場所だ。ただし、地の塔側と天の塔側で入り口は分けられ、内装や施設の質も違う。また、互いの場所で行き来できるのは職員だけ、と。2塔に挑戦する人々の確執を象徴するような場所であったりもする。アルマーオたちがいるのは、食事と酒を提供するスペースだ。彼も、多くの貧しい挑戦者と同じで、このヤクシュにて寝泊りをしているのだ。当然、そこには多くの挑戦者がおり、叫べば迷惑がかかる。アルマーオは、突発的にコネカット、猫を称える叫びをあげるので、良く叱られているのだ。だが、嫌われているかといえば、そうではなく、貴族であるのに貴族ぶらず、また貴人税を自身で賄わねばならないという事情も知っている先達たちは、この奇妙な10歳の少年をかげながら応援しているのだ。また、そういった事情がなくとも、アルマーオにはどこか放っておけない危うさと愛らしさがあるので、構われていたであろうが。


 「ごめんなさい、ごめんなさい!うぅ、ほんとすいません。」


 「ご主人様、美味な食事は静かに嗜む、これは基本です。」


 「いや、最後の悲鳴はクロのせい…うん、なんでもないよ。はぁ、猫に虐められるのもまた至福ッ!っとと、よし、さすがに脱線はここまでにしてっと。クロ、一応目的をもう一度確認しようか。」


 「初心忘るるべからず。良きことと思います。」


 居住まいを正して、アルマーオは、クロと共にここまでの道のりを、そしてこれからの展望を確かめ始める。


 「まず、一番大きな目的は2塔の制覇、これはヒラヒトさまからの使命。ただ、これは今の最優先じゃあない。今、僕たちが優先すべきなのが」

 

 「一等貴人税の納入、ですね。」


 「そう、一等貴人税金貨100枚。1回なっちゃえば、こんなに重たくはないらしいけど、認定にはこれを納める必要がある。まあ、一等貴族になんかなりたくないんだけど、ならないとクロは聖獣コネカットだから、僕の召喚獣として共にいられなくなる…」


 「まあ、なんとも無茶な言い分ではありますがね。一度は没落したコネカット家の復興を認めさせるには、それくらいの大義名分が必要だ、ということでしょうか。」


 貴人税、それは貴族が納める税金。民を搾取するだけの貴族は貴族にあらず、身を削る覚悟を持つべきだ、との覚悟から生まれた制度である。聖鍵都市ケンカードでは、一等から三等までの貴族がおり、政治の中枢を握るのは、ほとんどが一等貴族たちである。そして、クロは、今や絶滅したとされる、ケンカード発祥に深くかかわる聖獣コネカットである。そのため、生半可な存在が使役していい存在ではない、との意見が多く出ている。10歳の少年に使役する権利を与えるなど、元一等貴族であっても認めない、とした勢力がいるのだ。そのほとんどは建前であり、昔の貴族が力を取り戻すことを良しとしないだけであるのだが。16代聖鍵王エイシン=コウハ=ケンカードは、表向きはそういった貴族の追及をそらすために、貴人税を一人で納めよ、との無茶な命令を下したのだ。実際は、アルマーオが、ケンカードにとって有益な存在であるかを試す試金石としているのだ。かなり人を食った性格の王である。ちなみに、コネカット家が没落してしまったのは、絶滅したであろうコネカット(猫)を追い求めたこと、そして歴代の当主が大して貴族の地位に興味がなかったこと、が理由である。


 「でまあ、3年で納めろ、という無茶な要求ではあったけども、天の塔5層を3年でクリアできれば3年間期限を延ばしてくれるっていうし、良心的…かなぁ。」


 「ご主人様は人が良すぎる阿呆ですか。天の塔5層といえば、貴族の子息が18歳になったとき、大勢の供を引き連れて1年以上かかって到達する階層です。10歳の小僧と1匹の召喚獣にやらせるものでは決してございませんよ。」


 「うぐ、まあね。あの人の性格が悪いってのは理解しているんだけども。いかんせん、認定試験認めてもらった立場だしねぇ。強くも言えないよ。」


 「それはその通りですけどね。さて、では何故我々は地の塔に潜っているのか、という所でしたね。」


 「ああ、そうだった。理由は一つ。」


 主従の目が合い、声がピタリと重なる。


 「「お金」」


 お互いに苦笑いをしながら自分たちの現状を分析する。


 「武器と盾は、退学するときに記念品という形で先生からもらった少し良い十字棍棒とカイトシールド。革の胸当てはお父様のお下がりだし、他は普通の布の服。こんな装備じゃあ、天の塔には潜れない。だけど、装備を整えるには資金が必要。そのお金が、まあ全くない。」


 「実家にいることを禁じられてしまいましたからね、食費、装備の修理費、挑戦にかかる諸道具の経費、宿泊費もございますし、他にも諸々のお金がかかる以上、装備など揃えるお金はありません。」


 貴人税を納めるということが非常に遠い道のりであることを改めて確認することで、アルマーオの表情は苦いものとなる。10歳で家を出る、ということがここまで厳しいものだとは想定していなかったのだ。


 「はあ。まあ、そこで資金を集めるために、躯結晶が出やすい地の塔に挑戦することにした、と。ひとまずの目標は、第5層だよね。」


 スプーンを指揮棒のように振るい、アルマーオは足元を指す。


 「その通りでございます。5層には、鉄に近いアゼン鉱石の鉱脈が存在します。汎用性が高く使い勝手が良いので需要は高く、供給が常に不足している状態ですので、ある程度高値で取引されています。鉱脈が枯れることはないので、多くの挑戦者が安定した収入を求めて5層に赴いているようです。」


 魚を食べ終えたクロは、前足で顔をこすり優雅に毛づくろいを始める。


 「はぅ、何て愛らしい光景っ!最高だっ! 我慢だ我慢だぞアルマーオ。飛びついてはいけない!…ふぅ。だけど多くの挑戦者が行くなら、供給は不足しないんじゃないの?」


 自身の欲望を歯を食いしばりながら必死に耐え、疑問を投げかける。その言葉に、アイスブルーの眼を鋭く光らせて、クロは答える。


 「単純です。多くのものが手に入れられずに死ぬからです。」


 地の塔5層は、4層までの難易度とは大きく異なる。様々な種類の我獣が同時に襲い掛かることが多く。生半可な実力では喰らいつくされるだけだ。また、アゼン鉱石の採取できる場所は、広間になっているために多数から同時に襲われやすい、という構造もまた死者を増やしている理由の一つだ。


 「欲をかいた挑戦者が、大量のアゼン鉱石の重みで逃げることがままならなくなり、我獣に殺されることも多いそうです。欲望を誘う蜜を用意しておきながら、欲に塗れれば死ぬ。地の塔5層は、別名『欲望喰らい』と称されます。」


 「聞けば聞くほど、行きたくないね。でもまあ、仕方ない。5層まで行かなかったら、待ってるのは破産の2文字だしね。」


 椅子にだらしなく寄りかかり、天井を見上げるアルマーオ。ため息はつくものの、その瞳の光が衰えたわけではない。むしろ、眼前のこんなに向かって挑みかかっていくような強さを感じさせる。彼の志力は、大人を超える。並大抵のことでは、彼は絶望などしないのだ。


 「で、今日の儲けはどれ位だっけ?」


 「そうですね。甲虫の躯結晶が10、蟷螂の躯結晶が1で、銀貨2枚と銅貨700枚ですね。」


 その報告を聞いたアルマーオは破顔する。これまでで最も高い収穫だったからだ。


 「よっし!蟷螂の躯結晶はでかいね。これでええと、何日分の宿泊費と食費だろう。」


 クロは、しばし上を見て考えた後、結論を出す。


 「まず、1食が銅貨50枚。わたくしとご主人様で一回につき、100枚。朝と晩食べますから200枚。一泊が300枚ですから、5日分でしょうか。」


 その言葉を聞いて、眉を顰めるアルマーオ。思った以上に生活費が資金を圧迫しているのだ。


 「んー。連続して潜れればいいんだけど、2日潜ると1日休まなくちゃいけないからなぁ。」


 塔への挑戦は、ギルドと呼ばれる組織が管理している。ちなみにここ大酒場ヤクシュを運営しているのもギルドである。塔への挑戦は、ある程度の緩さはあるものの、入り口は管理されており、挑戦は2日潜れば1日休みというリズムを守らされる。これは、過去のギルド長が死者数の増加と入場者の数に制限をかけるために定めたものである。文句も当然多く出たが、実際に死者数が大きく減ったこともあり、現在でもこの制度は続けられている。


 「そろそろ装備のメンテナンスを行わなければいけませんし、魔法反応水銀も必要になりますしね。」


 「そうなんだよ!!階位が3になったから、新たな召喚獣をよびだせるんだけど、あれがないと、次の召喚ができないからね…。けど、ちょっと高いんだよなぁ。」


 召喚術が廃れた大きな理由の一つに、準備の困難さがある。魔法反応水銀を用いて精密な回路を作り上げねば、任意の世界から思獣を招くことはできない。しかし、そのための回路形成は緻密そのものであり、多大な時間がかかる。当然、それに用いる魔法反応水銀もタダではない。結論から言えば、現在アルマーオたちは、貴人税を納めるどころか、生活を続けていく限界ギリギリのところに立っているのだ。


 「戦力を強化できれば、もう少し塔の攻略も順調になるんだろうけどね。ううん、ままならないね。」


 「慌てるものでもございません。堅実に、まずは3層への到達を目指しましょう。」


 クロの言葉も、決して現実を変えていくだけの力を持った回答ではない。塔の攻略は進んでいるはずなのに、どこか底なし沼に飲まれていくかのような、そんな漠然とした不安をアルマーオは、ぬぐいきれなかった。


 そして、1か月後、彼らは3層へとたどり着く。これは決して遅いほうではなく、かなり早い方である。喜ぶべき偉業であるはずなのに、アルマーオの表情は暗い。


 「はあ。ここまででかなり盾と十字棍棒の損傷が増えちゃったよ。ここまで来れたのはいいけど、整備代は捻出できるかな?」


 「ご主人様。今回の挑戦では躯結晶がある程度多く出ています。切り詰めていけば可能でしょう。」


 「うん、そうだね。そうだと良いんだけど…。」


 そう呟いた少年の顔は、心細さを感じさせる年相応の表情であった。いかに強い意志を持とうとも、不安全てを拭い去ることは、人にできることではないのだ。ましてや、アルマーオはいまだ10歳の幼い少年である。両親と離れたことも、彼にとって大きな精神的負担となっているのだ。


 「はあ、この先もっと難しくなる。…大丈夫かな、僕たち…。」


 「ご主人様…。」




 地の塔にて、少年は未来への不安を零す。その不安の滴の1つ1つが、やがて彼の心のなかに溜まり落ち、絶望という名の沼を生み出すことになる― 

 1人で生きるって意外と大変ですよね。日本なら食事などいろいろ揃えられますが、この世界ではどうなのか、そんなことを考えながら書いた1話です。


 読んでいただいて本当にありがとうございます。感想評価ブックマーク等いただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いします。

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